105 創立100周年記念パーティー(33)
「お父さんっ!」
右前方から大きな声を掛けられた。
その声の方を見ると、流青にそっくりな父親世代くらいの男性が焦った表情で向かって来た。
「ええっ!?流青くん!?」
「ははは!確かにそっくりだね」
美久子の言葉に一彦は楽しそうに笑った。
「お父さん!どちらに行かれていたんですか?……そちらのお嬢さんは…?」
「あっ!初めまして、宇佐美美久子と申します!」
一彦の腕からそろーっと自分の腕を離し、目の前の流青そっくり男性に少し顔を赤らめながらお辞儀をした。
この方、流青くんにめっちゃ似てるー!
か、か、かっこいー!渋いー!!
ん?お父さん?
「宇佐美美久子……さん!?君が、美久子さん!!」
「へっ?はい、そうです…」
流青そっくり男性は、美久子の名前を聞くと驚き、美久子を凝視し、綺麗な切れ長二重の目尻を下げて泣きそうな顔をした。
「え?」
美久子にそっくり男性が近付いて来たと思った瞬間、いきなり抱き締められた。
「きゃー!」
「無事で……本当によかった。美久子さん」
「「「「きゃーー!!」」」」
「おいおい、僕はガマンしたのに!信彦、離れなさい!」
一彦に言われて美久子からがばっと離れた信彦は、すぐ近くにいた男性に声を掛けた。
「正彦兄さんっ!宇佐美さんだ!宇佐美美久子さんだよ!」
「……?っ!何っ!?」
走って近付いて来た知らない男性にも顔を凝視しされ、美久子はとうとう処理が出来なくなり固まった。
この男性も流青そっくり男性とは違うタイプの、渋いイケメン男性だった。
「あなたが、宇佐美美久子さん…?」
「!は、はい、そうです。宇佐美美久子です…?」
頭が動き出し、今日このやり取りは何回目かなと思っていると、みるみるうちに目の前の渋いイケメン男性の目に涙が溜まっていった。
「ええっ!?だ、大丈夫ですか?」
ぎょっとした美久子は、気が付いたらまたガシッと抱き締められていた。
「うぎゃー!」
「「「「「きゃーー!!!」」」」」
「美久子さん、ごめんね!怖い目に合わせて本当にごめんね。
こんな可愛い女の子に……本当に無事で…よかった…」
……この渋い男性達、私が攫われた事を知ってるんだ。
きっと、心配してくださってたんだ。
美久子は胸に込み上げてくる気持ちに泣きそうになった。
抱き締められたまま男性に話し掛けた。
「……あの…ありがとうございます。ご心配をお掛けしたようでごめんなさい。私はお陰様で怪我も無く元気です。大丈夫です」
顔を上げた男性は美久子を腕の中から離し、
目を真っ赤にしながらうん、うんと頷いていた。
少し困った美久子も笑顔で頷いた。
「美久子ーっ!」
流青が美久子に声を掛け、そのまま後ろから抱き締めてきた。
「流青くん!」
「「「「「「きゃーー!!!!」」」」」」
大好きな声と馴染んだ腕と香りに安心し、
美久子は満面の笑みで振り返った。
「「「「おぉ!」」」」
男性陣の低い声が響き、流青は周りをギロッと睨んだ。
「「「きゃ!!!」」
飛び交う歓声が忙しいパーティー会場だった。
「流青くん!……ん?……あれ?なんかこっちのほっぺた赤い?」
「……」
数時間前。
美久子とホテルに戻って来た流青は、美容室に美久子を送った後、控え室に父親の信彦を呼び出し短く事件の報告をした。
それを聞きつけた流青の母志織が乗り込んできて、小さな手でいきなり流青の左頬に一発平手打ちをした。
父親そっくりの流青の顔が超絶大好きな母親には考えられない行動に、信彦と流青は仰天した。
「流くん!何やってるのっ!女の子は大切にしないといけないって小さい頃から言ってたでしょっ!なのに、もう、絶対に、絶対に…」
うわーん!と泣き出した志織を信彦が大事そうに抱き締め、何処かへ連れて行った。
残された流青は自分の不甲斐無さが情けなく、悔しくて仕方がなかった。