103 創立100周年記念パーティー(31)
美久子が泣き止むまで、男性は一緒にいてくれた。
「おじ様、ごめんなさい。急に大泣きして困らせてしまいました。
もう本当に大丈夫です。……弟さんの…お話を聞かせてくださって……本当にありがとうございました」
美久子はまだ鼻は赤いが、少しすっきりとした笑顔で男性に頭を下げてお礼を言った。
「お嬢さん、こちらこそありがとう」
お互いににっこり笑って、ソファーから立ち上がった。
「お嬢さん、自己紹介が遅くなって失礼しました。
僕は乾です。当院のパーティーに来てくださってありがとう」
「えっ!乾……あっ!流青くんのおじい様!?ええっ!」
「おや、流青をご存知なのかい?」
「あ、はいっ……私の方こそご挨拶が遅くなってごめんなさい。
宇佐美美久子と申します。り……お孫さんの流青くんと…お付、えーっと、クラスメート、です!よろしくお願いいたします」
美久子は慌ててぺこりと頭を下げて、流青の祖父 乾 一彦に挨拶をした。
私、ほんっとにバカ!
亮介と流青くんは同じ乾家で、何か繋がりがあるかもってなんとなく思ってたのに!
気付くのが遅すぎだ。
亮介にそっくりなおじい様を見て、何で流青くんのおじい様だって気付かなかったんだろー!?
しかも真横でいきなりギャン泣きって……恥ずかしすぎる。
恥ずかしすぎて、流青くんとお付き合いしていますって言えなかったー!
美久子が頭の中でアワアワと考えている様子を見て、一彦は目をパチパチと瞬きニヤリと笑った。
「美久子さん、じゃあご一緒にパーティーに戻りましょう!
僕も美久子さんと一緒なら楽しめるよ!」
「え?」
さあ行こう!と美久子の手を取り、いきなり腕を組まれてパーティー会場に戻らされた。
一橋も慌てて二人の後を付いて行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そろそろパーティーが終盤に差し掛かる頃、流青はやっとの事で群がる女性陣から離れることが出来た。
健二と湊人も同じく、少し窶れているように見える。
流青は美久子を、健二は恵を探しているが、余りの人の多さにまだ見つからなかった。
「大事な時に圏外って、このスマホは使えない!」
「俺もだ。インカムを外してしまったから失敗した。見つからん」
「ごめんよー。Wi-Fi強化してるんだけど、一カ所にこれだけの人がいたらどうしても圏外になりやすいんだよねー」
なんだか疲れてしまった三人が、未だ周りから送られてくる女性からの秋波を遮断しながら途方に暮れていると、会場の入口の方が少しざわざわとした。
振り向くと人垣の中に、一本の道が出来ていた。
その奥の方から流青の祖父の一彦と美久子が腕を組んで現れ、ゆっくりステージの方に向かって歩いていた。
三人は口をあんぐりと開けて驚いた。
「……あれは…湊人が企んだのか?健二か?」
「俺、全く知らねー……」
「…俺も知らない」
「お祖父さん!美久子に触るなっ!」
「おいおい、流ちゃん!今はさすがにラスボスには牙を剥くなよー。返り討ちにされるよ!」
「俺も名誉院長は…ムリだ」
「ほんっとにあのじーさん、怖ーよな!
俺、ガキの頃、乾本家の猫の顔にマジックで眉毛書いたら、あのじーさんに木刀持って追い掛けられたもん。あれはまじで怖かったー」
「「……。」」
「名誉院長、うさみみちゃん見ながら笑ってるー!うさみみちゃん、すげー!」
「……。」
「確かに、すげーな」
美久子を尊敬する湊人と健二を置いて、流青は慌てて二人を追い掛けた。