10 タクシーで帰宅
保健室に戻って来た養護教諭の川北先生と、一緒に様子を見に来てくれた担任の後藤先生に挨拶をして、学院の校門前からタクシーに乗って母親と自宅に帰った。
なんて贅沢。なんて楽ちんなんだろう。
今日だけは甘えさせてもらおう。
「お母さん、せっかく朝からだし巻き作ってくれたのにごめんね。
お弁当、途中で残しちゃった。」
「そんなのいいのよ。本当にもう大丈夫なの?顔色は少し良くなったみたいだけど、まだしんどそうよ。やっぱり病院に行く?」
「ううん。今はもう大丈夫。なんか急に眩暈がしてクラクラしちゃった。今は治まってるし今日は帰ったらすぐ寝るね。」
「そうね。今日はゆっくりして、明日も無理しちゃダメよ。パパったら美久ちゃんが心配で会社早退するって大変だったの。あっ!大丈夫でしたってRINE送らなきゃ!」
「あー。ごめん。今日は大人しく早く寝ます。」
タクシーの車窓を眺めながら、父親の慌てまくっている姿を想像して、会社の周りの皆さんにご迷惑を掛けていないか少し不安になった。
いきなり溢れ出た前世の記憶。
私は35歳の普通の日本人女性だったんだ。
高度経済成長期に生まれ、
もうすぐ昭和が終わるかという頃の35歳の記憶までしかない…。
と、いう事は…前世は長生き出来なかったんだ…。
考え出すと、なんか…すごく苦しい記憶がどんどん増えていく。
また眩暈が起こりそうだ。
とりあえず今はやめておこう。
家に帰って一人でゆっくり整理したい。
何か大切なことを、ちゃんと思い出さなきゃいけない気がするから。
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美久子の事が心配で、きっと仕事が手につかないであろう父。
プラント開発会社で部長をしている父親の孝は、かなりの美久子ラブだ。
母親のゆり子のことが何よりも一番ラブだけど、かなりの僅差で美久子ラブだ。
父親に無理矢理される毎朝毎晩のご挨拶ハグは未だ継続中。
これを話すと大体の友達には引かれる。
七海ときのぴいには同意される。類は友を呼ぶなのかな?
因みに両親のハグも朝夕関係無く実行されている。仲良きことは美しきかな。
続いて父親の家庭内ラブ順位は、3位と4位は同列でわんこ2匹(大人しいチワワのロミオ♂と、これまた更に大人しいパグのプリオ♂ どっちもお母さん命名)、最下位はアメリカの大学に留学中の4つ年上の兄、司。以上。
帰ったら父親をどう宥めようか悩む美久子は、ふと保健室に来てくれた流青のことを思い出していた。