128 本気の恋心 ◇
「……そうか。瀬田川病院は乾総合病院の傘下に入るんだな」
「ああ。正彦伯父さんが全て買い取った」
「それが良いよねー。病院のバラ売りは…やっぱり後味良くないよね…」
流青、健二、湊人はSSRで瀬田川親子の事件後の話をしていた。
事件後、瀬田川病院は流青の伯父の正彦が全て買収し『乾総合病院 杉並医療センター』として再出発した。
土地の半分の権利を持っていたダーティな金融屋からは相場より少し高めで買ったが、瀬田川が持っていた半分の土地は競売に掛かった為、ほぼ路線価に近い値段で買えた。
瀬田川はそちらの言い値で良いから買い取ってくれと泣きついてきたと、接見したこちらの弁護士も苦笑いしていた。
新しい病院の経営方針、乾総合病院スタッフとしての心構え、その他福利厚生や給与面等の詳細を説明した後に希望退職者を募ったが、ほぼ全てのスタッフが残留を希望した。
皆、少しだが給料が上がり福利厚生も良くなったため、以前と違って安心して明るく元気に働いているそうだ。
「瀬田川は実刑判決が出たねー」
「ああ、案外早かったな」
「控訴しないんだって?」
「…ほとぼりが冷めるまで、今は外に出たくないらしい」
「…時間の問題じゃないと思うけどねー。結局、借りた金融屋さんには借金残ってるから、瀬田川が出て来るのをきっちりと待ってるだろねー」
「百合奈は?」
「保護観察付いたし、今は何処かで知り合った男のところに転がり込んでいるらしい。
念のために常盤の方で定期的に居場所をチェックしてもらっている」
「アイツも堕ちたね」
「実行犯のあの外国人二人は?」
流青がチラリと健二を見るとニヤリと笑った。
「実刑判決が出るだろう。こっちは10年ふっかけてる。まあ、その後、出て来てもまだ色々あるからなあ。いつアメリカに帰られるかなあ。フフッ」
「……手を緩めないねー」
健二の携帯が鳴った。
「すまん。ちょっと電話出て来る」
電話をしながら健二が席を離れた。
「ほんと…この一年色々あったねー。来週で高2も終わりだよ」
「早いな」
「早いねー」
「……なあ、湊人」
「うーん?」
「……お前、美久子に惚れてるだろ」
ガタッ!
湊人が座っていた椅子からバランスを崩したが、何とか転けずに踏ん張った。
「……」
「…はっきり言えよ」
「……ああ。好きだよ。大好きだ」
ガタッ!!!
流青が立ち上がり、勢いで椅子が後ろに倒れた。
鋭い目で湊人を見据える
「あー、でも。行動は起こさないよ。俺、うさみみちゃんは泣かせたくないから。本気だから……俺のせいで泣いている顔は見たくない」
「……」
「俺が告白したら、すごく悩んで俺たちの仲とかも心配して、どうしたら良いかわかんなくなって困って泣いちゃうんだろうなーって思った。
うさみみちゃんは本当に優しい子だからさ」
「……」
「あの子は本当に可愛いよね。俺、あんなに素直で優しくて自然な笑顔の女の子見たことない」
「……っ!」
「だから俺は、動かない。あの笑顔を俺のせいで無くしたくない」
「……」
「……でももし、流青が余裕ぶっこいて、うさみみちゃんを泣かせたりしたら、速攻で奪って攫うから。本気で」
「湊人っ!」
「あははっ……流ちゃんが泣かせたらの話だから。大丈夫だよね?
それに……うさみみちゃんは流ちゃんだけが本当に好きだよ。わかってるんでしょ?」
「……」
「…あー、でもなんかスッキリしたー。その自信の無い流ちゃんも見られて、ちょっとスッキリしたわー!
それだけ流ちゃんもうさみみちゃんに本気で惚れてるってことだよね?
……ねえ!健二帰ってきたら何か食べに行こーよ!俺、今日ラーメンの気分!はい、流ちゃんが奢りねー」
「はっ?おい!」
「それぐらい良いっしょ!?俺が黙って譲ってあげたんだからさー!
あ!健二ー!ラーメンいこーよー。流ちゃんの奢りだってー!」
「お、いいな。ごち、流青」
「なっ!?」
「いこーぜー!俺、今日は全部盛りー&替え玉ー!」
「俺もだ」
「……俺も」
男三人は相変わらず女子生徒にチラチラ見られながら、学院近くのお気に入りのラーメン屋さんに向かった。
結局追加で餃子も奢らされ、納得のいかない流青だった。
───その数年後。
実行犯のシュウとウィリーは刑期を終えて出所し、翌週にはアメリカに帰国する予定だった。
深夜の六本木で、久しぶりに気分良く二人で連れ立って歩いている時に、いきなり何者かに真っ暗な路地裏に連れ込まれ暴行された。
特に脇腹を執拗に殴られ、翌朝通行人に見つかるまで気を失って倒れていた。
二人とも病院に搬送されたが、乾燥大麻と覚醒剤を所持していたため通報され、その場で現行犯逮捕された。
その後、二人がどうなったかは不明だ。
「うわっ!健二!このニュース見て!」
「んー?」
「この逮捕された奴ら!美久を誘拐した奴らよっ!
私も殴られたし、思い出してもめちゃくちゃ腹が立つわ!
覚醒剤で逮捕だって!本当に最低な奴らだわ!」
「…そうか。最低だな」
「ほんっと!…ん?でも、暴行されて道端に倒れてたんだって。
何か悪いことしてやられたんだろうね。ほんっとにバカ!」
「……だな。そんな奴らどうでもいい。寒い。恵、こっちに来い」
「もう!まだテレビ見てるのにー」
恵は後ろから健二に抱きしめられ、ベッドの中に引きずり込まれた。
※ここまで思った以上に長くなりましたが、次回、最終話です!