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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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85話【王都の夜の遭遇戦】



◇王都の夜の遭遇戦(そうぐうせん)


 エドガー達【福音のマリス】一行から見て。

 低いと見られる位置に上がった炎は、下方に吸い()せられるように消えていった。

 エドガー達は現在、丁度(ちょうど)王城区ブリリアント】に入ったところだった。


「今の……!?」


「何かな……今の炎、不自然だよね……?」


 早馬(はやうま)に乗るローザとサクヤの後ろで会話するエドガーとサクラ。


「《魔法》ではないみたいだけど」


「見事に昼のようであったな……ですが方角的に、エミリア殿が向かっているはずの方角ですっ。主殿(あるじどの)!」


 サクヤの言う通りだ。

 王城に向かうには、【王城区(ブリリアント)】を必ず通る。

 【貴族街第一区画(リ・パール)】から【王城区(ブリリアント)】の西路(せいろ)を進んで入城をするはずのエミリア達なら、ちょうどあの位置にいても不思議ではない。

 しかし、【貴族街第四区画(サファラス)】からエミリアを狙い入城を邪魔するセイドリック・シュダイハが【王城区(ブリリアント)】を通る場所もまた、その位置なはずだった。


「……急がないとっ」


「分かっているわ……しっかりと(つか)まっていなさいっ!――はっ!!」


 ローザの腰に(つか)まり、自然と力が入り込むエドガーの手の熱さ。

 それをローザは腰で感じながら、手綱(たづな)を力強く引いたのだった。





 【リフベイン城】にある、【遠見の塔】。


「……いいぞいいぞ、やはり()()の効力は素晴らしいな」


 ジュアン・ジョン・デフィエル大臣は、手に持った(いん)複製(コピー)を見つめて満足そうに(つぶや)く。


閣下(かっか)……よかったのですか?あの書簡(しょかん)は、最後の(さく)に使うもので……まだ早かったのでは?」


 ユング・シャ-ビン秘書官(ひしょかん)は、大臣の早計(そうけい)な作戦に疑問(ぎもん)(てい)する。


「よいのだユングよ。お前の立てた(さく)だ、ワシの(さく)も同じだろう……?ならば、使うタイミングもワシに任せるがよい、ガハハハッ!」


「……はい。心得ました、閣下(かっか)……」


 


 ユングは、満足そうに遠見の“魔道具”で観察(かんさつ)する大臣を置いて塔を出る。

 ユング・シャービンは、王国人ではない。西の隣国、【魔導帝国レダニエス】の軍人である。

 祖国(そこく)の為に潜入(せんにゅう)してから、早数年。

 大臣と出会い、王城に入り込んでからも、常に帝国への忠誠心(ちゅうせいしん)(たも)ち続けていた。


 敬愛(けいあい)する――エリウス・シャルミリア・レダニエス皇女殿下(こうじょでんか)の為に。

 だがしかし、ここに来て計画(けいかく)(くる)い始めていた。


「――ったく……!私の考えをまるで自分の物のように……それに時期尚早(じきしょうそう)よっ!あの小賢(こざか)しい小娘が、そうそう自分の【聖騎士(おもちゃ)】を手放すわけがないでしょうがっ」


 悪態(あくたい)をつきながら、塔の螺旋階段(らせんかいだん)を急いで下りるユング。


「ここもそろそろ限界(げんかい)かしらね……あの無能大臣を(ささ)えていたのも、全ては()(あるじ)の為……私がどれだけ()くしたと思っているのかしら、あの大臣は」


