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18  胸が痛い

たくさんの方が見てくださって、震えます。

本当にありがとうございますm(_ _)m

美久子が昭和ワードを多用するのは、なにも藍子おばあちゃんだけの影響では無い。

美久子ラブな父 孝と、父に負けじと美久子を溺愛する叔父の稔の影響もかなりある。

二人とも小さい時から美久子を可愛がり、それはもう可愛がり過ぎて構い過ぎてキレられて、それぞれの妻に慰めてもらう…のエンドレスだった。


真面目で優しい父は関西出身で、お笑いをこよなく愛する。

家族の前で渾身の自作ギャグを披露しても、爆笑を取れるのは母のみだ。母、ゆり子は笑いの沸点が低すぎる。


叔父は今でも会う度に『美久ちゃん!そろそろまたピアノ弾きたくなってなーい?』と聞いてくる。なってない。


3才から始めて小学生2年生で辞めたピアノは、週に一回、現役バリバリの音大の先生が教えてくださった。

兄と従兄弟共々、叔父の家にあるスタインウェイのグランドピアノでレッスンを受けた。


レッスンの日は必ず叔父家族と夕食を食べて、叔父と共にテレビを見て、叔父と共にデザートのケーキを食べた。

最後は必ず叔父に今日こそは一緒にお風呂に入ろう!と懇願されるが兄が塩対応で即却下する…の繰り返しだった。

決してめげない叔父はこの時間を毎週とても楽しみにしていて、会議や接待を絶対に入れなかったらしい。



ピアノの才能が全く無かった美久子は、いつまでたってもバイエルから抜け出せない。

同じ頃、何でも器用にこなす兄はカンパネラを暗譜で弾いていた。

いい加減先生にもスタインウェイにも申し訳なくなってきた頃、中学生になった兄がピアノを辞めると聞いてこれ幸い!自分も母に辞めたいと泣きながら懇願し、バイエル地獄からやっと抜け出した。

叔父には辞めると反対されることが分かっていたので、叔父の海外出張中に事を進めた。

出張から帰ってきた叔父は山盛りの出張土産を手に涙目で『ピアノが駄目なら他の習い事を我が家で…』と懇願してきたが、もうケーキは少し飽きてきていたし、その当時はお友達とのリコーダーの二重奏に夢中だったので丁重にお断りをした。

リコーダーなら狭い我が家でも余裕だ。



その後定期的に、叔父の元気が無くなってきたからそろそろ遊びに来てー!と叔母から連絡が入るので、月2回は必ず遊びに行った。毎回涙目で大層喜んでもらえるので私もうれしかった。



そんな家族に愛されてすくすくと育った美久子は、今朝も制服のセーラー服をごくごく普通に着こなして元気に家を出た。


聖陵学院高校の制服はとても目立つ。

男子は上下紺色のブレザー。女子は紺色のセーラー服。

一見、普通の制服に見えるけど実は全員イージー・オーダーだ。生地と仕立てが普通の既製品とは全然違うらしい。私にはよくわからんけど。

高校入学前に学院から指定された銀座のなんちゃらテーラーに行って、色んな角度から採寸をしてもらった。結構時間が掛かって大変だった。


中学と高校は同じ制服だけど、男子はネクタイの色、女子はスカーフの色が違う。

止んごとなき御子息御令嬢が着ると高級制服は更にゴージャスになり憧憬(ショウケイ)の対象だ。

ちなみに私は十人並み以下なため、この対象外だ。



隣の車両から向けられるいくつかの鋭い視線に気付かず、スマホでお気に入りのダンスボーカルユニット No × doubt(ノーダウ) を聴きながら、今日の乾くんチラ見タイミングをどうしようかとにんまり考えていた。





「…っと!…ちょっと!待ちなさいよ!」


「へっ?」


高校の正門から入り、校舎を曲がりかけたところでいきなり誰かに呼び止められた。


「あなた、Aクラスの宇佐美さんよね。」


「…はい。そうですけど…」


後ろを振り返ると、キラキラした女子が3人立っていた。

雰囲気はちょっと怖いけど、同じ制服なのに私とは何でこう輝きが違うんだろう。


「あなた、調子に乗ってない?」


「流青くんにちょっと話しかけられたからって!」


「高校から入ってきたくせに!私達は小学校から一緒なのよ!

