71 百合奈の怒り
あんな冴えない女が流くんの彼女だなんて、絶対に認めない!
誰が見たって、わたしが流くんの彼女に相応しいのに。
わたしは日本でもアメリカでも凄くモテる。
それなりに素敵な人もいっぱいいたけど、流くんは別格。
あれだけ容姿も頭脳もレベルの高い人はいなかった。
神がかってる流くんは、アジア人でも欧米で絶対にモテる。
だからわたしなら流くんの横にいても似合うのに。
小さい頃に乾家の本家で、流くんを初めて見た時に決めたの。
絶対にこの人のお嫁さんになるって。
正彦おじ様も笑ってたし、パパなんて大喜びだった。
わたしが流くんと結婚したら乾家との繋がりが出来るから、
パパはおじ様にとりあえず婚約だけでもって言ったのに、ダメだった。
誰が何で邪魔をするのか、ものすごくイラついた。
すごくモテる流くんに近付いてきた雑魚たちは、
わたしがかなりの数を追っ払った。
それくらいの顔で、他に私より何を持ってるの?
わたしは流くんのおじ様にもご両親にも、
とっても可愛がられてるからもう婚約者同然だって、
ちょっと話を大きく言ったらほとんどの女は諦めていった。
今まで何度も流くんにお嫁さんにしてねって言ってきた。
いつも薄らした笑顔ではぐらかされたけど、
ハッキリ断られたことは無かった。
だからまだ大丈夫。
将来、信彦おじ様の後を継ぐ流くんに相応しい妻になるために、
勉強が得意な私は日米両方の公認会計士を目指すことにした。
流くんと同じ仕事をして、同じレベルの話しが出来て、
これだけ可愛いわたしなら、流くんも手離したくなくなるでしょ。
なのに、こんな状況じゃ全然無意味じゃない!
パパに頭を下げて必死に頼んで留学したのに!
離れていた間に横取りするなんて、
泥棒猫みたいなあの女、絶対に許せない。
あんな、優しくてすごく嬉しそうな流くんの笑顔を見たことが無い。
悔しい。羨ましい。腹が立つ!
あの笑顔は本当はわたしのものなのに。
誰にも渡さない。
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どういうこと?
全然あの女に近付けない。
近付こうと思ったら、知らない生徒に特別教室の場所を聞かれたり、先生に呼び出しされたり、警備員に呼び止められたり。
近付いてちょっとした怪我でもしてもらおうと思ったのに。
これじゃ、なかなか近寄れない。
学院の中でダメなら通学途中にと後を付いていったら、あの女は車で送迎されてた。
しかも、流くんと一緒に!!
すごく仲良さげで本当にムカつく!
そこはわたしの席なのにっ!
あの女を車から引きずり下ろそうと追い掛けたら、生徒とぶつかって転けた。
痛くて顔を上げた時には、もう車はいなかった。
ぶつかった生徒にすごく謝られて、保健室まで連れて行かれた。
悔しい。
擦りむいた肘が痛い。
※※※※※※※※※
「どういうことだ!百合奈っ!」
「わたしにもわからないのっ!
流くんに彼女が出来たなんて聞いてなかったもん!」
「お前がしっかりと流青を捕まえてないからだろうっ!」
「パパだって、わたしと流くんの婚約を全然決められないじゃない!
早く決めて来てよっ。わたしは流くんとしか結婚したくないっ!」
「正彦にはずっと婚約を打診しているが、甥本人が断るのに無理強いはできないと言われるばかりだ。
折角正彦は俺の甥とお前の娘が結婚して縁続きになるのも良いな、と乗り気なのにっ」
「もっと強く言ってよ!」
「…乾家との繋がりが出来て、ウチの病院が乾総合病院の傘下に入れたら安泰だ。あっちは資本力が凄い。ウチは数年後まで持ちこたえられるか…。
いいか、お前が流青の妻になることに掛かっているんだ。
そんないきなり出て来たような女に取られてどうする!
何のためにバカ高い学院に行かせて、留学費用まで出したと思ってるんだ!」
「分かってるわよ…」
「分かってるなら、色仕掛けでも何でもしろ!
早くどうにかしないと、本当にその女に流青を取られるぞ!」
「嫌っ!絶対に嫌よっ!あんな女に取られたくない!」
「…チャンスを逃すな。
…丁度、来週末に正彦の病院の創立記念パーティーがある。
そこでお前が流青と仲が良いアピールをするんだ。
嘘でも何でも良い。ずっと傍にいて婚約間近だと思わせて周りを牽制しろ。
大勢の人前なら流青も大きな声で断ったりは出来んだろう。
…そこにその女がいたら邪魔だな。」
「…。」
「何か良い案があるのか?」
「……アメリカの友だちが今、日本に来てるの。日本が大好きなコで…。東京を案内して欲しいって…」
「…なるほど。…東京案内、してもらおう。」
「…。」
「天は我らに味方してくれているな。ふふふっ。」
※『美久子さんを護る隊』、素晴らしい働きっぷりです。
百合奈親子はサイテーです。