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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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86話【終息へ向かう選択】



終息(しゅうそく)へ向かう選択(せんたく)


 セイドリックの前髪を()がした炎弾は、外壁に(はば)まれて爆散(ばくさん)した。

 しかし、その威力(いりょく)は言うまでもなく、その場にいた騎士や傭兵(ようへい)達は、人外を見る目でエドガー・レオマリスを見ている。

 そんな奇異(きい)視線(しせん)をものともせずに。

 エドガーは歩き、騎士の()れが引いていく道を進む。


「き、きき、貴様ぁぁ!貴様がやったのかぁっ!!」


 尻餅(しりもち)をついて(さけ)ぶセイドリックを、近くまで来たエドガーは無視(むし)してエミリアに向き直り、()げる。


「ごめんねエミィ(・・・)。遅くなった……」


 優しく笑顔を見せるエドガーに、エミリアは涙を(にじ)ませる。


「……エド、どうして……なんで、ここに?」


 エミリアを昔の愛称(あいしょう)で呼ぶエドガーは、完全に何かを()っ切っているようで、(にら)(さけ)び続けているセイドリックの言葉は入っていなかった。


「――黙りなさい。小虫が……」


「――ぃヒィッ!」


 (さけ)び続けるセイドリックの大声に、イラっとしたローザがエドガーの後ろから威圧(いあつ)すると、借りてきた猫のようにおとなしくなったセイドリック。

 完全に(おび)えていた。


「ローザ?……サクラ、サクヤも……な、なんで?」


 今回の件は、エドガー達には話していない。

 もう二日前から会ってもいないのに、どうしてここにいるのかエミリアは分からない。

 が、(うれ)しいのと困惑(こんわく)しているのが合わさって、泣きそうだった。


 しかし、助けに来た【召喚師(エドガー)】を知っていると思われる騎士がチラホラいるようで、ひそひそと話していた声が大きくなってくる。


「……おい、あれって【召喚師】だろ……?」

「国に指定された、“不遇”職業の?」

「マジか……それがなんで、あんな()を撃てるんだよ?」

「なわけねーだろ、きっと後ろの女のどれかがやったんだろ……」


 ――“不遇”職業。

 国に指定されている、公式に侮蔑(ぶべつ)してもいい職業。

 本来、そんなものはない。だが、先代先々代から続く“不遇”な生活は、確かに国から受けたものだった。


(だま)れと言っている……」


 ローザは一瞬で声を黙らせた。

 静かで小さな声だが、不思議(ふしぎ)と響き渡り、遠くまで届く声だった。


「ありがとうローザ……さ、エミィ……帰るよ?」


 自分の代わりに声を上げたローザに礼を言い、エミリアの手を引くエドガー。


「き、貴様ぁぁ!我が妻に()れるなっ!」


「……――貴方(あなた)のものじゃない。エミィは……エミリアは、未来を(にな)うこの国の騎士だ、誰のものでもない。ましてや、貴方(あなた)のような人にエミリアは渡さない――絶対だっ!!」


 左腕でエミリアを()き寄せ、宣言(せんげん)する。

 エドガーは道中で覚悟を決めた。

 人として、【召喚師】として、そしてなにより、エドガー個人として出来る事。


 エミリアを助けるという事は、下手をすれば国と対峙(たいじ)する可能性がある事だ。

 そういう事になる。それを()まえても、エドガーの覚悟は決まっていた。


「ぎ、ぎざまぁぁぁぁぁ!この庶民(しょみん)がっ!【召喚師】?なんだそれはっ!何が(えら)い!どこが(すご)い!エミリア・ロヴァルト!こっちに来い!ほら!ほらぁ!!」


 何度も手を差し出し、エミリアを(つか)もうとするが。

 その差し出した手は虚空(こくう)を切る。


「まぁ落ち着きたまえ、セイドリック殿……【召喚師】、だったかな?君は……確か、先代の王が指定した……害悪(がいあく)の」


 デフィエル大臣が口の(はし)を吊り上げ、セイドリックに近寄り、笑顔でエドガーとエミリアに話しかけてきた。


「だ、大臣閣下(かっか)……言ってやって下さい!その娘は俺のだと!セイドリック・シュダイハの嫁なのだと!!」


「……ふむ」


 この状況でも、デフィエル大臣には強力な切り札がある。

 王女殿下(でんか)(いん)が、態度(たいど)までもを大きくさせていた。


(……この男、随分(ずいぶん)余裕(よゆう)があるわね……)


