95 創立100周年記念パーティー(23)
「…失礼いたします。八木様」
「ひゃっ!」
湊人に抱き締められたままの美久子は、常盤警備システムの一橋に真横から声を掛けられ驚き慌てた。
「…っ!や、八木くんっ!もう、だ、大丈夫だから、心配かけてごめんねっ。ちょ、ちょっと離してくれるかなー!?」
「フッ」
湊人は小さく笑い、慌てふためく美久子を抱き締めていた腕をゆっくりと緩め、ちらりと一橋を見た。
無表情の一橋は美久子の傍にすっと立ち、まるで姫君を護る騎士の様だった。
「……あー、ごめんごめん!うさみみちゃんが無事で安心して、思わず抱きついちゃったよー!本当にもう大丈夫?パーティーに出ても大丈夫なの?」
「う、うん!大丈夫。八木くん、心配掛けて、迷惑も掛けて本当にごめんなさい。私のために色々とがんばってくれたって、流青くんから聞いたよ。本当にありがとう」
「迷惑だなんて……俺はそんな…何もしてないよ。…とにかく、無事で本当によかった」
湊人は美久子を優しい眼差しで見つめ、にっこりと笑った。
いつもの調子の湊人に美久子はほっと安心したが、間近で見た王子様のキラキラにっこりスマイルに少し顔が赤くなってしまった。
「うさみみちゃん、このドレス着てよ」
「えっ?あっ…」
湊人は椅子に掛けていたネイビーのドレスを美久子に差し出した。
「いいの?こんな素敵なドレス……」
「もちろん!流青が選んだドレスと同じ色だよ。デザインは俺が選びました!絶対にうさみみちゃんに似合うよ」
「…うん!ありがとう、うれしい!着替えてくるね!」
満面の笑みで湊人にお礼を言い、美久子は美容室のスタッフに連れられて奥のフィッティングルームに行った。
湊人は美久子の笑顔を見て胸がぎゅっと苦しくなり、無意識に胸に拳を当てていた。
一橋は湊人に一礼した後、一瞬じっと湊人を見つめ、美久子の後を付いて行った。
「……。やっべー。止めらんなかった…」
「湊人」
「っ!……メグ……」
美容室の入口に、マーメイドラインのワインレッドのドレスを着た恵が目を細め、眉間に皺を寄せて立っていた。