57 愛おしいひと
その後も美久子はなかなか泣き止まず、流青がずっと抱き締めていた。
ふと気が付くと、いつの間にか流青の膝の上に横向きで座っていた。
流青は左手で美久子をしっかりと抱き寄せ、右手は熱心に美久子の頭を撫でていた。
「えっ!?あれっ!ごめんなさいっ、重いよね!今降りま」
「美久子、敬語。」
「あ!ごめんなさ……ごめんね?」
流青がにっこり笑う。
美久子もつられてにっこり笑顔になった。
二人ともたくさん泣いたので、かなり照れくさい。
けれど、とても幸せだった。
辺りはかなり暗くなっていた。
公園は外灯が点り、歩く人はかなり少なくなっていた。
気持ちが通じ合った流青と離れるのはとても淋しいが、美久子はそろそろ帰らなくてはいけない時間だった。
「乾くん…。」
「…ん。名前がいい。」
「えっ?」
「名前で呼んで欲しい。」
「……流青くん。」
「…呼び捨てで呼んで。」
「ええっ!?」
「流青。」
「…呼び捨ては、まだちょっと…ハードルが高い…かなー?」
「…呼んでくれないのか?」
やーめーてー!
乾くんのその悲しいお顔と声は反則だー!
どうしよう。可愛すぎる。
そもそも私がこの人に勝てるわけが無い。
前世から完敗なんだから。
「…わかった。……流青。」
「!!」
やっぱりだめだ。恥ずかし過ぎだし、めちゃくちゃ恐れ多いよっ!
アノ乾くんを呼び捨てなんて、やっぱりムリだ。
くん付けでもギリギリアウトなのに!
めちゃくちゃ嬉しそうだけど、ごめんっ!
「ごめんなさい!やっぱりムリ!せめて流青くんでお願いしま…お願い。そうじゃなきゃ、もう、呼ばないっ!」
「ええっ!名前呼ばない!?…美久子、ひどい。卑怯だぞ。
美久子のお願いなんて、俺は断れるはずが無いじゃないか。
……仕方がない。今はそれで良いが、慣れたらちゃんと呼び捨てにするんだぞ。良いな?」
なんか…可愛い。
すっごく可愛くて愛おしい!
いつもクールな流青くんが、こんなに拗ねたり困ったり甘えたり、私の前で色んな表情を見せてくれるのがすごくうれしい!
ほんとに……めちゃくちゃ格好良くて、なんて可愛い人なんだろう。
「ふふっ!」
「…ふふっ。」
「「あはは!」」
「……」
「美久子、こっち向いて」
「ん?」
私たちは初めてのキスをした。
また泣きそうになっちゃうくらい、とても優しい幸せなキスだった。
※ブックマーク、総合評価、評価ポイントが増えていて驚きました。
皆様、本当にありがとうございます。
沢山の方に読んで頂いていて本当に震えます。ガクブルです。
最後までがんばりますので、どうぞよろしくお願いいたします。