 ふとユングも、螺旋階段(らせんかいだん)の窓から、遠見の“魔道具”で戦況(せんきょう)を確認しようとレンズを(のぞ)き込む。


「……囲みは完璧ね。【聖騎士】の二人も、簡単には兵に手出しは出来ないはず、後は()めて――っ!火矢!?街中で使うつもりなの!?」


 いくら自分が聖王国人ではないとは言え、街中で火矢を使う様な戦い方など、自分の立てた(さく)にはない。

 ユング・シャ-ビンは武力で制する戦いはしない。勝手に作戦を(ゆが)められて、ユングは更に(いきどお)る。


「……聖王国人どもは、間抜けばかりなのね……今に始まったことではないけど、国民()っての国だというのに……街に火が広まれば、この密集(みっしゅう)した王都はお(しま)いよ……?」


 【王都リドチュア】は、【王城区(ブリリアント)】を中心に、貴族街が四区画。

 下町が六区画ある超大都市だ。

 どの区画も隣接し、一つ一つの区画が他の街並みに大きい。

 一度火が回れば、もう想像は容易(たやす)いはずだが。


「まさか……それが分からなくなるくらい切迫(せっぱく)している?……いいえ、違うわね。どう見ても余裕(よゆう)があるのは大臣側、つまり……(さく)(ゆが)めたのは……」


