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37 流青の気持ち(4)◇
彼女に保健室で手当てをしてもらったお蔭で、手首の痛みは早くに治まった。
クラブも数日様子を見ただけで直ぐに練習に復帰した。
あれから気が付くと、彼女を目で追っていた。
学院では珍しい、見た目は本当に普通の女の子。
他の女子のように、内側から滲み出ている黒い欲のような物がまるで無い。
自然なのに周りと何かが違う。
綺麗な焦げ茶色の髪と、髪と同じ色の大きな目。
ニコニコと友達と楽しそうに話している時の笑顔。
あの笑顔をもう一度、俺にも向けて欲しい。
彼女にお礼を言うことにした。
周りに誰も居ない廊下ですれ違った時に、彼女を呼び止めた。
宇佐美の手当てのおかげで治りが早かった、ありがとうと伝えると、赤くなって少し目を潤ませて、謙遜しながらあの笑顔で喜んでくれた。
ほんの一瞬だったが、俺はとても満足していた。
まさかこの事で彼女に辛い思いをさせてしまうとは。
翌日、俺は自分の失態を大いに後悔することとなる。