プロローグ
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』(完結済)の三年前の話になります。
(~13日の金曜日~よりはコメディ強めを目指しています)
隔週木曜日に更新していく予定ですので、のんびりお付き合い頂ければ幸いです。
(1ページ約1000~3000文字の予定)
桜が蕾を弾けさせる季節。希望に満ち溢れた顔、引っ越しに疲れた顔、いつもと変わらぬ顔――と、新生活に慌ただしい人々が街を行き交う。
とある事務所。ホワイトボードのみ置かれた、寂寞感ある四角い部屋。ここにも、新しい試みを行おうとしている団体が集まっていた。
「本社から独立して、事務所を立ち上げるから! そのメンバーになって貰うで!」
十二人の若者を前に、灰色の髪と瞳を持つ青年が、声高らかに言った。方言混じりだが、よく通った声を発するこの青年。見た目は、背が高いハーフの中学生のようだ。しかし、正真正銘の純日本人。おまけに、頭にはゴーグルが乗っかっている。
そんな青年を、集った若者たちは無言で見詰めていた。
視線を集める男の隣には、冊子の束を持った……男か女かよく分からない人物。
ミルクティーに似た色をした柔らかな髪を肩まで伸ばしている。切れ長の目はまつ毛に覆われていて、その中にはピンク掛かった紅い瞳が収まっていた。左目を跨いでいる“人”のような傷痕さえなければ、異国のモデルだと言っても騙せてしまうだろう。
灰色の髪をした青年と同じくらいの年齢だが、雰囲気はずっと落ち着いている。
冊子の束から一部抜き出し、白く長い指が、更に白いコピー用紙を捲った。
「この事務所は服飾部門で、業務内容は、服のデザイン、営業、広報――」
十人ほど集まっている少年、少女の中で、スッと一本の腕が伸びた。
黒髪の、活発そうな少年だ。
「質問、いいですか?」
説明をしていた人物が返事をするより先に、ゴーグル青年が、ええよー、と応える。
黒髪の少年は右腕を下ろした。すぅー、と鳩胸になるくらい大きく息を吸い、
「僕たち、まだ世間的には義務教育も終わってない年なんですけど! こんな子どもばかりで、事務所が成り立つとは思えません!」
叫んだ。
少年の周りに居る者たちは、顔をしかめて両耳を塞いでいる。
灰色青年は、少しつり上がっている大きな目を、ぱちくりさせた。
そして、大きくサムズアップし、白い歯を見せて笑う。
「大丈夫、大丈夫。この前テレビで小学生が社長やっとる会社の特集しとったし!」
「いや、あれは、常務とかがちゃんと大人だったじゃないですか!」
お前もその番組見てたのかよ……。と誰かが呟いた。だがそんな事は気にも留められない。コピー用紙に記されている内容が、淡々と語られる。
「大半の者は本社内の工作員歴が無く事務所勤務となったわけだが、この事務所が請け負う裏業務は“特務”と呼ばれる事になった。事務所に所属している者は、社内で“特務員”と呼ばれる。工作業務の中でも、暗殺が主な仕事で――」
急に物騒な話になり、数人の背筋が伸びた。……かもしれない。
メンバーの殆どが、中・高生という年齢。中には歳がやっと二桁になった者も居る。しかも、ほぼ全員が特殊な環境下で育ったので、義務教育すらろくに受けていない。
無謀ともいえる状況を無理矢理捻り上げ、力業で言いくるめ、複合企業《P・Co》服飾部門、兼、特務専用事務所《Peace×Peace≫略して≪P×P≫は誕生した。
これは、それから一年後の物語――。