35 流青の気持ち(2)◇
俺が、宇佐美 美久子と初めて話したのは、ついこの間だった。
高校2年の新学年になってすぐに行われたミニ球技大会で、俺はバスケに参加した。
健二も湊人も一緒だった。
着々と勝ち進み決勝の試合開始直後、同じチームの山下と交差する時にバランスを崩して倒れ、左手首を捻ってしまった。
そのまま試合に出ていたが、痛みが取れずハーフタイムで健二に話した。
「健二、悪い。さっき手首捻った。痛みが引かないから、悪いけど少し下がらせてくれ。」
「おい、大丈夫か?見せてみろ。…お前、腫れてるぞ。保健室行って早く冷やせ。捻挫を甘く見るな。」
武道で怪我に詳しい健二に睨まれる。
「ありゃ、流青、大変だ。早く保健室行っておいでー!後は俺たちに任せろー。絶対優勝して、骨は拾ってあげるからねー」
調子の良い湊人が嬉しそうに流青の背中をばんばん叩く。
「うるさい。俺はまだ死んでない。」
「乾くん、ごめん…。俺が避けきれなくて…」
「大丈夫だ。気にするな。山下、悪い。後頼む。」
「…わかった。ありがとう…。俺、がんばるから。」
「流ちゃーん、俺もがんばるー」
「湊人はいいから!流青、早く行け!」
大きな歓声が響く体育館を出て、保健室に向かった。
奴等ならやってくれるだろう。
外は良い天気だった。
グラウンドではサッカーの試合をやっていた。
試合の様子が少し気になるが、左手首がかなり痛くなってきたので右手で支えて保健室へ急いだ。
保健室のドアを開けると、一人の女子生徒がいた。
初めは逆光で顔が見えず、誰かわからなかった。
名前を呼ばれよく見ると、確か同じクラスの女子だった気がする。
彼女の名前は知らなかった。
体操服の左胸辺りに入っている名前の刺繍を見る。
宇佐美さん…っていうのか。
彼女はかなり慌ててはいたが、手際良く処置をして手首を氷で冷やしてくれた。
冷たくてかなり気持ちが良い。
痛みが和らいでいく気がする。
この程度の捻挫ではクラブを休みたくない。
今日はどうしようか等と考えていたら、彼女が話し掛けてきた。