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第3話 二つの影

 今から約三百年前。莫大な資産と圧倒的な地位を手にした巨大企業が国家の上位存在となり、国民生活の大半を支配するようになった。後に七つの支配圏が生まれ、人々は”企業統治体制”のもと、何一つ不自由のない生活を送っていた。


 ここリベル高原を有していたチェルニア連合も、そんな企業によって統制された国の一つだった。少なくとも数十年前までは――。


 高原上空を進み、合流地点まであと数キロというところでレーダーがエクスタムの反応を捉える。詳細情報をモニターに表示し、そこに映し出されたエクスタムの姿に俺は目を丸くした。


 淡い桃色に塗装されたエクスタム――ハイドランダーのカスタム機とその右肩に描かれた狐の識別印エンブレム。それは、紛れもなくヴァンデンが有する最高戦力の一人【桜狐】の姿と一致した。


『作戦協力に感謝します、傭兵。私はエリー・マシュリナ。以後、お見知りおきを』


 通信回線を確立すると、聞こえてきたのは女性特有の透き通った声。予想外の展開の連続に、驚きを隠せない。


「まさか味方が”四柱”の一人だったとはな。俺は星宮カイト、よろしく頼む」


『よろしくお願いします、カイトさん』


 軽い挨拶を終え、目標地点である軍事基地へ移動を開始する。ここから五十キロほど離れた位置にあるその基地は、チェルニアが滅んだキッカケとなった内戦の発端の地として有名で、今なお取り壊されることなく放置されている。


 かくゆう俺も、訪れるのは三回目になる。一度目は軍学校に在籍していたとき、二度目は軍属時代の防衛任務でだ。あの頃は自分が傭兵になっているなんて思いもしなかったな。


『……ところでカイトさん。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?』


「ああ。別に構わないが」


『フラムベルジュは近距離向けのエクスタムだったと記憶しているのですが、それにしても武装が少し貧弱ではありませんか?』


 彼女の言う通り、現在のフラムベルジュは左手の短機関銃と右背部に懸架した長剣のみという超がつくほどに軽武装である。


「休暇中のスクランブルだったんだ。まあ、任務遂行に問題はないさ」


『武器、お貸ししましょうか?』


 桜狐が手にしていた突撃銃を掲げてみせる。


「気持ちだけで充分だ。というか射撃は苦手なんだ」


『そうでしたか。私も近距離武器を積んでこればよかったのですが』


「桜狐は遠距離主体のエクスタムだろ。ならアンタの武装は実際正しい」


 桜狐の武装は二丁の突撃銃と予備のガトリング砲。加えてありったけの多弾頭ミサイルを積んだ重量機だ。その戦闘スタイルは遠距離からの爆撃が主で、俺の駆るフラムベルジュとは対極に位置している。そもそも武器の共有が行えるほうがおかしいのだ。


「なあ、俺からも一つ質問していいか?」


『ええ、どうぞ』


 彼女が属する”四柱”はテムズ上層部の命令で動く、傭兵団という名の独立部隊だ。つまり彼女は今回の作戦について俺のような末端の傭兵より正確かつ詳しい情報を持っている。例えば、輸送機の積載物なども知っているはずだ。


 俺がそれを確認しようとしたとき、通信機から慌ただしい声が流れる。


『敵機視認! 総数、二』


 コクピットモニターの遙か向こうに見える廃基地から、二つの光点がこちらに向かって近づいてきていた。


「了解、こっちでも確認した。敵が二体いるなんて依頼には書いてなかったんだけどな」


『一直線に向かってきているということは、もうバレてるみたいですね。どうします?』


「初対面で連携戦は難しいだろうから、敵を分断して各個撃破のほうが楽じゃないか?」


『同意見ですね。では、私が射程の長いほうを狙います』


 作戦を確認しているあいだにも敵との距離は縮まっていく。その距離三千メートル弱。先手をとったのは敵のエクスタムだった。発砲の瞬間、俺は機体を横に滑らせると、元いた場所を大口径の銃弾が通過した。


「この距離、射手マークスマンか。厄介な相手だな」


『レーダー範囲に捉えました。エクスタム照合、エイジェントとバルザー3です』


 エイジェントはフラムベルジュと同じく近距離向けのエクスタムであるため、正確な射撃は不可能である。故にバルザー3がマークスマンで間違いないだろう。


「バルザー3は任せる。俺はエイジェントを叩く」


『承知しました。健闘を祈ります』


 進行方向を二つに分けそれぞれに敵機を誘導する。といっても俺には使える武器がなく、実際は桜狐がバルザー3を牽制して引きつけた形だが。


 俺も負けていられないな。敵――エイジェントを前にして俺は改めて操縦桿を握り直した。

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