63 きのぴい、捕獲される
6人でお目当てのお店に入った。
七海が事前に女子会用に個室を予約してくれていた。
七海はほんとすごい!仕事が出来る秘書さんみたいだ。
さっきのカフェと同じペアで座る。
このソファー寛げる-!最高です!
と、思ったら、流青くんがさっきよりも、ものすごくくっついて座っている。
ほぼ身体の半分が重なってる。寛げない。恥ずかしい。
「…流ちゃん、嬉しそうだねー」
「もう、大分慣れてきたわね。」
「ふふっ。ほんと!」
この個室はダウンライトと間接照明でモダンな感じで、とにかくオシャレだ。
外の席には外国人のお客さんも結構いた。素敵なお店だ。さすが七海セレクトだ。
この個室にいる美形5人が高校生とは思えないオーラと雰囲気を持っているから、制服を着ていても何の違和感も無い。
私は5人のオーラに消されて大丈夫だろう。安心だ。
後で今度こそ絶対に写真撮ろう。こうなったら隠し撮りでも何でもいいからやってやる。
「トロトロオムライス、おいしー!」
「このローストビーフ丼、めちゃくちゃ美味しいねー!
七海ちゃんの言ったとおり!さすが七海ちゃん、グルメだねー」
「うふふ。ありがと!おトクなお値段なのに、お肉が厚くてほんと美味しいよね!私も必ずごはん大盛りで食べるんだー。」
そうなのだ。
この見た目深窓のお嬢様(本当にお嬢様だけど)な七海は、ものすごく食べる。
色白小柄で、華奢な腕や脚とか見ると信じられないけれど。心底羨ましい。
ダンス部きのぴいも女子にしては結構食べるけど、七海は別格。炭水化物が大好きで、特にごはんを愛する。
今も八木王子のローストビーフ丼をちょっと狙っている様子だ。
「七海ちゃん、これ食べたいの?俺のちょっと食べる?」
「うーん、どうしようかな-。やっぱり私も食べる!」
「えっ!」
「すみませーん!オーダー追加お願いしまーす!」
「俺も」「俺も」「私も!」「あっ!俺もー」
私はいい。
さっき私たちワッフル食べた…よね?
七海はクリームプラス2種類乗せ、きのぴいはチョコワッフルバナナ盛りも追加したよね?
美形セレブな人達って、めちゃめちゃ食べるんだね。
私は小市民だから、きっちり腹八分目だ。
「で!話が途中だったけど。
何で私たちの居場所が分かったの?もちろん偶然じゃないわよね。」
「「「……。」」」
「…流青くん。」
「…美久子。俺はお前が大切なんだ。」
「ぶふっ。そーきたかー」
「うん。ありがとう。で…?」
「…。」
「…。」
「…健二。」
「おい。俺が先か?……仕方がないな。
……恵、怒るなよ。お前の居場所は俺が把握している。」
「はっ!?私の?なんでっ?いつから!?」
「お前がスマホ持った時から」
「はあっ!?小学生の時じゃない!どういう事よ!?」
「…恵。もういいだろう?」
「なっ、何がよ!?」
「お前。俺のこと、好きだろ?」
「はあっ!?何よ!急にっ!」
「きのぴい。…恥ずかしいかもだけど、今だよ!キメ時だよ!」
「えっ!!何でっ……こんな、みんなの前で…めちゃくちゃ恥ずかしいよ…」
「恵。俺はお前が好きだ。」
「!!」「「(きゃー!!武将ーー!!)」」
「幼稚園の時、初めて道場でお前を見たときから惚れている。」
「!!!」「「(えーーーっ!うそっ!きのぴいと一緒だっ!)」」
「…ずっと自由にしてやったんだ。お前は男にモテる。俺は恵をちゃんと俺のものとして護りたい。だから…もうそろそろいいだろう?」
「……こんな、みんなの前で…」
「きのぴい、がんばれっ!」
「えっ…。」
「大丈夫、ふぁいと!」
「……。……私も。同じ時から、健二が…好き。」
「……知ってる。」
健二は恵を、その大きな身体で抱き締めた。
「「きゃー!!!!」」
「きのぴい!よ、よかった、ねっ。ううっ。」
「ほんとっ!二人っ、がっ、やっと、うまくいっ、て、良かった、よおー」
泣き出した美久子と七海は、それぞれ流青と湊人に抱き締められ、暫く泣き止まなかった。
歓喜と安堵と羞恥で泣き出してしまった恵を、自身の脚の間に座らせて後ろから抱き締めた健二は、本当に嬉しそうに微笑んでいた。
ただ、その黒い目の奥には、長い間狙っていた標的を捕らえた武将の無慈悲な光が宿っていた。
それに気付いた流青と湊人は……気付かなかったことにした。
※※※※※※
後日、改めて居場所がバレる理由を健二に聞くきのぴい。
「ねえ?どうしてわかるの?」
「スマホに位置情報が分かるアプリを入れている。」
「ああ。良くあるあれね。」
(実は更に、超超小型GPS追跡チップを財布、携帯カバー、鞄、この前プレゼントした以降きのぴいが毎日着けているネックレスにも装着していた。もちろん秘密裏に。)
「でも、わざわざ何でよ?」
「……それは、後でじっくり教えてやるよ。」
「…は!?」
きのぴいも完全に捕獲されちゃいました。