53 流青、苦悶する ◇
美久子を本気で怒らせてしまった。
美久子の部屋を見て、雰囲気、香り、可愛いパジャマ等々、あらゆる物に美久子の存在を感じ、まるで天国の様な空間につい興奮してしまった。
あんなに冷たい、美久子の拒絶の声は初めて聞いた。
心が凍りそうだった。
どうしたら良いのか全くわからず、思考が固まった。
今までどんな事でも冷静に対処し、何でもやり遂げて来た。
でも、美久子に関しては全く駄目だ。
冷静でいられない。
この溢れる思いをどうしたらいいのか分からない。
胸の辺りが苦しくなる。
彼女を抱き締めている時は落ち着く。安心する。フワフワだ。
だから離したくない。
でも、彼女に拒否されてしまった。
怒らせてしまった。
悲しい。
「…だから、無理強いはするなと言ったはずだ。
うさぎは追えば逃げる。戦う術が無いからな。」
「流ちゃんほんっとにバカだねー。
……おっ?蹴って来ない!流ちゃんマジで凹んでるー!」
流青の蹴りを今日こそ躱そうと、空手のすくい受けの構えでいた湊人は拍子抜けして大爆笑した。
横で爆笑する湊人に反論も出来ない程、流青は落ち込んでいた。
「……。」
「あれれ。健ちゃん、どうしよう。俺、今まで結構長い間流ちゃんといるけど、こんな流ちゃん見たことない。」
「俺もだ。」
「…最近こういうの多いけど…これは…ちょっと、やばいね。」
「…流青。どうするんだ。もう宇佐美さんの事を諦めたのか。」
「諦めるはずが無い。」
「あ。復活した。」
「なら、焦るな。お前は黙っていても色んな圧力が半端じゃない。宇佐美さんの気持ちをよく聞いて、彼女の気持ちを尊重しろ。彼女のペースをなるべく守ってやれ。後は…」
「後は?」
「怒らせたなら、とにかく謝れ。女子にはとにかく真摯に謝れ。」
「だねー!健二はメグをいっつも怒らせてるもんねー」
「…恵は、すぐに怒る。」
「ワザと怒らせて喜んでる健二は完全にSだな!ドSだ。」
「フフッ。」
「……健二、怖っ!流ちゃんも怖かったけど、健二は見た目がアレだから本気で怖いよ!ソレ、女子は泣いちゃうよ!気を付けなね。
…ま、うさみみちゃんは流青が怒らせて凹んでウジウジしてる間にー、俺が慰めてもっと仲良くなっちゃ」
ドゴッ!!!
「痛ってーーーーー!!流青、お前っ!関節蹴りは試合でも禁止だろっ!ふざけんなっ!マジで痛ってーーー!!!」
「煽るからだ、湊人。」
「お陰で目が覚めた。美久子を慰めなくては。そして誠心誠意謝ってこよう。結婚の話は変えられないが。」
「結婚!!?」
「ああ。昨日、御母上のお許しも頂いた。」
「早えーーーー!!まじかー……」
「良かったな。流青。」
「ああ。では、行って来る。」
「…。うさみみちゃん、大丈夫かな。」
「もう無理だろう。流青がああなったら、逃げ場所は無い。」
「だね。…健二もだけど。」
「…当たり前だ。俺もそろそろ近い内に動く。随分長い間自由にしてやったからな。」
「…メグー。悩んでられるのも今の内だよー…」
「フフッ。」
「……寒っ!」
「きのぴい、どうしたの?大丈夫?」
「なんか今、すごくゾゾッとした!寒っ!」
「あれ、風邪かな?温かくしなきゃ!ガーデ着る?」
「うん。ありがと…」
カーデガンぐらいじゃ何の防備にもならない、きのぴい。
もうすぐ彼女も捕獲される運命を知らず、今日も何も出来無い自分にウジウジ悩む恋する乙女なのでした。
※流青、やっぱりちょっぴり無意識な変態さん(対美久子のみ)が入っちゃってました。格好良いのに残念!
きのぴいも、もうすでに捕獲対象ロックオン!されてました。本人は気付いてませんが、ガチガチの包囲網です。