56 涙と求婚
顔を上げた流青は、黒い宝石のような目から涙を流しながら美久子を見つめた。
美久子はその泣き顔を見て、男の人だけれども恐ろしいほど綺麗だと思った。
流青が泣いている現実と、その存在の美しさに唖然としたまま、美久子は流青を見つめた。
流青はゆっくりと話し始めた。
うれしい
こんなにもうれしい気持ちは、初めてだ
もう、だめかと、
美久子に、俺が嫌いだと言われるかと、思った
本当に、怖かった
俺も、美久子が、好きなんだ
どうしても、美久子じゃないと、駄目なんだ
好きになって、ごめん
こんな俺で、ごめん
他の奴を、見ないで
俺だけに、笑って
離したくない、傍にいて、欲しいんだ
こんな気持ち、初めてで、苦しい
俺も、美久子を、好きな気持ちは、誰にも、負けない
流青の言葉が、美久子を歓喜させる。
泣きながら美久子は、身体中に黒い喜びが広がるのを感じた。
「美久子……宇佐美 美久子さん」
「は、はいっ!」
「近い将来、必ず、もう一度言う。
けれど、今も言わせてくれ。
宇佐美 美久子さん。
あなたが好きです。
俺と、結婚してください。
…美久子、お願いします。
心が、本能が、そう思うんだ。
美久子が好きだって。
絶対に美久子を離すなって。
俺は、もう、お前がいないと、壊れる…」
「…はい、乾 流青、さん。
私と、結婚、してください。
私からも、お願い、します。
お願い、だから、もう、私から、離れないで。
私を置いて、どっか、行かないで。
ひとりに、しないで。
一緒に、いたいの。
あなたが、好きなの。
流青、くん、じゃなきゃ、嫌なの。
…わーん!!!」
子供のようにわんわん泣きだした美久子を、
流青は心から愛しい、自身の唯一を見つめた。
流青が微笑みながら両手を広げると、美久子は泣きながら抱きついた。
腕の中の小さくて温かい愛しい宝物の存在に、流青はまた涙した。