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54  美久子の手紙(1)

「乾くん!」

「美久子!すまない!待たせたか?」

「だ、大丈夫です!さっき来たところ!」


否。小一時間待っていたが、美久子はいつか絶対言ってみたいと思っていた、よくあるデートのセリフを言ってみた。なんか、じんとくる。


今は金曜日の19時。

流青はバスケ部の練習後、同じく茶道部終わりの美久子との待ち合わせ場所の此処まで走って来た。

少し息が上がっている。



昨日、美久子の家で気持ちがすれ違い、嫌われてしまったと思い悩み凹んでいた二人は、それぞれの親友たちに相談し、お膳立てをしてもらって今に至る。


流青は今はバスケどころではない!と美久子に向かって突進しかけたが、健二に焦るなと言われたことを思いだし、状況を冷静に判断し、湊人と木下の完璧な仲人的フォローのお陰で、現在の状態に持ち込んだ。

クラブで思いっ切り発散(部員ははた迷惑)したことで頭も身体もスッキリし、心を込めて美久子に謝る所存だ。



待ち合わせ場所は学院から少し離れた公園の入口だった。

美久子が前世の静子の時に、同級生の白井夏美から亮介に迷惑を掛けるなと言われたあの公園だ。

あの日の辛い記憶が思い出され、一瞬足が竦む。


「美久子?どうした?」


少し様子がおかしい美久子を流青が伺う。


「…ううん、大丈夫。」

「そうか…とりあえず、あの奥のベンチに座ろう。」 


流青に手を握られた美久子は、ベンチに向かって一緒に歩いた。



あの時の記憶以上に、公園の木々は高く生い茂っていた。

梅雨の晴れ間のこの時間は周りはまだ少し明るく、散歩やジョギングをしている人もいる。


奥のベンチは三方に木が生い茂って囲まれていた。

美久子は流青から少しだけ離れてベンチに座った。

途端に流青が悲しそうな顔をする。


「美久子…。まだ怒っているのか…?」

「ううん!違うの。乾くん、昨日はごめんなさい!」


美久子が流青に向かってガバッと頭を下げる。


「美久子!違うっ!俺の方こそ、本当にすまなかった!」


慌てて美久子の肩を掴み、流青は美久子の身体を起こそうとする。

すると、流青の目の前に薄い黄色の封筒があった。


「ん?」

「乾くん!これ読んでください。」


薄い黄色の封筒は、美久子が昨夜何度も書き直して必死の思いで書き上げた、流青への手紙だった。


「これ…俺に…?」

「うん。読んでもらえる…かな?」

「…うん…」


手紙を受け取り、封筒を凝視する。


封筒の表側にはとても可愛らしい字で『乾くんへ』と書いてあった。

手紙の内容が全く分からず、手が震える。


初めて美久子からもらった手紙。

感動で叫びたくなる程嬉しいが、反面、別れ話など書いていたら自分はどうなるかわからない。

動けず、ただ手紙を持つ手が震えていた。


「乾くん…。大丈夫だから…読んでみてください。」


美久子を見ると、少し苦しそうな笑顔で流青を見ていた。

心の中で己を叱咤激励し、震える手で封筒を開けた。

この時の流青は、処刑台の前に立たされる罪人の様な気持ちだった。




※あれれ?流青がどんどんヘタレになっていくー。

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