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 人と争わないといったところで、朝食の目玉焼きでも、洗面所の使用順でも、通学路を歩く間でも、案外争いの種は転がっているものだ。のろのろと歩く二人組の女生徒を抜かしながら、これも争っているのだろうか、と僕は無体なことを考えていた。

 当たらないと評判の気象予報士の言葉通り、今年はどうやら空梅雨になりそうだった。今日から週末にかけての数日、雲も少ない快晴の空になるだろうと、彼が言った通り、その日も遮るもの一つない爽やかな陽光が降り注いでいた。

 心配とは裏腹に、通学路を歩く僕の決意は全く鈍っていなかった。


 かんかん照りとまでは言わないが、夏を思わせる日差しが当たっている。背中にじっとりと汗をかき始めていた。遠くのほうで柔道部の朝練の声が聞こえていた。正門をくぐると、生徒達の流れから逃れて、僕は野球場がある方角へと歩を進めた。

 夏の大会が、もう始まろうとしている。レギュラーも発表されたのだろう。グラウンドが遠くに見えるようになると、豆粒ほどの人影があくせくと動いていた。その中に目当ての人はいるだろうか、というのは考えもしなかった。

 グラウンドでは野球部員達が黙々と自主練習をしている。誰も僕には見向きもしない。奇特な下級生が下働きにやってきた、とでも思われているのだろう。でも、その中で、ただ一人だけ僕を見ていた。

「そっち、行ってもいいですか?」

 僕みたいな何の決意も覚悟もない人間が、今の彼らに近づいてもいいものだろうか。でも、藤村先輩は大きく頷き、自身も防護用ネットまで近づいてきてくれた。

「やる気になったのか?」

 アンダーシャツが体にぴったりと張り付いている。僕が知っている先輩よりも、一回りも、二回りも大きく感じられる。僕が立ち止まっている間、彼は動き続けていたのだ。

 やっぱりこの人は挫折を知らない。人がもがき、苦しんでいることを知らない。自分と同じペースで、誰でも、何でも、やれると思い込んでいる節がある。僕がやる気になったところで到底敵わないということが、全く想像できていないのだ。

 腹立たしいことだ、と昔の自分なら思っただろう。今も思う。でも、あの時ほどではない。

「まさか。今から入れるわけがないじゃないですか」

「馬鹿言え。いつだって、誰だって、ここに入ることはできるんだよ。でも、ここへ来ないとどうにもできない。幸太郎、お前は初めて自らここに来たんだ」

 この人の言葉は眩しすぎる。いつだって太陽のようで、それに近づけるのは特殊な奴らだけなのだ。僕のような人間が迂闊に近づくと、焼けて、灰すら残らない。

「一勝負、してもらえませんか?」

「もちろん。勝ったら何でもしてくれるのか?」

「雪と別れる以外のことは」

 ほんの僅かだけど、先輩の表情が曇った。でも、すぐに清々しい笑みに戻って、大きく一つ、頷いた。

「なら、野球部に入ってもらうかな」

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