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大きな一枚ガラスから入る日差しが強くて、久々に人前に出てきた僕は頭がくらくらした。決して引きこもりだったのではない。本職の仕事が繁忙期を迎え、一人で仕事をする機会が増えてしまった結果、積極的に人生を浪費する性質でない僕は、あえなく社会から一時的に孤立する羽目になっただけなのである。
世界はあまりにも眩しい。
象牙色に統一された建物の中も、金糸で縁取られた赤い絨毯も、頭上で揺れる水晶のシャンデリアも、その中を歩く煌びやかな人々も、彼らが紡ぎだすざわめきも、全てが僕の神経を逆なでた。
でも、それは決して嫌な感覚ではない。
たぶん。少なくとも、上司に上手くいかなかった仕事を報告する時のような、胃を苛まれる感覚は全くなかった。
今日は、大事な人の結婚式だった。だから、元から華やかな顔立ちをした人々も、ジャングルの色彩豊かな花のように素晴らしい色合いのドレスや一張羅を身につけて、弾けんばかりの笑みを浮かべている。
全く、僕は場違いじゃないかな。
彼らがつけている腕時計の数十分の一の価値しかないダークスーツに身を包んで、行きがけに買った白いネクタイを締めている。まあ、ネクタイは持っているんだけど、家に忘れてきてしまったのだ。ついでに言えばハンカチも忘れた。ティッシュはかろうじて駅前で入手した。
いつまでたっても僕は駄目な人間だな、と自己嫌悪に陥りそうになる。でも、昔ほどではなかった。内心では自己嫌悪しながら、受付をしている若い女性には、ぎこちない笑みを浮かべられるくらいには冷静だった。
「では、受付を済ませた方はこちらへどうぞ」
羊飼いの持つ鈴のように、若いホテルマンの清らかな声が流れてくる。
こういうのは高砂に近い場所から、遠ざかるにつれて徐々に親密度が薄れていくと考えていいだろう。そうなると、入り口にほど近く、備え付けのバーの真正面という、全く目立たない位置にある僕の座席は、どう考えればいいのだろうか。
八人分の席が用意されたそのテーブルに、まだ人はいなかった。割り当てられた席に腰を下ろすと、ぼんやりと、光に紛れて高砂が見える。他の席にはちらほらと人がいて、おそらく同業者なのだろう。和やかに歓談している。その一方で僕の周りはしんと静かで、薄暗く、たった一人であった。
今日は、他の友人達と来る予定だったのだが、生憎、遅れているらしい。だから時間に正確な僕だけが、こうして寂しく席に座っているわけだ。
……恨み言はここまでだ。
それまでの何十回か、僕がそちら側の立場だったのだから。たった一度の成功で、得意げな顔をするのはまずい。
黙って座っていると、色々なところで紡がれる囁き声が聞こえてくる。誰も彼も笑顔で、主役の人柄を現しているようだった。
本当に、今日という日を迎えられて、僕は安堵していた。