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第6話 自己紹介とコーヒーブレイク

 崩れかけの建物が並ぶ廃基地。荒れた滑走路の上にツインローターを装備した軍用輸送機が一台だけ停まっている。


 奪還目標を見つけた俺たちは、その近くにエクスタムを停め、コクピットハッチを開けた。


 先行していた桜狐のパイロット――エリーが艶やかな長い黒髪をなびかせながら拳銃を片手に地面へ飛び降りる。


 その身のこなしは、訓練された軍人のように丁寧かつ迅速。黒髪美人の印象と合わさり、凛とした所作とも表現できる手慣れたものだった。


 俺も座席横から拳銃を取り出し、エリーに続いて輸送機の後部ハッチへと近づいていく。


「静かですね、中は大丈夫でしょうか」


「宝箱は開けてみるまでわからねぇってな」


 外部操作でハッチをこじ開け、エリーの手信号に合わせて貨物室の中へ突入する。


 拳銃を構えた先で動く複数の人影。


 しかし、それらはしゃがみ込んで何か作業をしているようで俺たちに気がついていない。


「よし、これで解除完了っと。あいつらも手の込んだことをするねぇ……」


 やれやれと顔を上げた作業着姿の男が、俺たちを見て硬直する。それは恐れから生じたものではなく、ただただ言葉を失い呆然としているような、そんな表情だった。


 この気の抜けた対面にうまく言葉が浮かんでこない。


「あー、ええと…………」


 言葉に詰まる俺をフォローするようにエリーが続ける。


「私たちは救援依頼を受けた傭兵です。機内に襲撃犯は隠れていますか?」


 男たちは顔を見合わせ、一呼吸あけてから歓声をあげた。


「っ、あんたたちが救助隊か。恩に着る! 俺たちを襲った犯人はあのエクスタム乗りの二人だけだ」


 つまり今のところ、この基地内を含めて敵はいないということか。ひとまず機内の安全は確認できた。警戒をといて、拳銃をホルダーにしまう。


「驚かせて悪かった。ところで、それ何もってんだ?」


 俺は男が手にしていた四角い箱のような物を指差して尋ねる。


「ああ、これは爆弾だ」


「「爆弾!?」」


 エリーと声が重なる。男の話を聞くに、敵の傭兵たちが仕掛けていったものだが、爆薬の無効化は完了しているとのことだ。


 エリーが確認のため、その爆弾に近づく。どうやら正しく処理されているらしい。俺は爆弾解除の知識がないので、素直に従う他ない。


 暇があったら爆弾について勉強しておくか。そんな心にもないことを考えながら一人あたりを見回していると、前方の扉が音を立ててゆっくりと開かれた。


「そろそろ終わった頃かね君たち」


 扉から現れたのは白衣を身につけた銀髪の女性。大人びた雰囲気を放っているが、その顔立ちは幼く、口元に浮かべた薄い笑みと猫のような鋭い黄色の瞳は、どこかいたずらっ子のような印象を覚えた。


「あ、主任! さきほど解除作業を終えたところです」


「ご苦労。インスタントで済まないが、コーヒーを作ってきた。ゆっくりと休んでくれ」


「主任特製のインスタントコーヒーですか! ありがとうございます!」


 作業着の男たちは彼女から紙コップを受け取り休憩を始める。主任と呼ばれた彼女は離れて突っ立ていた俺たちにもコーヒーを渡しに寄ってきた。


「君たちが救助に来てくれた傭兵だね、素早い対応に感謝するよ。ありがとう」


「感謝されるほどでもない。これも仕事だからな」


 差し出されたコーヒーを、どうもと一礼し受け取る。しかし、一口すすったところで思わず吹き出してしまいそうになった。


 この世のものとは思えないほど、苦い。舌に広がる黒い液体には、手にしたこれが本当にコーヒーなのか疑問に思うほど刺激的な苦味を含んでいた。


 隣で飲んだエリーもほとんど表情に出さなかったが、かすかに顔をしかめる。一方、先に飲み始めていた男たちはこれがたまらねぇんだ、と言わんばかりに豪快な飲みっぷりを見せていた。


 当然、目前にいる彼女も何ともない顔で最後の紙コップを口づけてる。主任特製というのはこういうことだったのか……。


「自己紹介がまだだったね。私はアーシャ・オルテイン。この派遣チームの第一主任を担当している」


「グランストン私設傭兵局からきた星宮カイトだ、よろしく頼む」


「独立傭兵団”四柱”のエリー・マシュリナです。よろしくお願いします」


「ああ、よろしく。さて、それじゃあ本題に入ろうか――」


 アーシャがこれからの話を広げていく。彼女は、なるべく早くこの場所から離脱するべきだと提案した。それは、傭兵たちがこの基地に輸送機を離陸させた意図を考えると、この場所こそがクライアントへの引き渡しポイントだったと予想がつくからだ。


 そう仮定するならば、すぐにクライアントの部隊もここに到着するだろう。鉢合わせる前に離脱するのは、とても賢明な判断と言える。


 俺とエリーもそれに同意したことで、休憩時間は終わり、全員が離陸の準備に取りかかった。


 外に停めていたフラムベルジュを貨物部の空きスペースに格納する。先程まで休憩に利用していたこのスペースは丁度エクスタム二機分であり、元は護衛機のエクスタムが置かれていた場所だと言う。


 そして貨物部の最奥にはもう一つ、シートに覆われて全貌が見えない大きな物体が収められていた。


 中身がとても気になるが、わざわざ見えないように細工されているあたり関わらない方が身のためだ。


 俺はその物体の横を通り過ぎて、前方の部屋に移動した。


「それでは、離陸を開始します」


 簡易的な座席に腰掛けると、機長のアナウンスが流れる。俺は目を閉じ、次の戦いに備えた。


「防衛戦、か……」


 ふわりと浮かんだ輸送機はツインローターの回転数を上げ、夕刻の空へと溶けていった。

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