43 美久子の新しい友だち
頑張って朝早く起きて、三本も早い電車で登校した美久子は、大好きなラノベを自席で読んでいた。
教室にはまだ数人の生徒しか来ていない。
今読んでいるラノベは七海から借りた。
テンションが上がるのを読みたい!と願望を言うと、オススメの異世界転生ニセ悪役令嬢モノを貸してくれた。
昨日の夜から読み始め、バッサバッサと事態を解決するニセ悪役令嬢が爽快で面白過ぎて、今朝は通学電車の中から今までずっと読んでいる。
このヤンデレ束縛監禁王子がほんっとに曲者なのよねー。
私は冷酷眼鏡宰相が推し!眼鏡…くっ!メガネかー!
やっぱりメガネは乾くんの授業中だけのレアメガネが最高だ。
ううっ。睨まれて嫌われてからやっぱり勇気無くて乾くんチラ見してないけど、そろそろしたいな…。こんなのサラリーマンのおっさんみたいな願望だなー。
と、一人で朝の至福の時間を過ごしていた。
「…ちゃん……うさみみちゃん!」
「はいっ!へっ!?わ、わたし!?」
ラノベの世界と自分の妄想にどっぷり浸かっていた美久子は、いきなり目の前にいる王子様に本気でびっくりした。
えっ!?王子様!?ここ宮殿!?んんっ?教室!!
「そう!宇佐美 美久子ちゃんだから、うさみみちゃん。めっちゃ可愛いし、ぴったりだよね!」
「へっ!?うさみみ!?かっ、可愛い!?」
「うん。これからうさみみちゃんって呼ばせてね!あ、俺は八木湊人っていいます。同じクラスだよ。」
「…あ、はい、知ってます…」
いや、学院で知らない人はいないでしょー!
多分、隣の学校の子でも八木くんのこと知ってるよ。
「そう!よかった!うさみみちゃん、よく本読んでるよねー。」
「あ、はい…。えっと、小説…です。」
目の前の王子がラノベという言葉を知ってるかどうか不安になり、とりあえず分かりやすく伝えた。間違ってはいない。
よく本読んでるよねって…私の存在知ってたんだ…
「そう!すごいね!俺もこう見えて結構本好き。太宰とかー、三島由紀夫とかー」
なんだか小説の方向性が違いすぎてて居たたまれない。
すみません!私、冷酷眼鏡宰相が出てくるようなライトなノベルが好きなんです。
太宰の宰は一緒だけれどもー!
「じゃ、俺たち今日から友だちだね!お互いに本好きって知ってるし、小説読むって趣味も一緒だしね!」
なんて強引っ!こんな王子様といきなり今日から友だちって、なに!?今日はお祭り!?
…でも…なんか、面白いひとだ。
「…ふふっ。あはは!」
美久子は思わず笑った。
「!!?」
湊人は一瞬固まる。
「……うさみみちゃん。可愛い…ね。」
小さな声で呟いていた。
「えっ?」
「…ううん。何でもない。…うさみみちゃん、なーんか困ったこととかあったらいつでも言ってね。友だちだもんね!」
「えっ!う、うん。ありがとう…。こちらこそ、よろしくお願いします?」
「何で疑問形なんだよー!面白いね!」
えっ?面白い?どこが??
小市民には王子の面白ポイントがわからない。
「ちょっと!湊人!美久に何ちょっかい掛けてるのよ!」
登校してきた今朝も美しく光輝いているきのぴいが、若干怒りながら寄って来た。
「あ、メグおはよー!今日からうさみみちゃんと友だちになったんだー。ねっ!」
「えっ!?あ…はい。そうです…ね?」
「うさみみちゃん?友だち?…湊人。あなた…何企んでるのかしら?」
「別にー。うさみみちゃん可愛いから、友だちになりたいって思っただけ。」
「ふーん…。そう。なるほどね…。ま、こんなヤツでもまあまあ空手強いから、用心棒には良いかもね。」
「まあまあって何だよ!クラブだって頑張ってるし、今はもうメグのこと絶っ対に倒せる自信あるよっ!」
「当ったり前じゃない!私は小6で辞めてるし、あなたとはもうガタイが全然違うんだから今勝てる訳ないじゃない!」
「えっ!きのぴい、空手してたの?」
「そーだよ!メグは小さい頃めっちゃ強くて、女白ゴリラ…」
ドゴッ!!!
「痛ってー!!メグ、膝蹴りは無しだろっ!めっちゃ痛ってー!!!」
「湊人が一言多いからでしょ?ほんっとに昔っからムカつく。」
美久子は目の前の状況を唖然として見ていた。
多分、口が開いていたと思う。
「私と湊人は幼稚園から同じ空手道場に通ってたの。私は小さい頃から結構背が高くて体が大きかったんだけど、湊人は…ぷぷっ。ほんっとに小さくて色白で、少女みたいだったのよねー!」
「うるっさい!少女言うな!女白ゴ…」
「あら。そんな事言うなら、私も言うわよ。小学生の時に組み手しててー、私が湊人のこめかみに寸止めの回し蹴りをしたらー、湊人がお漏…モゴモゴ…」
残念。きのぴいの口を八木くんが抑えたから、最後の重要事項が聞こえなかった。
「それ以上言わないで!すみません、もう言いません。メグ様、ほんとにすみませんでした。」
「分かればよろしい。」
「おはよーみんな!何か楽しそー!何なに?」
今日も超絶可愛い七海がキラキラ笑顔でやって来た。
ああ。癒される。
「七海おはよー!知ってた?きのぴい、空手してたんだって!」
「そうそう!めちゃくちゃカッコよかったよー!私、小学生の頃、何回も空手の練習見に行ったもん。技がキレッキレ!だからきのぴいのダンスはバレエの優雅さと空手のキレですごいのよねー」
「さすが七海!よく分かってるわ!」
「七海ちゃん!俺は!?俺もあの道場いたんだけど!」
「……?いた?全く覚えてない。大っきいから常盤くんは覚えてるけど…。」
「マジかー!」
何だか朝からすっごく楽しい。
美久子はとても幸せだった。
※流青はバスケ部の朝練、健二はSSRにて朝のお仕事のため、
この楽しいひとときには参加出来ませんでした。
流青、残念!