15 ミニ球技大会の日(3)
「乾くん、どう?痛い?大丈夫?」
「…うん、大丈夫。ありがとう。氷、冷たくて気持ちいい。」
「…バスケの試合のとき、捻っちゃったの?」
「…うん。ああ。山下と交差するときに避けきれなくて…。
周りに人いっぱいいたから変な体勢でコケたら捻った。」
多分、乾くん見たさにコートの周りにはギャラリーがかなりたくさんいたんだろう。本音を言うと私ももちろん見たかった!
ウチのクラスのバスケには乾くんの他に、常盤 健二くんと八木 湊人くんというイケメン達も出てたから、更にギャラリーは多かったんだと思う。
観客にぶつからないように避けた結果、手首捻っちゃった乾くん。
本当になんて優しいひとなんだろう。もしや神?仏なの?
「…。あの…川北先生は?」
養護教諭の川北先生は、足首を怪我をした生徒を見るために救急箱を持ってグラウンドに走って行ったと、前の手当て当番の生徒が話していた。
乾くんに話すと、ちょっとぎこちなく顔を背ける。
「あっ!このままじゃ心配だよね!ごめん!ちょっと川北先生呼んでくるね」
「いや!違うんだ!大丈夫。…きっととりあえず冷やせって言われると思うし、今は怪我の手当てしてると思うから、とりあえずこのままここで待つよ。」
優しい。自分も怪我をして不安だと思うのに、他人を思いやれるなんて、なんて優しい人なんだろう。
イケメンなのに心優しいって、前世でどれだけ徳を積んだのだろう。
色々と素晴らしい乾くんを想像して、思わず顔がほころんでしまった。
「…。なに…?」
「えっ?」
「…。いや、今、ちょっと笑ってたから」
「うそっ!私、今笑ってた!?は、はずかしい。恥ずかしすぎる…」
流青に指摘されてどんどん赤くなって、美久子は居たたまれなくなってきた。
私、キモいよね!キモくてごめん。乾くん。
「…。赤くなって…。慌てすぎ。大丈夫だから落ち着いて。
これ、ありがとう。痛み、少しマシになってきた気がする。」
「よかった…。もう少しこのまま冷やしててね。後で川北先生に必ず見てもらってね。」
「…うん。ありがとう。…宇佐美…さん。」
「えっ!?私の名前、知ってて」
「体操服に書いてあるから…」
「あっ!…だね。」
テンパりすぎて恥ずかしい。
自分の体操服の左胸に『宇佐美』と、がっつり明朝体の刺繍がされている。
体操服にわざわざ名前を刺繍するなんて今どきほんとダサいし、こういうところもムダにセレブだなーと思った。油性ペンで書けばいいじゃん!簡単だよ!余計にダサいか。
チラッと見ると、もちろん乾くんの左胸にも名前の刺繍があった。
乾くんの名字だと、明朝体のダサ刺繍もめちゃくちゃカッコよく見える。不思議だ。
「もしかして同じクラス…だよね?」
「えっ!うん。昨日から同じクラスの宇佐美 美久子です。
ひとつよろしくお願いします。」
美久子が赤い顔のまま頭をぺこりと下げて挨拶をすると、流青がきょとんした顔で固まっている。
「ぶっ。ふはは!ひとつよろしくって、年配の人みたいな言い方…。昭和かよ…。」
肩を震わせて笑う流青に、今度は美久子が固まってしまった。
イケメンの爆笑!なんて至高!!!
思わず一緒になって笑ってしまった。
「…あはは!ごめん!私、おばあちゃんっ子だから、つい昭和ワードが出ちゃって…」
綺麗な切れ長二重の目尻に、笑い過ぎて薄ら涙を溜める美男子。
至高の美男子が笑い上戸だなんて卑怯すぎる!可愛いじゃないかー!
しまった!スマホで写真撮っとけばよかった。と、本気で思った。
ひとしきり笑って満足したイケメンが、こっちを向いた。
「…俺は乾 流青です。宇佐美…さん。…宇佐美。これからもよろしく。」
憧れのひとがわざわざ自己紹介をしてくれた。
こんなにたくさん話が出来た。
信じられない様な事が続く美久子は、今度こそ流青を見て固まった。
なんだか真剣な目でじっと見つめられている。
乾くんの黒い目は、黒くてキラキラ光る宝石みたいだった。
その奥に昔どこかで見たことがある、獰猛な光が見えた。
前世の下りがなかなか出てこなくてごめんなさい。
もう少しお待ちくださいm(_ _)m