<ローザ。聞こえる?>

<……ええ。聞こえているわ>

<よかった、魔力は大丈夫だね>


 エドガーは、一人思案(しあん)するローザに【心通話】で声を掛けた。


<どうしたの?この男を殺す?>

<そんな物騒(ぶっそう)な話じゃないよ……>

<じゃあ、何かしら……?>

(おり)を見て撤退(てったい)したいんだ。どう思う?>


 エミリアやアルベールを連れて、だろう。


(むずか)しいでしょうね、包囲(ほうい)もそうだけれど、足がない>

<馬車を(うば)うのは?>

<馬をやられたら意味ないでしょう?>

<う~ん、どうしようかな……>

<……>

<ローザ?>


 ローザは意外だった。

 エドガーが、やけに冷静(れいせい)で落ち着いていることも、余裕(よゆう)がある事も。


<なんでもないわ。サクヤサクラはどう思う?>

<<……そこの(たぬき)が気に食わない!!>>


 同意見でシンクロした。


「うわっ!……あ、ごめん。何でもないよ」


 サクヤとサクラの大きな心の声に、つい声を出してしまったエドガー。

 エミリアに見られて、あははと誤魔化(ごまか)す。


「いやはや、大げさにし()ぎましたかな……?そこの【召喚師】と、ロヴァルト家がどういう関係か……調べていなかったのはこちらの落ち度……しかしねぇ、ロヴァルト家とシュダイハ家のご婚姻(こんいん)は、(すで)に決められている事……ローマリア殿下(でんか)のご意向なのだよ……ふふふ」


「――それでも、エミリアは渡せません。渡しません」


 大臣の圧のような言葉にも、エドガーは()れない。


「貴様ぁ!庶民(しょみん)分際(ぶんざい)で、王家に楯突(たてつ)くのか!」


 自分よりも恰幅(かっぷく)の良い大臣の後ろに隠れたセイドリックは、好き放題言いそうなので、ローザは威圧(いあつ)を放つ。


「ひぃっ!」


「――む、キミは何か!?その目つき……失礼ではないかね!?」


「はぁ?」


 豪胆(ごうたん)なのか(にぶ)いだけなのか。

 デフィエル大臣は、ローザの威圧(いあつ)(おび)えることなく、逆に食って掛かる。

 その態度(たいど)に、周りの騎士達も「マジかよ」「死ぬぞ」「逆にすげぇ」などと(つぶや)いていた。

 (ちな)みに「はぁ?」と言って前に出ようとしたローザを、サクラとサクヤが「待った」「落ち着くのだ」と、しっかりと(おさ)えてくれていたので、エドガーは安心している。


