第 3 話 二人のおかしな能力
思い出しながら、未だに納得がいかないと思いつつも、携帯の通知音は鳴り続ける。
【ピロン】
今まで一緒に働いていた栂崎に何も言わず、勝手に辞めてしまった類は、結局やはりオーディションを受けるとは言えなかった。栂崎が平羽河の提案に乗ってしまった今、無理やりにでも自分を納得させないといけない。
オーディションを受けると伝えたときの、栂崎のあの微妙な表情を一度見てしまってから、栂崎に強く何も言えなくなってしまった。今まで三年間いた中で、一回も見たことない表情だったからだ。
類の中で、異性としてではなく、同じゲームの職場仲間として接してきた。
それでもなぜか、栂崎のあの顔を見てから“丁寧に優しくしないと”と初めて感じた。
いろんなことを考えていたら、スタンプでも沢山張り付けてきていたのかメッセージ件数が50件を超えていた。いずれも同じ人物から送られてきているのだが。
(もうゲームもインストールしてあるし、栂崎のこともあるし、引き戻せないよな。)
類は携帯を再度開き、50件のメッセージに既読をつけた。
【《ひらはが》:あ!!きどくついた!】
【《ひらはが》:ぐれーとぞーん、わからないです!おしえてください!】
【《ひらはが》:わたし、ひかりのうりょくなんですけど、どうやってつかえばいいんですか?】
【え、っと…俺がそこまで進めてないから、俺が初期設定したあと世界で合流しようか】
【《ひらはが》:はーい!】
平羽河はもうGZNに登録しているようだった。
自分も平羽河のわからないと言っていたことを確かめようと思い、ユーザー登録するためにいつものマスクを着用して、GZNを目で選択し、世界に入るために目を閉じ――。
―――――――――――――――――――――――
[こんにちは、GZNへようこそ。見たことないお顔ですね、初めての方ですか?]
――入れた。眩しい光の後に徐々に周りが見えてきて、意識が芽生えるこの感じ。新しいゲームでもこの流れは改善されないことを少し残念に思いながらも、目の前に文字表示されている画面に「はい」と声に出して答える。
[お名前を1~15文字以内で登録してください]
「ルイガ」
[ルイガ様。ご職業をお決めください。尚、後からの変更は条件つきになります。▽]
三角マークをタップすると、一通りの職種が出てくる。後から変更は可能だが、条件が付いているということはおそらく高価な物との交換、もしくは課金である可能性が高いため、どちらにせよ慎重に選択した方が良さそうだ。
…というか、ひらはがは何を選んだんだ?光能力だということしか知らない。
できることならば、職業の方向性がパーティーバランスがいい。サポートと攻撃、攻撃と防御など、組み合わせはそれぞれある。一番まずいのは、攻撃タイプが全くいないパーティーになること。そしてひらはがの職業はわからないので…万が一のことを考え、俺は攻撃タイプの無難な剣士を選択した。
[《剣士》でお間違えありませんか?]
「はい。」
[ルイガ様、剣士でよろしいですね。次に性別、ID、服装、をお決めください。]
「性別は男、IDは《ru_i_ga》、服装は…」
初期設定で服装にあんまりこだわらないタイプなので、適当に選ぶことにした。
選んだ途端、自分の服装が瞬時に変わったのが分かった。
[素敵ですね。次に、能力をお選びください。ルイガ様の身体能力に応じて選択可能となっております。グレー表示されているものはお選びいただけませんので、ご了承ください。▽]
なるほど、能力は勝手に測られているようだ。どのゲームでも共通で、基本的に身体能力というものが存在する。完全に資質であるため、プレイヤー側はさほど格差が生まれないようにされているはず。これが、給料をもらうとなると話は別になって、一気に格差ができる。俺はそれでラスボスになっていたので良い能力ではあるはずだが、プレイヤー側ではあまり意味はなさないだろう。
…と、考えながら一通り能力を見ていたが、ひらはがが言う《光能力》とやらがない。俺の身体能力が及ばない能力だとしても、グレーになって表示されるはずであり、全部の能力が一応確認できるはずだが…。おかしい。
「すみません、光能力というものは存在しますか?」
[いえ、そのような能力は存在しません。]
ゲーム側がこう言っているのだから、ひらはがの誤認かもしれない。それか、俺の見間違えか。とりあえず自分の好みで能力を登録する。
「わかりました。俺の能力は水で。」
[かしこまりました、ルイガ様の能力は闇でお間違えないですね。ご登録が完了致しました。それでは、GZNの世界をお楽しみください。]
…え?
良ければ素直な評価で★を押していただけると、嬉しいです。
★★★★★を押していただいた際には、とても更新意欲に繋がります。何卒宜しくお願い致します。