10
「ねえ、雪?」
「心配しなくても、お昼には戻るわ」
「違うよ。君に聞きたいんだ。僕さ、うまくやれているかい?」
「恋人として?」
「それもあるし、君の友達としても」
少しだけ間があった。その時間が、僕の失態の数と比例しているのだろう。もういいよ、と言おうとした瞬間、雪は厳しい表情を和らげた。
「四十点ってところね」
「赤点ではないみたいだね?」
「最低限よ、最低限」
僕は大きく息を吐いて、天を仰いだ。ベンチの背もたれに体重を預けると、ぎしぎしと壊れそうな音がした。
「そんなこと、気にしていたの?」
「大した話じゃないんだ」
そう。大した話ではない。僕の心をじくじくと痛ませるものを、少しだけでも晴らそうと思ったのだ。しかし、現実は非常だ。僕の頑張ったは、別の誰かの普通でしかない。
雪が咳払いをした。視線を向けると、彼女はまた駅前の方を見ている。彼女の声は風にかき消されそうなほど小さかった。
「深川君と、あまり深く付き合わないほうがいいわ」
「どうして彼のことだって?」
「だって、彼の話題になると、いつも笑顔がひきつってる。私と手を繋いでいる時より酷い顔をしているもの」
本当にそんな顔をしているのだろうか。僕はいつだって、爽やかな顔をしていると思っている。だが、雪は、文字通り失笑といったていだった。
「時々、本当に見るに堪えない顔をしているからね?」
「あんまり言うと、僕だって泣くからな」
また、しばらく沈黙があった。
僕達の間を埋めるように、サッカーをする生徒達の声が流れてくる。それに紛れて車や風の音、そして教師の話す声も聞こえてきた。
僕はこの時間が好きだ。話していなくとも、互いの存在を確かめ合えるこの時間が。雪はどうだろうか。無表情に戻って、遠くをじっと眺めている。
「……深川君と今の関係で付き合っていきたいなら――」
「ん?」
「――もう少し駄目なところを見せないとね」
不意に雪がにっこりと笑った。
「奴に助けてもらえるから?」
「それもあるわ。でも、あなたの自尊心が保たれるようになるわ」
僕は息を飲んだ。
雪の言葉が残酷だからではない。まだ僕の中に、得体のしれない何かがあることに気付かされたからだ。それは闘争心と呼ぶには歪み過ぎていて、負けん気と呼ぶには汚れすぎている。しかし、嫉妬と呼ぶには清らかな、名前のつけようがない感情だった。
けれども、僕の中で判明したことがある。
僕はまだ、あらゆる物事に対して諦めの気持ちを受け入れ切ってはいないらしい。
誰かを見て、勝てるところがあるのではないかと探してしまうところがまだある。
でも、こうして僕が考え込んでいる間にも、深川は前に行く。その背中は徐々に小さくなり、見えにくくなっている。
「……一番の問題は、僕がその事実を受け入れられるか、ってことだね」
「そうね。でも、あなたの望む通りになるわ」
だから問題なのだ。




