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第5話 交差する刃

 高原という地形は見晴らしがよく障害物も少ないため、格闘主体のエクスタムは敵との距離をいち早く詰めることが重要となる。


 檸檬レモン色のエクスタムが真っ直ぐ俺に向かってくる。両手には三メートル級の双剣を携えていて、それ以外の武器が見当たらない。近接機といえど、ここまで極端な武器構成は見たことがなかった。


 俺は右手に長剣を展開して、双剣の一撃を受け止める。刹那、剣戟の音が空高く響き渡った。


『ヒャッハー! お前の相手は俺様だァ!』


「付き合ってやるが、手加減は期待するなよ」


 受け止めた双剣を弾き返し、姿勢を崩した敵に左手の短機関銃を放つ。しかし銃弾はエイジェントが後方に大きく跳んだことで全て避けられてしまう。


 敵の奇声から想像するに攻撃重視の戦闘スタイルかと思いきや、意外にも回避行動まで頭が回っている。これは苦労しそうな相手かもしれない。


 接近戦は敵に分があると判断し、俺はブースターで素早く後退しながら銃弾をばらまく。一般的に”引き撃ち”と言われるこの戦法は近接機に対してかなり有効な攻撃である。しかし――。


 規格外に跳ねる銃口。放たれた銃弾で形成した弾幕は隙間だらけで、再度突撃してきたエイジェントにあっさりと突破されてしまう。


「武器屋のやつ、不良品流しやがったな!」


 次第に詰められていく距離。双剣の攻撃圏内に入るのも時間の問題か。射撃武器が使いものにならない以上、近づいて仕留めるしかない。


「面白い、やってやろうじゃねぇか」


 俺は短機関銃を放り投げると同時に、勢いよく踵を地面に押しつけ急制動をかける。急激な減速と脚部への負荷でメインフレームは軋みをあげた。


 相対的に急接近したエイジェントは判断が遅れたのか、一瞬の隙を見せる。そこに両手で握った長剣を横から思いきり振り込んだ。


 鈍い金属音と確かな手応え。しかし、直撃ではない。エイジェントは咄嗟に双剣で防御の構えをとり、本体へのダメージを最小限に抑えたようだ。


 エイジェントが地面を転がり再び距離が開く。また同じ展開に持ち込まれないよう、今度はこちらから仕掛ける。


「攻守交代だ、うまく踊れよ!」


 砂煙の中で立ち上がるエイジェントに突撃する。相手のペースを崩すように連続で長剣を叩きつける。


『手数なら負けねぇんだよォ!』


 エイジェントも負けじと双剣で舞う。多彩な剣技に加えて、時折見せる回避行動。やはり重量のある長剣では双剣の身軽さに対抗するのは難しい。


 次第に攻撃のチャンスは減っていき、気がつけば俺は防戦の構えになっていた。


「やっぱ攻めきれない……か、どうする?」


 戦闘を開始して三分弱。コクピットモニターを睨みつけながら思考を巡らせる。


 エイジェントは元々、隠密からの奇襲を目的に製作されているため極端に装甲が薄い。つまり長剣を機体に当てることができれば、難なく倒せる敵ということだ。


 しかし相手もそれを警戒していて、直撃コースの攻撃は恐るべき反応速度で回避されている。それこそ、直感で避けているのかのような反応速度でだ。


 攻撃が読まれているのか。確かに、ここまでの戦闘で敵にダメージを与えたのは奇襲の一撃のみ。可能性は十分に存在する。


 奇襲の方法はなくはない。あとは回避行動さえ何とかできれば。そのとき、ある予感が脳裏を横切る。


「……ん? こいつ、後ろにしか避けてないんじゃないか?」


 そうだ。敵の回避行動はその全てが後ろ方向への跳躍。パイロットの手癖がエクスタムの動作に現れているのだ。


 途端に敵の動きが少ないパターンで構成されているように見えてくる。これなら敵の優位を崩すだけでなく、決着までもっていけるかもしれない。


 タイミングを見計らい息を潜める。そして、予想通り斬撃が浅くなる瞬間がやってきた。


「今っ!」


 半身を捻ると、胴体の寸前を剣が通過していく。攻撃の回避はできた、ここから一気に畳み掛ける。


 回避と同時に高く掲げていた長剣を勢いよく振り下ろす。


 敵のコクピットを狙った一撃は、当然ながらバックステップで回避されてしまう。


 それでいい。俺は長剣を加速させ、その勢いのまま地面に叩きつけた。


 砂煙が周囲に舞い上がり、メインカメラを覆う。視界が悪くなった今こそ、奇襲のチャンスだ。


 長剣を手放し、バックステップしたはずの敵に近づく。


 数歩すすんで砂の壁を抜けたとき、無防備なエイジェントが目前に現れた。


『なにィ!』


「悪く思うなよ!」


 左腕の追加装甲。その中に仕込んでいたバトルナイフを取り出し、コクピット横のジェネレータに向けて突き出す。


 姿勢を崩していたエイジェントは避けれない。敵は苦し紛れに、右腕をジェネレータの手前に滑り込ませ、ナイフの一撃を防いだ。


 ジェネレータを失えば、エクスタムは停止する。それに比べて右腕の損傷だけで済むのであれば安いものだ。


 ナイフ攻撃をしのいだエイジェントは、距離を開けようと後方上空に飛翔する。


「逃がすか!」


 俺は手放した長剣を拾い上げ、エイジェントに向けて投擲する。


 一直線に飛んでいった長剣は腰部に当たり、エイジェントはバランスを崩して地上に落下した。


 落下の影響かエイジェントの動きはどこかぎこちなく、こちらの動きに反応できそうにない。これで終局だ。


 ナイフを片手に再び躍りかかった、その時コクピットに警告音が響いた。


「ッ!」


 攻撃を中止し、その場から急いで離れると、上空から数発の銃弾が着弾した。


『ふむ、いい腕だ。ダニールには荷が重かったか』


『兄貴!』


 深緑のエクスタム――バルザー3がゆっくりと降下してくる。


『我々の完敗だ、傭兵。我々はこれ以上に戦闘を望まない。この程度の依頼に命をかける必要もないだろう』


「ああ、好きにしろ。背中を撃つほど俺も外道じゃない」


 俺たちの依頼は輸送機の奪還であり、敵の撃破ではない。遅れてやってきた桜狐も、状況を察して攻撃を止めている。このあたりが潮時だろう。


『理解感謝する。行くぞ、ダニール』


 バルザー3とエイジェントは空に浮かぶと、東に向かって退却を始める。その背中が見えなくなるまで、数分もかからなかった。


『すみません。バルザー3を逃してしまいました』


「悪いのはアンタじゃない。こっちもエイジェントに手間取っちまった」


 とりあえず基地に向かうか、と桜狐を促し俺たちは再び北に進路を取る。大きな被害もなく、ひとまず戦闘を終えたことに安堵しながら。

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