26 前世の私(5)
亮介が米国に旅立った後、静子は抜け殻のようになった。
亮介がいなくなった日々は、本当に灰色の世界だった。
静子にとって亮介は、もう一人の自分のような存在だった。
夜は泣きながら眠り、学校に行き、帰って来てからまた泣いてそのまま眠るという暗鬱たる日々を過ごした。
余りの様子に静子の両親も友達も大層心配していたが、涙は止まらなかった。
そんな中、米国の亮介から静子にエアメールが届いた。
手紙の内容は米国での慣れない暮らしや学校のこと、なかなか英語が話せず苦労をしている様子など、亮介からの初めての手紙に心から喜び、元気そうな様子に安堵した。
手紙の後半は静子が泣いていないか、風邪を引いていないか、学校では苛められていないか、と静子を心配する言葉ばかりがたくさん書いてあった。
特に、他の男に話し掛けられても無視するように、という一文は他の字よりも筆圧が高く少々大きく書かれていて噴き出してしまった。
そして最後は『必ず帰るから、大人しく待っていろ。』と締めくくられていた。
静子は手紙を抱きしめて嗚咽した。
会いたいという様な言葉は書いていなかったが、文面から亮介の静子への思いが溢れていた。
静子は泣きながら何度も何度も繰り返し読んだ。
手紙を読んだ後、静子は泣くのをやめた。
米国で苦労している亮介の方がずっと辛い。
『必ず帰る』と言ってくれた亮介を信じて待とうと思った。
静子は亮介にすぐに返事を書き、それから二人は何度もエアメールを送り合った。
このエアメールが二人の心の拠り所となった。