59 嵐の前の静けさ
で。…私、さっき、
ファーストキス、しちゃったんだ。
流青の、この綺麗な唇に。
……。
きゃーーー、やばい!!!
どうしよう!!
思い出したら、急にめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた!!
あかん!どこを見ていたらいいかわからなくなってきた。
よし、目を瞑ろう。こういう困った時は、寝たふりだ!
「……。」
「美久子?」
「……。」
「……。」
ちゅっ
「へっ!?ええーーーっ!?」
「すまない。我慢出来なかった。」
いや、そこは我慢してよおおお!!
前に平松さんいらっしゃるんですけど!?
今世、ちゅう2回目の超初心者には人前はムリです。
恥ずかしいの極みです。
もう、どうしよう。
「恥ずかしがる美久子は本当に可愛いな。家に帰らせるのが惜しくなってきた。今日は家に来」
「流青さん、宇佐美さん、着きましたよ。」
「チッ。」
「えっ!舌打ち?」
「流青さん。」
「…タイミング。絶対に意図的…。」
「流青くん?」
「大丈夫だ、美久子。何の問題も無い。」
流青は問題山積みたいな顔で美久子を車から降ろし、再度横抱きをしようとすると走って逃げられた。
健二の言うとおり、うさぎは逃げ足が速い。
美久子は少し離れた玄関前から、運転席の平松に向かって手を振りながら声を掛けた。
「平松さーん!今日もありがとうございました!お帰りどうぞお気を付けてー!」
「ありがとうございます!宇佐美さん、おやすみなさい。」
「おやすみなさい!」
玄関のドアを開けると、中からゆり子が出て来た。
「ただいま…」
「あらあら、美久ちゃん、今日も流青くんに送って頂いたの?流青くん、連日ごめんなさいね。本当にありがとう。」
「夜分遅く失礼します。今日は連絡もせず遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。」
流青は相変わらず綺麗なお辞儀をして、遅くなったことをゆり子に謝った。
「違うの!お話してて、私がちょっと…」
ゆり子は二人を見つめ、微笑んだ。
「二人は仲直りしたのね。もう、大丈夫かな?」
「うん!」「はい。」
「そっか。なら今日はもう良いわ。でも、遅くなるときはちゃんと連絡してね。今日はパパが飲み会で遅いけど…居たらカンカンよ!」
流青は顔を引き攣らせた。
「申し訳ありませんでした。今後は必ずご連絡します。お父様にもまた日を改めて是非ご挨拶をさせて頂けたらと思」
「いいよ!流青くん!お父さんはややこしいから、また色々考えてから改めて…」
「そうね。先にちょっと作戦考えなきゃね。」
「作戦…。」
流青はまだ見ぬ大きな敵を思い浮かべ、どの様に屠るか等、つい見当違いな想像を膨らませていた。
美久子はついついまた流青の唇を見てしまい、恥ずかしくてひとり悶えていた。
この穏やかな時間は、正に嵐の前の静けさだった。
※美久子は関西出身の父の影響で、パニックになるとちょこっと関西弁になってしまう癖があります。チラチラと出ます。