102 創立100周年記念パーティー(30)
あのひと、前世の亮介に、そっくりだ……。
ご年配だけど、髪の毛は白いけど、すごく似てる。
目を見開いてソファーの男性を見つめる美久子の目から、
涙がポロポロと落ちる。
こちらに気付いた男性が美久子を見てぎょっとし、
ソファーからゆっくりと立ち上がり、近付いてきた。
「お嬢さん、どうかなさったのかい?気分でも悪いのかな。大丈夫かい?」
「ず、ずみまぜん、大丈夫でず。ほんどに、ずみまぜん」
グズグズの美久子を見かねた男性が、さっきまで座っていたソファーに美久子を連れて行き座らせた。
美久子にぴったりと付いている一橋をチラリと見た後、少し間を空けて自分も美久子の隣に座った。
「私は何もしないよ。君、そこにいて良いから安心しなさい」
威厳のある声で一橋に話し、一橋は小さく会釈をし、そのまま立っていた。
少し離れたパーティー会場の入口近くには、岩田部長がこっちを見て立っていた。
「お嬢さん、本当に大丈夫かな?痛いところは無いかい?
私はこれでも医者だから、ちょっとは診られるよ?」
綺麗なウィンクをしながら美久子に微笑む。
少し可笑しくなった美久子も、涙を零しながら笑った。
「はい、もう大丈夫です。驚かせてしまってごめんなさい。
おじ様が……昔、知っていた方にすごく似ておられたのでびっくりしてしまいました」
「そうかい。そんなに似てるかな?」
「はい。そっくりです」
「じゃあ、その人は中々の男前だね」
「ふふっ!そうですね。めちゃくちゃ格好よかったです」
男性は笑顔で美久子を見つめてくれた。
亮介に見つめられているようで、美久子は止めようと思った涙がまた出てしまった。
「…その人は、お嬢さんにとって大切なひとだったんだね」
「……はい。とても、大切なひとでした」
「そうかい……」
美久子を見つめていた男性は、どこか遠くを見るように顔を上げた。
「昔ね……僕にも大切な家族がいたんだけどね」
「……」
「一番下の弟なんだけどね……小さい頃から大人びた子供だったんだけど。僕とね顔がそっくりだったんだよ」
「っ!……」
「だから、なんだか可愛くてね」
「……」
「弟はあんまり人や物に関心が無い子供だったんだけど、幼稚園で知り合った女の子だけにはすごく執着してね」
「……」
「君のように泣いている、その少女を守れるようになるんだって、小さい頃から勉強や運動を頑張ってたなあ」
「……」
「なんだか、急に思い出しちゃったよ」
「……その、弟さんは…どうなさったんですか……」
「うーん……。もう随分前に亡くなったんだ。
難民キャンプで医師として働いている時に、内戦に巻き込まれてね。まだ39歳だった」
わあっと美久子が泣き出し、男性はびっくりして美久子を見た。
傍で立っている一橋も目を見開いて驚いた。
「お、お嬢さん、大丈夫かい?」
「す、すみません。すみません」
謝りながら泣いている美久子を、男性は優しい目で見つめた。
「君は、本当に…優しいね。
見ず知らずの男の死をこんなに……
きっとこんな若くて可愛いお嬢さんに泣いてもらって、
天国で弟も喜んでいるよ。ありがとう」
美久子はこの男性の弟が前世の亮介だと、確信した。
そうだったんだ。
亮介、難民キャンプに……。
辛かっだろうな。
怖かっただろうな。
ごめん、本当にごめんなさい。
私が先に逝ってしまったから。
本当にごめんなさい。