「と、とにかく……エミリアは渡しません。大臣閣下(かっか)が何を言おうともです」


「ふむ。そうか……ならば(いた)し方ない……」


 大臣は腕を上げ、指をパチン!と鳴らす。

 最初からそのつもりだっただろう重騎士達が、エドガー達を取り囲んだ。

 いつの間にか、【聖騎士】二人もアルベールも、追い込まれてエドガー達の近くに来ていた。




 エドガーは中央で合流した人物の中に、もう一人の幼馴染がいることにようやく気付いた。


「あれ?アルベール……アルベールもいたんだね……」


「ああ!いたよっ!初めっからな!……エド、お前落ち着きすぎだろ――っとぉ!」


 エドガーに声をかけながら、重騎士の攻撃を()けるアルベールに、エドガーは言葉を返す。


「そうかもね。もう止めたんだよ……うじうじ考えたり、悩んだりするのは……」


 迫ってきた重騎士の盾に、エドガーは赤い剣を突き刺した。

 高熱(こうねつ)を持つ剣は、鉄の盾を楽々貫通(かんつう)して、重騎士の眼前(がんぜん)で止まった。


「……ひぃっ!」


 重騎士は(おどろ)き、盾を投げ出して逃げ出す。


「すげぇな……それ」


 アルベールは剣の威力(いりょく)感嘆(かんたん)する。


「……使うかい?」


「い、いや……今はいいや、何とかする」


 内心使ってみたかったが、切迫(せっぱく)している状況で(ため)し斬りする訳にもいかないので、断る。

 絶対に後で使わせてもらおうと心に決めて。

 エミリアも充分に休めたのか、エドガーから少し(はな)れて槍を構えていた。

 そこには、三人の異世界人の姿もある。


「エミリアちゃん、もう大丈夫なの?」


 サクラは、手に持った【ロングスタンガン】を騎士に向けてバリバリ鳴らす。


「サクラ……ありがと、正直言ってまだ混乱してるけど……感謝(かんしゃ)してる。サクヤにもね」


 右にいるサクラ、左にいるサクヤにも感謝(かんしゃ)(つた)える。

 ()ずかしいので、振り向かずにだ。


「気にするな!エミリア殿。わたし達は、もう仲間なのだから……」


 サクヤは、口元の【赤い仮面】をくいっと直して、笑う。

 目元しか見えないが、充分に(つた)わる笑顔だった。


「……話はあとでいくらでも出来るわ。何時(いつ)でもね、だから……この状況を乗り切るわよ。折角(せっかく)私達の“契約者”がやる気になったのだから、負けるわけにはいかないわ」


「……ローザ……うん。そうだよねっ!」


 槍を力強く()り、赤い軌跡(きせき)を残す。

 ローザも、真っ赤な大剣を()しげもなく(つく)り出して、()()で構える。

 当然のことだが、身の丈以上もある大剣を片手で持てる人間など早々()らず、騎士達は驚愕(きょうがく)して尻込みする。


「さぁ……燃やされたい奴から、かかってきなさい!」





 戦いは再開された。

 その中で【聖騎士】二人は、この異常な光景(こうけい)(おそろ)きを隠せずにいた。


「……副団長」


「何かな、ノエル君」


「なんなんですかね、あの人達……おかしくないですか?」


 【聖騎士】二人は、戦っている少女達、特にローザに度肝(どぎも)を抜かれていた。

 剣を振り回しているだけにも見えるが、その一振りだけで、大概(たいがい)の騎士は吹き飛ばされ、重騎士達も転ばされて起き上がれていない。


「確かに……異常(いじょう)な強さだね、これは」


 オーデインも【聖騎士】の中では強者(きょうしゃ)に入る部類(ぶるい)だが、この赤髪の女性には勝てる気がしなかった。

 それは、最初に彼女が放った威圧(いあつ)(すで)に判断できた。


「あの黒髪の子達も……やばいですよ」


 ローザが()()らした騎士を、ポニーテールの少女が音もなく倒し、それでも起き上がろうとした騎士は、ツインテールの少女が何か不思議(ふしぎ)な杖で感電(かんでん)させているように見える。

