52 母の思い
「美久ちゃん。入ってもいい?」
母ゆり子が美久子の部屋をノックして、声を掛けてきた。
「…はい。」
美久子はモソモソと起き上がり、ベッドに腰掛ける。
泣いて拗ねてしまった自分が恥ずかしい。
部屋に入ってきたゆり子も美久子の隣に腰掛けた。
「どう?もう落ち着いた?」
「…うん。ごめんなさい。なんか、いっぱいいっぱいになっちゃって、乾くんにも嫌な態度取っちゃった…。乾くん、怒っちゃったかな…。」
美久子は俯いて、自然に目に溜まる涙を必死に堪えた。
「美久ちゃんは、流青くんのこと、すき?」
コクンと頷く。
「そっか。乾くんも美久ちゃんのこと、本当に好きでいてくれてるわね。好き好きオーラがすごかったもんね。」
うふふと笑いながらゆり子が話すと、美久子も少し顔を上げて笑った。
「ママはね、すっごく嬉しかったの。
パパとママの大事な美久ちゃんが、誠実で素敵な男の子にとても愛されて大切にされて、美久ちゃんもその人の事が大好きで。」
美久子はじっと母の顔を見つめる。
「両想いって、なんて幸せなことなんだろうね。好きな人が自分も好きって、本当にすごいことよね。
ま、彼はちょっと暴走気味だったけど。
美久ちゃんがびっくりしちゃったのは分かるわ。
パパと流青くんは似てるかもねー。」
ゆり子が微笑みながら美久子の頬に流れる涙を指で拭う。
「二人はまだ若いし、先のことはまだまだ分からないけれど、今の流青くんが本気で美久ちゃんの事を想ってくれていることは間違いないわよね。
もし、流青くんの想いに少しでも答えられない気持ちがあるなら、今すぐ流青くんから離れなさい。」
美久子がぱっと顔を上げる。
苦しい表情でゆり子を見つめる。
「中途半端な気持ちなら、こんなに美久ちゃんのことを想ってくれている流青くんに対して凄く失礼よ。
それは美久ちゃんが一番分かってるわよね。
流青くんはきっとすごい男の子だから、二人にはこれから色んな事が起こるかもしれない……それを乗り越えるには、美久ちゃんが流青くんを心から信頼して好きってことがとても重要なの。
あとは何とでもなるから…まあ、何かあってもその時は流青くんが黙ってないわね。
美久ちゃんは自信を持って、流青くんを好きでいていいのよ。
流青くんにもちゃんと伝えてあげてね。」
「うん…。お母さん、ありがと…。」
「とりあえず、結婚はまださすがに早過ぎだから、パパには内緒にしておきましょ。きっとパニックになって泣いちゃうから。うふふ。
ママは流青くんならいつでも大賛成よ!」
美久子はゆり子に頭を優しく撫でてもらいながら泣いた。
私は何やってたんだろう。
奇跡のように乾くんに好きになってもらえて、涙が出るほど嬉しかったのに、いきなり結婚まで言われて、今の自分に全く自信が無くて引いてしまった。
前世であんなに辛い思いをして学んだのに、私は何やってるんだろう。
心が弱くて逃げてしまった。
お母さんの言う通りだ。
私は乾くんから離れるなんて絶対に出来ない。
身体を引き裂かれるようなあんな思いはもう二度としたくない。
もしも乾くんが他の人の元に行ってしまったら……絶対に嫌だ!
ほんとに私は馬鹿だ。
私は何を悩んでいたんだろう。
明日、謝ろう。
許してくれるかな。
乾くんを信じよう。
もう大丈夫。
私はただ乾くんが好き。
乾くんの傍にいたい。
ただ、あなたが好き。
※メソメソが長くてすみません。
どうしても美久子の葛藤を書きたくて。
こんなに長くなってしまいました。