98 創立100周年記念パーティー(26)
今日のパーティーで日舞を踊る予定だった七海は、
楽屋で美久子が攫われてしまいパニックに陥ったが、恵に連絡し、その後すぐに父親に電話し、美久子の救出を泣きながら懇願した。
『どうした、七海!七海から電話なんて久しぶり…』
『お父さんっ!お願いっ!一生のお願いっ!私の友達が攫われたの!助けて!お願いっ!!』
七海は現総務大臣である福田基樹の一人娘だった。
七海の母親の渚は後妻だが、基樹が大学生の頃に知り合い、当時交際していた。
大学で一つ年下だった渚に基樹が一目惚れし、熱烈に交際を申し込み渚が絆されて付き合った。
福田家は先々代から国会議員の家系で、基樹の兄が父の跡を継ぎ国政に携わるはずだったが、基樹が25歳の時に兄が不慮の事故により亡くなってしまった。
基樹は当時旧自治省のキャリアとして働いており、数年後には渚と結婚しようと思っていた。
しかし、基樹の父により、基樹は政治家になることが決められた。
福田家では家長の言葉は絶対だった。
当時の基樹には逆らうことは許されず、逆らう技量も無い青二才だった。
政治家にはなるが結婚相手は渚だと心に決めて、旧自治省を辞めた翌年に政治家になった。
衆議院議員に初当選した数ヶ月後、基樹の前から渚が突然居なくなった。
基樹は必死に探したが、消息は全く掴めなかった。
翌年、基樹の父により無理矢理連れて行かれた見合いの席で、大物政治家の娘の佳世子を紹介され、断れる状況では無く、結婚した。
基樹はそれでも渚を諦めておらず、佳世子には一切触れなかった。
佳世子はもともと奔放な女で、結婚後も独身時代から続いていた数人の男性と関係を持っていた。
探偵を付けると笑ってしまうほどすぐに、幾つもの密会の証拠が撮れた。
基樹の父と佳世子親子にその証拠を突き付け、多額の慰謝料を請求し、入籍後半年で離婚した。
基樹の父には佳世子の男遊びを知っていながら結婚を勧めた事と、渚が居なくなる以前に『基樹の将来を潰す気か』と渚を脅した事を調べ上げ、烈火の如く怒った。
渚と結婚出来ないなら政治家も辞めてこの家とも絶縁すると言い切り、渋々認めさせた。
翌年、やっと京都で見つけた渚は、住み込みの小料理屋で働いていた。
当日、渚はひどい風邪を引いて自室で寝込んでいた。
抱きしめた渚は記憶より痩せていて、基樹は泣きながら謝り、求婚した。
渚は大変驚いていたが、静かに涙を流しながら自分で良いのか、足手纏いにならないかと何度も基樹に問うた。
基樹が全てを話すと渚は『ずっと、あなたに会いたかった』と一言言い、基樹に縋り付きながら初めて号泣した。
基樹も泣きながら細くなってしまった渚を抱き締めた。
溺愛する妻渚が産んだ一人娘の七海は渚に瓜二つで、基樹は盲愛し、過保護にし構い過ぎて娘に嫌われ、ここ最近は娘の素っ気ない態度に心を痛めていた。
そんな娘からの初めての、ましてや泣きながら頼まれたお願いに基樹は自分のコネだろうが何だろが、力をフルに使った。
娘と同い年の無抵抗の少女を誘拐したことに更に激怒し、実行犯と誘拐を計画した瀬田川親子も厳しく断罪して処罰するようにと大学後輩の法務大臣を呼び出し直接話しをした。
パーティーの日の深夜、仕事を終えて自宅に戻った基樹は玄関で七海に数年ぶりに抱きつかれ『お父さん、本当にありがとう』と涙を流しながらお礼を言ってもらった。
嬉しすぎた基樹は胸がいっぱいになり、そっと抱き締め返しながら『ああ、無事でよかったな』としか言えず凹み、後で渚に膝枕で慰めてもらった。