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22  前世の私(1)

前世の私、山下 静子はとても愛くるしい容姿で生まれた。


雪のように白い肌と艶々した黒髪、焦げ茶色の二重の眼にあどけない笑みを向けられると周りは堪らず静子を可愛がった。


戦前から医薬品の販売会社を営んでいた実家は、昭和の高度経済成長期が始まった時期にも重なり経営も順調でかなり裕福だった。

一人娘の静子は何不自由なく過ごし、少々大人しいが素直で優しい少女に育った。


聖陵学院幼稚園に入園した静子は、同じクラスにいた亮介とすぐに仲良くなる。

亮介はとても綺麗な容貌で、大変利発な子供だった。

大人しく愛らしい静子を苛める男子からは必ず守り、園内を歩くときはいつも静子と手を繋いでいた。

強くて優しくて格好良くて、いつも守ってくれる亮介のことが静子は大好きだった。



ある日、クラスで飼っていた金魚が死んでしまった時、

金魚鉢の前でしゃがみ込んでいた亮介は、切れ長の真っ黒な宝石みたいな目に涙をいっぱい溜めて哀しみに耐えていた。

静子は亮介のそばにそっと寄り添い、小さな両手で亮介の手を包み込んだ。



トン、トン…



片方の手でほんの軽く、亮介の手の甲を一定のリズムでたたく。



ハッと静子を見た亮介の目から、溜まった涙がポロッとこぼれ落ちた。



トン、トン…



静子の母はいつも眠る時にこうして静子の背中を軽くたたいて寝かせてくれた。

泣いて泣き止まないときも、背中をトントンと軽くたたいてあやしてくれた。

魔法みたいに落ち着いて、とても気持ちが良くて大好きだった。


小さな静子は泣いている亮介をなぐさめたくて、母親と同じように亮介の手をほんの軽くトン、トンとたたいた。



亮介は俯き、ぎゅっと静子の手を握ったまま声を出さずに泣いた。

そのあいだ、静子は黙ったままずっと亮介の傍にいた。



それから二人は、益々一緒に過ごすことが多くなった。

それは幼稚園を卒園するまでずっと続いた。


それぞれに好意を持つ他の園児達が嫉妬し、必死に引き離そうとしても二人は決して離れなかった。


周り大人達は二人の美しい容姿と間にある独特の空気感に薄らと物恐ろしさを感じていたが、誰も何も言えなかった。



お待たせしました。

やっとこさ、前世のくだりが始まります。

ここまで長かった。。

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