 心なしか、三人の少女の行動は、疲れているエミリアに気を使っているようにも見えた。


我々(われわれ)……()りますか?」


「……そうも言ってられないさ、【聖騎士】だぞ……?私達は」


 オーデインは、そう言うと細剣を構えて進んで行く。

 ノエルディアも、ため息を()きながらも、しっかりとオーデインの後を追った。




 それでも戦況(せんきょう)は、(いま)だに大臣側の有利だった。

 だが、(すで)幾数(いくすう)もの騎士が倒されて、この【王城区(ブリリアント)】は悲惨(ひさん)な状況だった。


「ま、不味(まず)いぞ……このまま時間がかかれば、王家に知られる……」


 デフィエル大臣は、正直言ってここまで時間がかかるとは思っていなかった。

 少し手を()してやれば、敵は()ぐにでも投降(とうこう)すると、降参(こうさん)すると高を(くく)っていた。


「んぐぐぐぐぐぐぅ……アレ(・・)があればっ……!」


 セイドリック・シュダイハも、気持ちの(とど)かないエミリアに歯噛(はが)みする。

 無意識(むいしき)のうちに、セイドリックは槍を(にぎ)っていた。

 【聖騎士】時代に使用していた、金の槍だ。

 そして咄嗟(とっさ)にこう(さけ)ぶ。


「――し、勝負しろぉぉっ!【召喚師】ぃ!!」


 槍を高く(かか)げ、セイドリックは言う。


「お、おいっ!セイドリック殿……何を考えている!――はぶぅ!!」


 (そば)にいた大臣は、セイドリックの行動に(いきどお)る。

 自分の策が台無しだろう!と。しかしセイドリックは大臣を突き飛ばし。


「うるさぁいっ!!……おいっ!【召喚師】……僕と勝負するがいい、勝った者が、エミリア・ロヴァルトを自分のものにできる……どうだっ!?」


 セイドリックは戦っているエドガーの元に歩み()るとそう言った。


「……貴方(あなた)は何もわかっていない。戦った所で……貴方(あなた)が勝った所で、エミリアは貴方(あなた)のものにはなりませんよっ!」


「――わ、うわぁっ!」


 エドガーが(はじ)き飛ばした騎士が、セイドリックに向かって転がってくる。

 セイドリックはそれを()けようとして、(つまず)いて転んだ。


「が、がっふぅ!……ぐうぇぇ!!」


 転んだ所に騎士が飛んできて、セイドリックは(つぶ)された。

 しかも、他方面で戦っていたローザが()き飛ばした騎士も飛んできて、更に押し(つぶ)される。

 サンドイッチの様になったその一番下のセイドリックは、完全に気絶(きぜつ)していた。


「……残ってる騎士はあと、どれ(くらい)?」


「お、おう!……いや、まだまだいるな……」


 エドガーはその様子を歯牙(しが)にもかけず、アルベールに聞く。

 そそて一呼吸を置き。


「――ローザごめん……使うよ。この状況を打破(だは)するっ!」


 アルベールに敵はまだ沢山いると言われ、エドガーは一言ローザにそう(つぶや)くと、剣の先端(せんたん)に魔力を集める。

 少し離れていたところで戦っていたローザは、エドガーのしようとしている事に敏感(びんかん)に反応し。


「――だ、駄目(だめ)よっ!エドガー!!――サクヤ!エドガーを止めなさいっ!早く!」


 自分よりも俊敏(しゅんびん)に動けるサクヤに(つた)え、()かす。


「し、承知(しょうち)したっ!」


 サクヤは一瞬(いっしゅん)で消え()り。

 (まばた)きもしないうちにエドガーの隣に出現して、(あるじ)の手を(おさ)える。


主殿(あるじどの)っ!それはいけませぬっ!」


 ガッと(つか)まれたサクヤの手に、エドガーは優しく反対の手を重ね、言う。


「……大丈夫だから」


「いや、しかし……」


「――そんなわけないでしょうっ!!」


 エドガーはまた、全力の魔力を使って炎弾を()とうとしていると、瞬時(しゅんじ)に判断したローザ。

 絶対に使わせないつもりでいたが、まさかこんなに早く実行しようとするとは思っていなかった。

 (おど)しのつもりの攻撃なのは分かる。

 相手が驚いているうちに逃げる算段なのだろう。

 だが、それは今すべきことではなかった。

 そしてそれを、ローザだけが、それを理解していた。


 ごたごたし始めていると気付き、それを好機(こうき)と見たのか。

 大臣は号令(ごうれい)を開始し、ローザ達を取り囲む。


「――邪魔よっ!どきなさいっ!!」


 ローザは自身の周りに炎を噴豪(ふんごう)させ、騎士達はあたふた逃げ惑う。


「エド――ぐ……っ!!」

(そんな……た、たった一度よ……?一度使っただけで……こんなに魔力が……)


 急激(きゅうげき)な脱力感に、(ひざ)をつくローザ。

 汗も流し、ローザ自身の魔力が尽きようとしている事が分かった。


「……くっ」

(《石》が(うず)く……駄目よ!落ち着きなさいっ……まだ(・・)っ!)