流青くんに馴れ馴れしくしないで!」


こんな少女マンガみたいなこと、実際にあるんだ。


矢継ぎ早に色々言われて驚いて固まった。

昨日、乾くんと廊下ですれ違った時にお礼を言ってもらった、ほんの短時間のやり取りを見てたんだ。

そして言ってること全てが理不尽だ。


「流青くんはとっても優しいから、勘違いして調子に乗らないでよね!」


「あなた、自分の姿を鏡で見て思わないの?地味って。」 


「そんな地味なくせに流青くんと話すなんて厚かましいのよ!」


私が地味なのはその通りだ。

だから目立たないように、静かに生きてきた。

他人に言われなくっても普通以下だってこと、十分わかっている。


登校している生徒たちがすれ違いながらこっちを見ている。


怖い。

目立ちたくないのに。

キツく言われたくないのに。

足が竦む(すくむ)

…なんだろう。

この感覚、私、知ってる気がする…


何も言えず呆然と固まっていると、後ろからまた声を掛けられた。


「美久ー!」


きのぴいの声だ!


「きのぴい!」

「美久っ!どうしたの!?」


きのぴいが私の横に走って来てくれて、3人組をギロッと睨んだ。

美女の睨みはかなり怖い。

キラキラ3人組がビクッとして、かなり気まずそうにしている。


「うん…なんかこの人達が」「わかればいいのよ!」

「と、とにかく、忠告したから!」

「もう、調子に乗らないでっ!」


「はーっ!?美久がいつ調子に乗ったのよ!?」

「き、きのぴい!もういいよ!大丈夫だから!」


170センチのモデル級超美人に見下ろされ睨みつけられて恐怖を感じたのか、キラキラ3人組は逃げるように走って行った。


すごい。逃げっぷりも捨てゼリフも少女マンガの悪役みたいだ。


「何あれ!ただの弱い者いじめじゃない!腹が立つ!」


「きのぴい!ありがと…怖かった…。

突然でびっくりして、固まっちゃった。きのぴいに助けてもらってほんと助かったよ…。」


「あの子…Cクラスの大島さんね…。ふーん…。

で、あの子たちが言ってた、調子に乗るなって何?美久、意味わかる?」


「あー…。うん、多分。あの事…かな…」


全部吐くまで離さないと、とっても良い香りのきのぴいに腕を組まれながら教室まで連行された。


ミニ球技大会の日の、乾くんとの保健室でのやり取りから、昨日廊下でお礼を言ってもらったことまで全て白状した。

乾くんを好きだってこと以外全部。

先に教室にいた七海にももう一度同じことを白状させられた。もう、拷問の域だ。


「へー!そんな面白い事があったのね-。私が必死にシュートをばんばん決めてるときに美久子ちゃんたら初恋を…」


「ち、ちがうよー!そんなんじゃないし!もう、きのぴい、声おっきいから!申し訳ございませんが、もう少々小さめのお声でお願いします…」


「もー!私も全然知らなかったー!美久ったらそんな面白い…んんっ、きゅんとする話、もっと早く聞きたかったよー!」


「きゅん!?ご、ごめん。何か言うタイミング逃してて…。」


「わ、予鈴鳴ってる!詳しくはお昼休みね!」


それぞれ急いで自分の席に戻る。

ようやく解放された。

今日は朝からすっごく疲れた…。

こういう時こそ、乾くんチラ見で元気をチャージしよう!

廊下側を見るフリしながら乾くんをチラ見…


!?


んっ!??んんっ!??


ばっちり目が合った!?


うそっ!!!


めっちゃこっち見てる!!


しかも、若干眉間にシワ寄ってる!?


こっ、こわっ!!


流青からバッと目を逸らして机に広げたノートを見る。

今のは見間違い?うん、見間違いかも…。

気になる…。

よ、よし!も、もう一度チャレンジしてみよう。


普段は根性無いクセに、こういう時はムダなやる気パワーが出てしまう。

勇気を出して、もう一度チラ見してみた。


バチっと目が合う。


乾くんは眉間にシワを寄せて、完全にこっち向いてる。


今度は乾くんからすぐに逸らされた。


何故だかわからないけど、あの眉間のシワは完全に怒ってる。と思う。



嫌われてしまった。



何をしたかわからないけど、怒らせてしまったんだ。

何にも始まって無かったけど、

美久子は失恋をしてしまった。


胸が痛い。

悲しくて悲しくて、涙が出てきた。

涙がバレないように下を向いて、いつも予備で持っているマスクをした。


午前中は授業の内容なんてほとんど入ってこなかった。






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