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116  五年後の百合奈


─────事件の日から五年後。



百合奈は六本木のカフェで、通りが見える窓際の席に座って外を眺めていた。


五年前のあの日、父親と人生最悪な計画を実行して、何もかも全てを失った。

本当に何もかも、全て。


逮捕された父親は、三ヶ月前に刑期を終えて仮出所したらしいけれど会ってないから知らない。


母親はすぐに離婚して実家に帰った。

親子の縁を切られたから、今どうしてるか知らない。


私は未成年で保護観察処分になり、学院も辞めた。


今は夜の店で働いている。

21歳になり、お酒も化粧も男も慣れた。

英語が話せるから、馴染みの外国人のお客もいる。



実家だった瀬田川病院は、乾総合病院の分院になっていた。

ネットで調べたら病院の評判がすごく良くて、就職先としても人気らしい。


悔しい。

何度思い出しても悔しい。

私の実家だったのに……。

瀬田川病院のお嬢様って、みんなにチヤホヤされてたのに!

何もかもがあったのに。


今は今夜の同伴のお客待ち。

このお客は病院を三つ経営してるから、上手く愛人にでもなって甘えてお願いしたら病院を買い戻ししてくれるかもしれない。

何としてでも繋ぎ止めなきゃ。



えっ!


ああっ!!


流くんだっ!!!


間違いない!

あの超格好いい顔と背が高くてしなやかな体付き、五年前と変わってない!


早く、お、追い掛けなきゃ!!!



カフェから見えた外の通りを、流青が何人かの大学生らしき男性と歩いていた。

百合奈はカフェを飛び出し、必死に走って追い掛けた。



あれから五年も経ったし、もう許してくれるかもしれない!

もしかしたら、あの地味女と別れてるかも!



いた!見つけたっ!!



「流くんっ!!待って!!」



流青が声に反応して、立ち止まった。



「流くんっ!わたしっ!」



振り返った流青は、五年前より更に精悍になり大人の男になっていた。

本当に今すぐ抱き着きたいほどいい男になっていた。

周りを通り過ぎる女性は皆、熱い眼差しで流青を見ている。



流青は百合奈を見た瞬間、僅かに目を見開いたが、すぐに無表情になった。

目線が氷の様に冷たい。


怖い。



「あ、あの、流くん、わたし、百合奈…」


「誰だ」


「えっ?」


「知らない」


「っ!」


「乾ー!どーしたー?早く行くぞー」



連れの男性に呼ばれた流青は、百合奈をまるで汚い物を見るような侮蔑の目で見下ろし、去って行った。


それが百合奈が最後に見た流青だった。




「……あっ、ああっ!うわあーーーーっ!!!!!!」




百合奈はその場に崩れ落ち、狂ったように泣いた。



以前、流青に言われた言葉。


『…もし、美久子に何かをしたら、いくらお前でも俺は絶対に許さない。

俺からお前の存在を全て消す。過去も未来も全てだ。いいな』



流青は宣言通り、百合奈の存在を消していた。

犯した罪は一生許さずに。



大好きだった初恋相手に、自分の存在を消され冷たく見下ろされた百合奈は、心が壊れた。




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