100 創立100周年記念パーティー(28)
七海の踊りを間近で見たくて、美久子と恵と湊人は人垣をかき分けてステージに向かっていた。
「あっ!湊人さんっ!」
「きゃあっ!湊人くぅん!探してたのよお」
「湊人さん!今夜は両親も来ているのでぜひ会って頂きたいの!」
「えっ、あっ、ち、ちょっと!ごめん、ちょっと用事がっ!」
途中で美しく着飾ったご令嬢っぽい女性達にあっという間に囲まれ、両腕をがっしりと組まれた湊人は、ご令嬢ブラックホールに吸い込まれていった。
「あーなると、もう助けられないわよねー」
「恐い……八木くん、生きて帰って来られるかな…」
気を取り直して、美久子と恵は急いでステージ近くに向かった。
美久子は歩きながら流青を探したが、やはり見つからなかった。
恵も健二を探しながら歩いていたが、全く見つけられなかった。
この時、流青も健二も湊人と同様にそれぞれもの凄い人数の女性達に囲まれ全く身動きが取れず、携帯も繋がらずイライラしていた。
美久子達は頑張ってステージに近付き、一番前の場所を確保できた。
巨大ステージ上には『医療法人 乾総合病院 創立100周年記念パーティー』と、これまた巨大な横断幕が掲げてあった。
ひゃ、100周年!?
長っ!歴史ある病院なんだ……すごいな。
100周年のお祝いなら、そりゃこんなにすごいパーティーになるよね…。
やっと今夜のパーティーの主旨が分かった美久子は、ふと恵を見てドレスが変わっていることの理由に気が付いた。
「きのぴい…」
「んー?なあにー?」
美久子は少し俯いて恵に話し掛けた。
「…どうしたの?美久?」
「きのぴい、そのドレス、初めに着てた常盤くんから贈ってもらったドレスじゃないよね…」
「あー、うん。最初のはちょっと破けて汚しちゃって。あ、でも、これも健二からだよ!」
「えっ!?」
「ふふっ。健二が後でこれも用意してくれたんだ。アイツ、よっぽど私にワインレッドを着せたかったのね」
「そっか……きのぴい、ごめんね。私のせいで最初のドレス……」
「何言ってるのー!違うよー!私、こっちのドレスも結構気に入ってるんだー。ワンショルダー、なかなか良いと思わない?」
「……うん!このドレスもめちゃくちゃ似合ってるよ。最初のタイトなロングドレスも素敵だったけど、このマーメイドラインもすっごくいい!可愛くてお色気がある!」
「お色気!?あはは!ないない!でも、ありがとね!
美久のこのドレスもめっちゃ良いよ!私はこっちの方が美久っぽい気がするかも」
「これ、八木くんが持って来てくれたの」
「ええっ!?そうだったの!?……アイツ…」
「あっ!始まるみたい!」
琴の音が鳴り、高島田で黒の中振袖を着た七海がステージ中央に静々と出て来た。
凄い拍手の中、ライトを浴びながら堂々と踊る七海は光り輝いていた。
可愛くて綺麗で匂い立つような品のある色気があって、いつもの七海とは全然違う雰囲気の妖艶な姿に見入った。
周りにいた外国人が感嘆の声を上げながら、スマホで写真を撮っていた。
美久子も恵も夢中になって撮った。
ビデオも撮ろうと思った瞬間、七海と目が合った。
七海は目を見開き、美久子を見つめ泣きそうな表情をした。
美久子は大きく口パクで『だいじょうぶだからね!』と伝えながら両手で丸を作り、笑顔で何度も頷いた。
恵もガッツポーズをしながら、『がんばれ!』と伝えた。
口を固く閉じて涙を堪えた七海は二人に目線で頷き、踊りに集中した。
美久子と恵の元気な姿を見て心から安堵した七海は素晴らしい舞を披露し、華やかなパーティーに花を添えた。