 魔力が回復しきっていなかったのが原因(げんいん)で、“魔力切れ(マジックダウン)”を起こしてしまう。

 そしてそれは、ローザにとって魔力回復の手段でもあった。

 だがそれは、誰にも見られたくない姿()だった。


 苦しそうにしつつも、エドガーを見るローザ。

 エミリアとサクラが、そんなローザのもとに近付き声を掛ける。


「ローザ!!」

「ローザさんっ!」


 エミリアは槍をぶん回して騎士達を牽制(けんせい)し、サクラは(かばん)から護身用の【激臭ボール】を取り出して騎士たちに投げている。

 エミリアも疲れている。サクラも、もう何度も(かばん)から物体(ぶったい)を取り出して魔力を使っていた。


主殿(あるじどの)っ……ローザ殿達が!」


「分かってる。大丈夫……安心して」


 ローザが言うのはそういう意味ではない。

 この世界に来て、魔力を無くすと言う事は、契約の効果をも失う事だと分かった。

 つまり、エドガーが魔力を無くして寝込んでいた(さい)、異世界人としてエドガーと契約しているローザやサクラ達もそうとう弱っていたのだ。


 ローザの魔力は本来、一人で国を殲滅(せんめつ)できるほどの魔力を持っている。

 出会った当初「この国を一日で(ほろ)ぼせる」と言ったのは、大げさではなく事実だったのだ。


 しかし、今。

 たった一度、自分の周囲に炎を巻き起こしただけで、足に力が入らないほど弱ってしまった。

 このまま、またエドガーが魔力を無くせば、また別の症状(しょうじょう)を引き起こす可能性がある。それはローザだけではなく、サクラやサクヤも同じだ。

 ここで全員が倒れれば、明らかにバッドエンド一直線だ。


 しかしそんなローザの考えも(むな)しく。

 エドガーの剣先には、ドンドン魔力が収束(しゅうそく)されていく。


「――くっ……な、なんだ。なにが……」


 エドガーの(そば)にいたサクヤが、眩暈(めまい)を起こして(ひざ)から(くず)れる。


「――やっぱり、足りない分の魔力を、私やサクヤから吸収しているんだわ……きっと無意識(むいしき)に」


「そ、それって……」


「まずいんじゃ……」


 推測(すいそく)だが、ローザが“魔力切れ(マジックダウン)”を起こし、サクヤも限界(げんかい)に近そうなことを考えると。

 おそらくエドガーの炎弾は、不発(ふはつ)に終わる。その後は、蹂躙(じゅうりん)される未来(エンディング)が待つだけだ。


「サクラ……エドガーを気絶させられる?」


「ええっ!?……あ、そういう!!――あっ……で、も……無理かも、あたし……も……な、んだか、眠く……」


 そのまま、サクラもぺたんと座り込んでしまった。


「……サクラも、か」


 ローザは、アレ(・・)以外に何か(さく)がないかと頭を(めぐ)らせるが、“魔力切れ(マジックダウン)”のせいで思考(しこう)(はたら)かなかった。


「ロヴァルト妹!だ、大丈夫なのっ!?」


 続々と倒れる少女達を見て、【聖騎士】二人がエミリアのもとに来るが、二人共(いき)が絶え絶えだった。




「ほっほっほ。ここまで、ですなぁ……」


 倒れていく少女達を見て、大臣はニヤリと笑う。


「後は、【召喚師】と疲れ果てた【聖騎士】……グフフ、これは気持ちがいいなぁ」


 大臣は余裕(よゆう)を見せ、(みずか)ら剣を取りエドガーに近づく。


「――くっ!……まだ、収束(しゅうそく)がっ」


「あ、るじ、殿……逃げ、て……」


 バタリと、隣にいたサクヤも倒れる。


「――サクヤっ!?」


 それに付随(ふずい)するように、やがてどんどんと、剣先に()まっていた炎は小さくなっていき、ついには霧散(むさん)してしまった。

 残ったのは、(ちり)になった炎の残滓(ざんし)と、エドガーのショックを隠し切れない表情だった。


「――そんなっ!なんで……!くっ!?」


 エドガーはサクヤを守るように、大臣と対峙(たいじ)するが。


「……な、んだ……力が、入らない……?」


 急激(きゅうげき)な脱力感と疲労感に、カランと剣を落として(ひざ)をつく。


「無様ですなぁ……【召喚師】、安心せい……女どもは、そうだな……セイドリック殿のお父上、シュダイハ(きょう)に世話でもしてもらうかのぉ!!がっはっはっはぁぁぁ!!」


「――このっ!!ぐっ……」


 ゲスな大臣の発言に、エドガーは立ち上がろうとするも、力が入らず(たお)れる。

 エドガーが見上げる大臣の顔は、“悪魔”にも似た何かに見え、ただ終わりを()げる剣の振り下ろしが。

 自分の選択が間違ったのかもしれないという、情けない思考(しこう)を切断していった。


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