第 2 話 急展開
「疲れた、ただいま~」
「類!おかえり、今日は大丈夫だったの?」
帰宅直後に母親に心配される。まぁ、今までのことがあるので誤解されたままなのも無理ない話である。
「母さん、俺は別に学校が嫌だから行かなかったわけじゃないんだよ。もうこれからは行くから。」
「これから!?毎日通うの?」
「そーそー。」
「本当に!?良かった、もう引きこもらないのね…!」
「うん。とりあえず疲れたから、部屋行くね。飯はいいから。」
「あ、え、ちょっと!」
今まで学校に行かなかった不登校息子が突然行きだすと言い出し、戸惑う母親の横を通って二階に向かい、自分の部屋に入る。
俺はアルバイトとして、《Blessed angels》、通称「ブレエン」と呼ばれるゲーム世界で働いていたのだが、毎日訪れてくる客と戦わなければならないため、現実世界を放置してずっと出勤したまま生活していた。そのため、学校にまともに行かずに毎日部屋に引きこもって鍵をし、両親や兄弟にとても心配をかけた。事情を説明しようと試みたが、理解されずに話し合いが終了されたことがあってからは不登校という誤解を解くことなくそのままにしていた。
そんな息子が明日から学校へ行く。学校で何かあったのだと思い込んでいる母親としては、登校することはうれしいことだと思う。けれど、また何かあったらと不安になっていることだろう。毎回否定はしているのだが。
【ピロン】
突然携帯の通知音がなった。
何となく、誰から来たのか見当はついている。
【ピロン ピロン ピロン】
ん?なんか多くないか?もしかして見当違いか?
栂崎であれば、こんなに多く送らずに一度の送信で済むはず。
延々と鳴り続ける通知音に疑問を抱き、普段は放置している携帯を開く。
【《ひらはが》:あ!きどくついた!きたくしましたか、むいです!ひらはがむいです!】
【ああ、君か… はいはい、帰りましたよ】
―――なぜこうなったのか、と後悔する。
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「あの!GZNの話してましたよね!私と組みませんか!」
目の前に突然あらわれ、突然会話に入ってきたこの少女のことを栂崎と類は戸惑いながら上手く会話を続けようとしてしまった。
「えっと、そうだけど、よくわかったね。それと、君、誰かな…。」
「新しくてオーディション募集しているといったらGZNくらいしかないなと思って!あたし、平羽河むいって言います!ゲーム初心者です!あ!麦高の三年です!」
忙しなくしゃべり続ける平羽河にますます戸惑ってしまう二人。
小さい体で身振り手振りし、更に情報量を多くさせているこの少女に悪意はない。
「…他校生がどうしてここにいるのかな?」
「あ、弟がここの高校なんです!」
「な、なるほど…?」
本当かどうかは定かではないが、何もかも疑ってしまっては話が進まないと悟った類と栂崎は、これ以上は聞かないでおこうと思った。
「それで、GZNで平羽河ちゃんと俺が組むって?」
「そうです!組んでほしいんです!」
「でも俺、話聞いてたならわかると思うけど、仕事としてGZNの世界に入ろうかと思っているんだよね。」
「いいえ!プレイヤー側で私と組んでください!」
ついさっき出会った他校生に自分の意志を完全無視され、ゲームでパーティーを組んでほしいとお願いされる急展開についていけない。
「あの、」
「いいんじゃない、類」
急に栂崎が平羽河に肯定的な意見を類に述べた。
「え?」
「プレイヤー側だったら毎日ずっとログインし続け生活じゃないだろうし」
「いや、でも、俺は」
「あなた、学校そろそろきちんと登校しないと受験どころか、卒業も怪しいわよ。プレイヤー側なら好きな時間にログインできるし、学校にも来れる、勉強もできるでしょ。オーディションなんてしてる場合じゃないのよ。
それに、元ラスボスの知識活かして、プレイヤー側で世界に入ってみるのも面白そうじゃない?」
まだ類がイエスと答えてもいないのに、平羽河の表情が一気に明るくなる。
進学する以上世界でずっと生活するのは現実的に難しい、二対一の状況から逃げられないと悟った類は、
「はぁ、わかった。メッセージ、教えて…」
「やったー♪」
と、連絡先を交換せざるを得なかった。
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