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12 乾くんのこと(2)
乾くんを初めて見たのは、高校の入学式だった。
彼は体育館の壇上で堂々と新入生代表挨拶をしていた。
大人っぽく見えて格好良すぎて、同学年とは到底思えなかった。
キリッとした面持ちで挨拶文を読み終えた後、ほっとしたのかほんの一瞬口元が少し緩んで、はにかんだ笑顔が見えた。
その瞬間、体育館に女子生徒たちの悲鳴が響いた。
乾くんはすぐに元通りのクールな表情に戻った。
あの一瞬で私は恋に落ちた。
あれから一年。
今日、保健室で見たのと同じ、
私が恋に落ちた笑顔だった。
ずっと遠くから見ているだけで、
まさか自分だけにあの笑顔を向けてもらえるなんて、思ってもみなかった。
本当に夢みたいだ。
何でわざわざバスケ部に行く前に来てくれたんだろう。
お昼休みの私はよっぽど顔色が悪かったのかな。
明日、学校に行ったらお礼を言おう。
私から話しかけるなんて初めて…では無かった。
一度だけ。
それもつい最近のこと。
乾くんの手首にも…触れた。