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51  流青と帰宅

「おかえりー。あら~!美久ちゃん、どうしたの!?」

「お母さ」

「こんばんは。乾です。先日は学院にて失礼いたしました。

今日も美久子さんが少し体調を崩されましたので、家の車でご自宅までお送りしました。

今は体調は戻られたようですが、まだ心配ですのでこのまま美久子さんをお部屋ま」

「いえっ!結構ですっ!ちょっと!下ろしてください!ちょっと!お、下ろせっ!!」


車からお姫さま抱っこのまま自宅の玄関に運ばれ、愛犬のロミオとプリオを抱っこした母親の出迎えを受けた美久子は、羞恥で動転しながら叫び、最後は流青に対してタメ口をすっ飛ばして命令形になった。

そんな美久子の口調を親しくなったと嬉しく感じた流青は、にっこり笑顔で美久子を見つめ、美久子の要求を受け流した。


「あら…。うふふ。」


察しの良い母ゆり子は、美男子流青を見上げる。


「乾くん。ありがとうね。うちの子ったら最近よく調子崩して…お言葉に甘えて、そのまま美久ちゃんをお部屋まで運んでもらえるかしら?」

「わかりました。」

「うぎゃー!!」


相変わらずブサイクな叫び声を上げながら、流青に2階の自室まで運ばれベッドに優しく寝かされたが、すぐに起き上がりベッドの上で正座した。

流青は立ったまま美久子の部屋を嬉しそうに眺める。


すごい…アノ乾くんが私の部屋にいる…。

信じられない…。

背が高くて格好良くて、ものすごい存在感と違和感。

日本家屋の庶民の家に外国の王太子が来たらこんな感じ?

狭い部屋が不思議と高貴な部屋に見えてしまう気がした。


「ここが美久子の部屋か…」


はっ!

いーやーーーー!!!

乾くんが私の汚部屋をめっちゃ見てるーー!

好きなラノベとマンガとNo × doubt のグッズだらけ。

先週から掃除してないし!

こんな事になるなら、お母さんの言うとおりに日曜日にお掃除しとけばよかった…。泣ける。


「女の子の部屋って感じだな。可愛いな。」


どーこーがー!?

茶色とベージュの世界です。地味です。全然可愛くないです。

乾くん、やっぱり目が悪かったんだ。

今、レア眼鏡掛けて無くてよかったー。

あんまり細かいところ見えてないのかも。

これならいける!


あああっ!

朝着てたハリネズミ柄のパジャマが勉強机の椅子に掛かったままだっ。

…うそっ!もうイヤ。乾くん、めっちゃパジャマ見てる。


「ハリネズミのパジャマ…うさぎじゃないんだな。でも、可愛いな。」


めっちゃ目、見えてるー。

『でも』って何!?

私、うさぎよりどっちかと言うと、ハリネズミとかハムちゃん系が好きなんです。

乾くんはどうしても私をうさぎ寄りにしたいのね。

仕方がない、愛する乾くんのために今後はうさぎ一派(いっぱ)になろう。


「あ、あんまり見ないでください!恥ずかしいから!」

「美久子。」

「へっ!?」

「敬語。」

「あ。」

「俺と美久子は好き合ったもの同士。もう恋人……っ!……で、つきあっていて、将来も決まっている。」

「えっ!恋人!将来っ!?」

「そうだ。だから敬語はやめてくれ。」

「は……ぃええっ!?」


ナイスだ美久子。よくここで『はい』とハッキリ言わなかった。ギリ、セーフだ。


「何だ。何か不服があるのか?」


あ。やばい。怒った。眉間にシワが。

この表情は多分マズイ。


「あっ!いえっ、あのー、つきあっているって言うのは、その、嬉しいし、こちらからも是非ともお願いしたいんです…んんっ。お願いしたい、んだけど…」


少しの間眉間のシワが伸びて、すぐ戻る。


「…けど?」

「将来って言うのは…?」

「結婚に決まっている。」

「!!?」


おかしくないか?

私、ほんの3時間ちょい前くらいまで、このお方に嫌われてると思ってたのに。

何故今は、結婚が決まっている。


「きゃー!美久ちゃん!おめでとー!!」

「ありがとうございます。」

「ちょっと、ちょっと、ちょっと待ってー!!」


お盆にジュースとお菓子を乗せてドアの前に立っている母ゆり子に向かって、流青がゆったりとした綺麗な30度のお辞儀をする。


デキる営業マンみたいだ。高2だけれども。


ゆり子は感極まり、ぱあっと嬉しそうな笑顔で二人を見て頷いていた。


やばい。母は私の持ってるイケメン御曹司恋愛系のラノベが大好きでよく読んでる。そして父はその紙上の御曹司に嫉妬して拗ねる。面倒くさい。

乾くんが母の推し系キャラに完璧にハマっている。


「乾くん。美久子を末永くよろしくね。」

「畏まりました。お母さん…いえ、ゆり子さんとお呼びしてもいいですか?」

「ええ!ぜひっ!流青くん!」


熟女を掌握してるー!

乾くん、ほんとに17歳なの!?

しかも、お母さん。私より先に流青くん呼びしてるし。

…なんか、ちょっと、イラッとする。


「美久子?」「美久ちゃん?」

「…。わ、わたし、まだ、乾くんと結婚するって、決めてないからっ。」

「えっ!!」

「はやっ、早過ぎるよ!何もかもっ!」 

「美久子…」

「…乾くん。今日はありがとうございました。また明日、が、学校でお会いしましょう。…今日は、どうぞお帰り…ください。」

「美久子…。」


ベッドの上でお茶席時の様な正しい座礼をした美久子は、そのまま顔を上げなかった。


流青は何かを言い掛けるがやめて、肩を落としたままゆり子に連れられ部屋を後にした。


美久子は意固地になってしまった事に後悔しながらも、余りにも早い展開に心も思考も追い付かなくなってしまった。



布団を被り、ひとり泣いた。




※流青、喜びの余り、色々と突っ走り過ぎてしまいました。

 宇佐美家の2匹の愛犬は置物の様に大人しいので、初来客の流青を見ても、目の前で美久子のブサイクな叫び声を聞いても吠えません。まじですごい。

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