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ウサギ印の暗殺屋  作者: 三ツ葉きあ
第一話『ただの人間な所長と蛇人間な副所長』
3/12

2.本社の新人




「あ、社長ー! おっはよー!」


 泰騎は笑って手を上げ、潤は三人に向かって「お早うございます」と頭を下げた。


 日本有数の複合企業である《P・Co》の社長、二条雅弥(まさや)。黒髪、黒目、黒のワイシャツに、黒スーツ。身長は高い。整った顔をしているが、これといって特徴はない。二十代後半に見えるものの、実年齢は三十代後半。

 おはよう、と柔和な笑みを浮かべている。


 社長秘書の空中(そらなか)謙冴(けんご)は強面を崩すことなく、朝の挨拶を交わした。

 真っ黒な雅弥と違い、謙冴は茶髪のオールバックで、スーツはグレー。雅弥よりも貫禄のある顔付きで、体つきもガッシリとしている。


 そんな二人に挟まれているのが、リクルートスーツに身を包んだ女性。小柄で色白。化粧は控えめだが、大きな目が特徴的だ。艶のある黒髪を、首元でひとつに結っている。


 そんな彼女を上から下まで目でなぞると泰騎は、ふぅん、と雅弥へ視線を向けた。


「社長が部外者を連れて来るん、珍しいな。依頼人?」

「ふふふ。彼女は、情報部の新人だよ。通信課で、特務員の担当をして貰うんだ」


 特務――つまり、《P×P》の裏業務の事だ。




◆◇◆◇




 親会社である≪P・Co(ピコ)≫は日本有数の複合企業で、大部分は製薬部門が占めている。


 その裏の顔が、合法も非合法も請け負う工作業務。身辺警護からスパイ業や暗殺まで、依頼があれば、基本的には何でも請ける。


 そんな依頼の中でも、特に本社の工作員が嫌がる内容――要するに、面倒な仕事が≪P×P≫へと回されてくる。


 その最たる内容が暗殺だ。


 裏工作人員を区別をする為に、本社に所属している者が“工作員”、≪P×P≫に所属している者が“特務員”と呼ばれている。


 原則、通常業務の合間に特務を遂行している。


 中でも幹部と呼ばれる六人は、超が付くほどの精鋭(エリート)だとか、どうとか――。




◆◇◆◇




佐藤姫子(さとうひめこ)と言いますぅ! 誠心誠意務めさせて頂きますのでぇ、宜しくお願い致しまぁす!」


 勤勉そうな見た目に反し、間延びした語尾がなかなかのギャップを生んでいる。しかしながら、よく見てみれば……、髪を束ねているのは大きな、デニム生地のうさ耳リボン。


 言葉遣いも丁寧なのだが、天然系というか……どこか抜けた印象を持たせる喋り方だ。


「へぇ。そりゃあ宜しく。まぁ、本社と連絡取るのは潤の仕事じゃけど」


 泰騎が顎先で示すと、姫子は大きな眼を更に見開いた。

 わぁー、と感嘆の声を漏らし、


「お人形さんみたいですぅ!」


 瞳をキラキラと輝かせて、潤を見上げている。


「貴方が、二条潤さんですかぁ! お噂は聞いています!」


 噂……? と、潤の眉間が狭まった。

 姫子以外の視線は、彼女に突き刺さっている。


「蛇の神様との融合体で、八歳の時にある組織を壊滅させた、トンデモないお方だと、聞きましたです! こんなに綺麗なお姉さんだなんて、驚きですぅ!」


 “お姉さん”というワードに、寄せられていた眉は更に皺を生み、長いまつ毛に覆われた目は細められた。


 そこに割って入ったのは、泰騎だ。


「姫子ちゃん、めっちゃ若そうじゃけど、高校の新卒さん?」


 潤の前に立ち、少し腰を折って、にっこり笑った。

 先程までの素っ気ない態度が嘘のように、姫子との距離を詰める。


「ワシらの事、どのくらい調べてくれたん?」


 笑顔は崩さず、姫子に問う。


「二条泰騎さんは、ぇぇーとぉ、夜遊びがすごーいとかぁ、老若男女誰とでもお付き合いしているとかぁー……」

「……下調べご苦労様じゃな」


 泰騎は脱力し、半眼で呟いた。


「いえいえー。工作員さんに、教えて頂いたんですよぉ。『灰色ウサギ(ライラック)に近付いたら孕まされるぞ』なぁーんて言われちゃいましたぁー」


 ぺろりと舌を出す姫子の言葉に、泰騎が渋面になった。姫子に入れ知恵した者に心当たりがあるようだ。


「あんの犬っころ……」

「まぁ、可能性がゼロではないからな」

「ちょっ! 潤ちゃんひでぇ! ワシは、社内の人間に手を出したりせんわ!」


 所長と副所長の会話を、姫子はきょとんと眺めている。


「ふふふ。そこまで知ってるのに、潤が男だっていう事は知らなかったんだねぇ」


 雅弥が苦笑する。

 姫子は背後に稲光(いなびかり)を出現させて、固まった。


「雅弥」


 謙冴が短く名を呼ぶと雅弥は、そうだった、と手をひとつ叩いた。

 因みに、今の呼び掛けに含まれている意味は「雅弥。時間だ。無駄な話を止めて、出発するぞ」だ。


「僕たちは仕事で出るから、佐藤さんに事務所の事を少し教えてあげてね」


 じゃあねー、と手を振りながら、社長と秘書は去っていった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 地雷原の地雷をことごとく踏んで回るタイプ。しかも本人は頑強でケロッとしてるんでしょうねぇ。
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