36 流青の気持ち(3)◇
「乾くん、どう?痛い?大丈夫?」
優しくちょうど良い高さの声。
少し緊張しているようだが、俺のことを本気で心配してくれているのが伝わってくる。
他愛も無い会話をする。
自分でもかなり珍しく、女子と普通に会話していることに驚く。
なんだか、とても穏やかだ。
ふと、気が付いた。
この部屋には二人っきりだ。
そう思うと、急に落ち着かなくなってきた。
思わず少し顔を背けると、彼女が養護教諭の川北先生を呼びに行くと慌てだした。
この時間が終わってしまうのは…何か嫌だ。
慌てて彼女を止めて、このまま待つと伝えた。
少し固まった彼女が
優しく微笑んだ。
「!?」
目の前に衝撃が走った。
何だ、今の、は。
顔を真っ赤にして慌てる彼女。
もっと見たい。
もっと照れさせたい。
彼女が丁寧に自己紹介をしてくれた。
ちょっと昭和のサラリーマンみたいな言い方で。
思わず笑ってしまうと、彼女が更に真っ赤になって照れて慌てる。
可愛い。
女の子を可愛いなんて、初めて思った。
自然で優しい笑顔に…胸が痛くなった。
こんな女の子、初めて見た。
「…俺は乾 流青です。宇佐美…さん。…宇佐美。これからもよろしく。」
俺も自己紹介をした。
彼女の焦げ茶色の綺麗な目をじっと見つめながら。
この子が気になる。
この子が…欲しい。
心の奥底に隠れていた、
何かどす黒い感情が溢れ出してきた気がした。