107 創立100周年記念パーティー(35)
「美久子ちゃん!ごめんね、大丈夫?どこか痛いところはない?」
妖精だ。
東京に妖精がいるとは。
めちゃくちゃ可愛い。
愛くるしい大きなぱっちりした目はアンバー色で、オレンジと赤を混ぜたような茶色。
背中まであるフワフワの栗毛色を綺麗なハーフアップにして、後れ毛が品良く、可愛いのに色っぽい。
アイボリーの総レースのロングドレスを着た妖精は、何故私の名前を……
「お、お母さんっ!?」
お母さんはおかしすぎる!
どう見ても20代前半だ。
もしかしたら、私と同い年に見えるかも。
お母さんて!お母さんって!!
「志織さんって呼んで欲しいの」
「母さん」
「志織さんっ!」「きゃ!美久子ちゃん!」
美久子と志織がすぐに意気投合してきゃっきゃと喜んでいたら、ぺいっと剥がされそれぞれに捕まった。
「「「「「きゃー!」」」」」
「志織、もう休んでなくてよかったの?」
「美久子、俺から離れたら駄目だ」
信彦と流青にそれぞれ腰を抱かれ、離されてしまった。
「信くん、私もっと美久子ちゃんとお話したい」
「うん、後でね」
左腕で志織の腰を抱き、美久子にばちっとウインクをした信彦は、そのままステージ横の方に行ってしまった。
「「「「「きゃー!!」」」」」
「か、かっこいー!」
「美久子」
はっ!やばい。声に出てた。
横からひしひしと伝わって来る怒気のオーラが怖すぎて、美久子は流青を見ることが出来なかった。
招待客と話していた一彦の傍にパーティーの運営者が近付き、何かを耳打ちした後一彦が頷いた。
「さあ!そろそろ皆さまにご挨拶しないと。正彦、流青、行くぞ」
一彦の後をすっかりイケメン男性に戻った正彦、妻の理乃が付いてステージ横に向かっていった。
「流青くん!ここから見てるね!一橋さんもいてくれるし、大丈夫だからね」
美久子は後ろにいる一橋ににこっと笑い、流青を見た。
「何を言っている。美久子も一緒だ」
「え?うそっ!?ええー!?」
流青に腕を取られ、美久子は踏ん張ったがそのまま引き摺られていった。
一橋はその後を静かに付いていった。
「美久ー!がんばれー!」
「ミクチャーン!シャシン、バッチリ、トルカラネー!」
「美久ー!鯛めし美味しかったよー!」
引き摺られている途中、恵、レオン、七海が満面の笑みでぶんぶん手を振って声援を送っていた。
すぐ後ろに健二と湊人もいた。
「えええっ!?いや、ちょっと!わ、わたしも鯛めし!食べたいっ!!流青くん、離してっ!」
「大丈夫だ。後で腹いっぱい食べさせてやるからな」
「ご歓談中の皆さま。
宴もたけなわではございますが、そろそろお時間がまいりましたので、締めのご挨拶を名誉院長の乾一彦様にお願いいたします。
乾一彦様よろしくお願いいたします」
ステージ上に乾家一同が並び、流青の隣の一番すみっこに美久子も立たされていた。
ステージ上から見るとライトが眩しくて余り人の顔がよくわからなかったので、美久子は少し手脚とアゴがカタカタ震えるくらいのレベルでいられた。
会場中の招待客が一斉に拍手をし、ステージ中央の一彦に注目した。
「わが乾総合病院は100年前に祖父が小さな診療所を開院したのが始まりです。
お蔭様で今年100年を迎えることが出来ました。
病院スタッフ一同が毎日真摯に実直に患者様の不安、苦痛、要望にお答えすることで今日を迎えることができました。
そして、皆さま方が私共を支えてくださったお蔭だと痛感いたしております。
本当にありがとうございます。
私共は神ではありませんので、全ての患者様を救うことは出来ません。
私も実の弟を救うことは……出来ませんでした。
……大切なひとを失うのは、大変辛いことです。
一人でも多くの命を救うために、これからもスタッフ一同、力を合わせていきます。
皆さま、これからもどうぞよろしくお願いします」
一彦が頭を下げ、ステージ上の乾家一同と美久子も頭を下げた。
会場中に大きな歓声と拍手が響いた。
美久子の目には涙が溢れていた。