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50  帰還

皆さま方、ごきげんよう。宇佐美 美久子です。


私は今、傾国の美男子の甘~い視線に完全ロックオンされたまま保健室のベッド上で固まっております。

掛け布団を鼻の上まで掛けられて。熱い。

ゆっくりと頭を撫でられて、気持ち良くてついウトウト寝そうになりました…って、そんなもんこの状況で寝られるかー!緊張してめちゃくちゃ寝にくいわっ!


前世の静子の時も、甘い視線の亮介にいつも見つめられていました。

恥ずかしく思いながらも見つめ返していました。

あの時の自分はどうやらかなりの美少女だったようで自然と出来た行いでしょう。

今の美久子は、中の下です。中程度以下です。できません。

一定のOJT期間が必要です。



「美久子。気分はどうだ?」


貴方のせいでドッキドキのバックバクです。


「…大丈夫です。全然元気なので…そろそろ帰りたい…」

「駄目だ。」

「え!」


掛け布団を外して途中まで起き上がったが、流青にとんっと倒されてまた鼻の上まで布団を掛けられた。


駄目って…


「美久子はさっき倒れかけたんだ。もう少し休んでいないと。じきに迎えが来る。」


倒れかけたのは貴方に逆スリーパーホールドをキメられかけたのが要因で、幸い堕ちませんでしたし全く大丈夫です。


ああっ!思い出した!

そうだ!!


若き武将!

確か常盤くんが乾くんをタップして、堕ちかけの私を助けてくれたんだ!

さすがやり手武将。一兵卒の私も見捨てないなんて、家来への慈愛がハンパないね!


……。


ちょっと待て。


そうだ。

思いっ切り見られてた。

告白現場を。

がっつりと。


めちゃくちゃ恥ずかしいーー!

私、常盤くんと喋ったこと無いのに。

かーーっ!これはやばい。

きのぴいと七海に相談しよう!そうしよう!



「ふふっ。」


!?


「…あはは!ふふっ…美久子は、本当に可愛いな。」


美男子が爆笑していた。


「…乾くん。かっ、可愛いって…」

「困ったり(ひらめ)いたり驚いたり、ひとりで百面相してたぞ。可愛いな。」

「……。」

「この、布団を鼻の上まで被っている美久子も可愛いな。草むらで隠れてこちらを見ているうさぎみたいだ。」


デロ甘い。甘さが追加されてる。

草むらのうさぎって何だ。

天敵を伺ってるお決まりのポーズだと思う。

だから何回も嬉しそうにお布団かけ直したんだ!

気に入ってたんだ…。


「……。」

「もう、本当に体調は大丈夫か?…なら、美久子はさっき何故泣いていたんだ?」 


それは…言えない。

あなたの前世は亮介で確信したからなんです、なんて。

普通にはあり得ないびっくり話だし、乾くんは全く気付いてないから。


「…さっきは急に泣いてごめんなさい。もう大丈夫です。ちょっとあって……」


「…そうか。何か気になることがあれば俺に言ってくれ。美久子が心配になることは俺が全て排除するし、潰す。」


言い方が物騒だけど、すごく心配してくれてうれしい。

気になること…聞いてみたい。


「あの…」

「なんだ?」


話しかけた私を乾くんが嬉しそうに見る。私も嬉しくなる。


「あの…ね、乾くん。わたしの名前、呼び捨てしてくれてるのって…」

「嫌か?」


私は首を横に振る。


「…湊人…が…」 


ん?なんか、言葉の歯切れが悪い?


「…湊人が、うさみみちゃんって呼んでいた…。ムカついた。美久子は俺のなのに。…だから、俺は呼び捨てで呼ぶ。」


ちょっと不機嫌な顔になって、耳がちょっと赤くなってる?

乾くん、照れてるんだ。

か、可愛いー!すきだなー、やっぱり。えーん!すきだー!


「ふふっ。」


「!?」


少し笑った美久子を流青が凝視する。

流青もとても嬉しそうに笑い、愛おしそうに美久子を見つめて掛け布団の中の美久子の手を探して握った。


「ひゃっ!」


「美久子。」


手!手、握ってる。手、おっきい…あったかい。


「美久子、俺の傍にいろ。…だから、他はもう見るなよ。いいな?」


黒い綺麗な宝石の目が私を見つめている。



『頼む…。俺の傍にいてくれ…』



あの、静子の最期の時、亮介にも言われた言葉…

同じだ。

ああ。戻って来てくれたんだ。

私の元に。


美久子は何度も頷きながら涙し、全てに感謝した。

涙に慌てた流青は、必死に美久子の頭を撫でて慰めた。

そんな優しい流青に美久子はまた涙しながら笑ってしまった。



その後、流青が呼んだ運転手さん付きの黒くて大きな背の高い車に乗せられ、流青の膝に乗せられたまま美久子の自宅に連れて帰られた。


話の途中で流青が『じきに迎えが来る』と言っていたのに、別件で思考が忙しかった美久子はちゃんと聞いておらず、現状に驚いた。

最初はまた抵抗していたが、今はすっかり大人しくされるがままの美久子を抱きしめている流青は、心がとても満ち足りていた。



幼い頃からずっと思っていた、足りないもの。

俺はやっと見つけた気がする。

いや、見つけた。

この小さくて柔らかい、

俺の心も身体も温めてくれる可愛くて大切なもの。

抱きしめて腕の中にすっぽり収まる宝物。

本当は持って帰りたい。

自宅に隠しておきたい。

もう、他人に見せたくない。美久子の家族にも友達にも。

人生は突然何が起こるかわからない。

早く手を打ち俺の元に置いて、囲って大切に護らねば…



遅い初恋に目覚めた流青は、

残念ながら思考が大変危険な方向に向かい、後日それを知った健二に頭をグーでしばかれ、湊人に爆笑されるという一連の流れを苦々しく経験する。


そう遠くない未来にはその危険な思考を概ね実行するが、まだこの頃は『とりあえず未成年の間は…』と、自制した。

さすが全国模試成績が常にトップクラスの流青は、やればできる子だった。










※流青、ヤンがデレ始めます!


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