第4話 ワース兄弟
輸送機が廃基地に到着してから程なく、私は輸送機を襲ったエクスタムのパイロットに連れられ、途中で合流したもう一機の仲間のもとへ向かっていた。深緑色のエクスタムを見上げ男が声を上げる。
「兄貴! 連れてきたぜ!」
「ああ、今行く」
エクスタムのコクピットから飛び降りて来たのは、迷彩柄の戦闘服を着た中年男。彫りの深い顔に赤のフェイスペイントを施し、スキンヘッドと合わさって強面の印象を受ける。
「お前はエイジェントを起動して待機しておけ、もちろん輸送機の見張りも忘れるな」
「ういっす! 兄貴!」
私を連れてきた男は来た道を戻っていく。二人のやり取りを見るに案内役の彼が弟なのだろう。もちろん実の兄弟とは限らないが。
「ご足労感謝いたします、アーシャ開発主任殿。私はワース兄弟が兄役、ロンベルと申します」
厳つい顔に似合わない丁寧な言葉遣いに、私は困惑しながら返す。
「これはご丁寧にどうも、ロンベル殿。それと無理に畏まる必要はない、そのほうがお互いに話しやすいだろう」
「……承知した。では、そうさせていただく」
ロンベルは一呼吸あけてから本題を切り出した。
「クライアントの命令はお前たちの確保だ。我々はお前たちに危害を加えるつもりはない」
「何故そんな情報を与える?」
「殺されると考え、逃走を企てたり錯乱して抵抗されたりするほうが厄介だからだ」
「見た目にそぐわず随分、慎重じゃないか」
「兵たるもの作戦には常に万全を期せ、それが俺の信条だからな」
なるほど、なかなか面白い考えの持ち主のようだ。彼らが不出来なら、上手く出し抜いてやろうと考えていたが、これでは私たちだけで行動を起こすのはリスクが大きい。やはりここは救援を待つしかない。
ロンベルがコクピットから持ち出してきた端末を操作する。するとエクスタムの背中に搭載されたレーダーアンテナが展開される。
「用心深いな、私たちに救援が来ると思っているのかい?」
「そうだ。お前の落ち着きようからして、確実に救援要請は送られているだろう」
もっと怯えるべきだったか、これは反省だな。
「それに――」
ロンベルが続けて何かを告げようとしたとき、端末から電子音が鳴る。ロンベルはそれを確認してから言葉を続ける。
「それに、既にこちらに向かってきているエクスタムの反応をキャッチしている。……ふむ。桜狐を送り込むとはヴァンデンも本気のようだな」
要請を出してから半日で救援部隊を派遣するとは、ヴァンデンも中々やるではないか。私は、これから世話になる企業国の行動力に舌を巻いた。
コクピットに戻ったロンベルは通信機を起動する。
「ダニール、敵が向かってきている。数は二つ。一つはヴァンデンの狐だ」
『きつね? 強いのか?』
「ああ、俺とてまともにやり合うのは五分が限界だろう」
『そうか、わかったぜ、兄貴! 俺が五分以内にもう一機を落とせばいいんだよな!』
「話のわかる弟だな。……先に行け、後で追いつく」
エイジェントが空を舞い、基地から離れていく。ロンベルが深緑のエクスタム――バルザー3のコクピットから半身を乗り出して私を見る。
「先に言っておくが、輸送機の中に遠隔爆弾を隠しておいた。妙な真似をすれば、取り返しのつかないことになるぞ」
どこまでも慎重な男だ。言われなくても逃げたりしないというのに。やれやれ、と手を振ってみせるとバルザー3はゆっくりと立ち上がった。
私が輸送機の方向に戻ったのを確認してから、バルザー3はエイジェントの後を追うようにして基地から出撃していく。
私たちも行動を始めなければいけないな。
彼らを見送った私は、静かにポケットから通信端末を取り出した。
「さて、聞こえていたかね君たち」
輸送機の中では、号令を待つように数人の技術者たちが複数の工具を用意して待機していた。
「――まずは爆弾探しから始めようか」
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