 指揮(しき)()る馬鹿な貴族だと、簡単に答えが(みちび)き出せてしまった。


「……いよいよ終わりね……私の、内情から崩す作戦も、馬鹿どものせいでパーだわ。これは早い所、カルストと合流をして……――なっ!?火が……消えた?」


 ユングが聖王国からの脱出を考えていると。

 いよいよ囲んでいた騎士達から矢が(はな)たれた。

 目標の乗る馬車へと迫ったかと思うと、火矢はその火を消滅させて、その(ほとん)どが落ちて行った。

 (くわ)しくは遠すぎて分からないが、どう見ても馬車のすぐ(そば)に立つ金髪の少女が実行しているように感じられた。


「あの子……何をしたの?……《魔法》?“魔道具”?」


 馬車から飛び出してきた少女が槍を(かか)げた瞬間(しゅんかん)、火矢が何かに影響(えいきょう)を受けたのは分かった。

 今頃(いまごろ)上の階では大臣が大口を開けて(おどろ)いているかもしれない事を思うと、少し笑える。


「……ん?」


 遠見の“魔道具”に(うつ)る、二頭の馬。


「――っ!……あの茶髪は……【召喚師】!?やはり感づかれていたのね……」


 この国に潜入(せんにゅう)しているもう一つの理由。

 それが【召喚師】エドガー・レオマリスだ。


 シュダイハ子爵家が【召喚師】に調べられている可能性は高かった。

 その旨も、エリウスには(つた)えてある。

 エミリア・ロヴァルトが【召喚師】エドガーと親密な関係であることも、(すで)に確認済みだ。


皇女殿下(こうじょでんか)に知らせておいて正解だったわね……」


 その少年が乗った馬が、エミリア達がいる【王城区(ブリリアント)】の西に迫っていた。

 少年が乗る馬を(あやつ)るのは、赤髮の女性だった。


「……あれがレディルの言っていた、赤髮の魔法使い?他にもいるわね、黒髪の子供が二人か……まずいわね……このままでは――なっ……!?」


 ユングは咄嗟(とっさ)に、窓から飛び退()いて身を隠す。


「……な、何?……目が、合った……?」


 【召喚師】を観察(かんさつ)しようと視線(しせん)(うつ)ろわせていたが、赤髮の女性と、不意(ふい)に目が合った気がしたのだ。


「――くっ!な、なに?何なの急に……?汗が、(ふる)えが……あの女、まさか私に気付いて」


 まるで射抜(いぬ)かれたような視線(しせん)身震(みぶる)いし、大量の汗を()くユング。

 この【遠見の塔】から、【召喚師】達がいる距離(きょり)はまだまだ離れている。

 赤髪の女の視線(しせん)がたまたま動いただけの可能性もある。しかし。


「……あれは、ヤバい……」


 帝国軍人としての本能が、逃げろと警告(けいこく)してくる。

 このままこの国に居れば、命を落とすと。エリウスに否定(ひてい)されたもしもの言葉が、事実になってしまうのではないかと思うくらいに。

 ユングは、遠見の“魔道具”をもう一度(のぞ)こうとして、その手を止める。


「……む、無理だわ……エリウス様は、アレを敵にしようとしているの?この魔力の(とぼ)しい国で、アレに勝てる人物はいないわ……いるとすれば、それはもう化け物よっ」


 そのまま遠見の“魔道具”をポケットにしまい、ユングは塔を降りるのを再開する。

 もう一度レンズを(のぞ)く勇気すらへし折ってくる。


「なるべく早く、カルストと合流して……」


 異様な恐怖を感じたことに、ユング自身が(おどろ)戸惑(とまど)い。

 結局、もう遠見の“魔道具”を使ってローザを見ることは無かった。





 早馬(はやうま)を飛ばして、エミリアとアルベールがいるはずの場所まで、あと少し。


「……!」


「ローザ?どうかした……?」


 ほんの一瞬(いっしゅん)だが、ローザが硬直(こうちょく)したような気がしたエドガーは、(たま)らず声を掛けた。


「……いいえ。なんでもないわ……」


「そ、そっか……ならいいけど、何かあったら言ってね……」


 ローザの腰を持つ手を少し(ゆる)め、遠慮(えんりょ)がちだが頼ってほしいと、エドガーは言ったのだろう。


「ふふっ。分かっているわ……ありがとう、エドガー。エミリアを未亡人(みぼうじん)にしたら、頼らせてもらうわね!」


 ローザはセイドリック・シュダイハを()める気満々だった。


「――ま、まだ結婚してないよっ!!」


 エドガーの冷静(れいせい)なツッコミに、ローザは笑う。

 一瞬(いっしゅん)だけ感じた、恐怖(きょうふ)染みたような視線(しせん)に、殺意を()って対応したことを、エドガーやサクヤ、サクラに感じさせないようにして。





 槍を(かま)えた少女は、それはもう自分の(この)みだった。

 小さな背丈(せたけ)に、(ひか)えめな胸、綺麗な金髪、物怖(ものお)じしない勝気な目。

 どれを見てみても、完璧(パーフェクト)

 絶対に自分のものにしたかった、いや、するのだ。

 そう考えた時には、口にしていた。


「と……捕らえろぉぉぉっ!いいなっ!傷はつけるなよぉぉ!?俺の女だぁぁぁっ!!」


 目を血走(ちばし)らせて、セイドリック・シュダイハは(さけ)ぶ。

 当然、指揮官の指示(しじ)があれば兵は動く。

 セイドリックの言葉を(たん)にして、騎士数十人、傭兵(ようへい)数十人が、ぞろぞろと動き出す。


「この……(おろ)か者めっ!」


 エミリアが起こした不思議な現象(げんしょう)()の当たりにした【聖騎士】オーデインは、(さけ)んだセイドリックを罵倒(ばとう)し、自らも戦闘態勢を取った。


「ノエル!騎士が動く、準備しろっ」


「わ、分かってますよっ!」


 オーデインは腰の(さや)から流麗(りゅうれい)な細剣を抜き放つ。

 ノエルディアも肩に下げた弓を構える、足には接近戦闘用の具足(ぐそく)が付けられている。

 ()られたら痛そうだ。


「エミリア!アルベール!……悪いが余裕がない。自分の身は自分で守れ、いいね……?」


 オーデインはエミリアを(じょう)とも、アルベールを君付けで呼ぶこともしなくなり、それだけ切迫(せっぱく)していることがロヴァルト兄妹にも(つた)わった。

 それと同時に、二人を【聖騎士(こうはい)】として(あつか)ったのだ。


「はいっ!」

「……」


 アルベールは大きく返事をし、エミリアは黙って(うなず)いた。


「エミリア。彼等(かれら)の目的はあくまでも君だけだ……でも、さっきの()()を見ているから、そうそう手出しはしてこない筈だから、安心して戦いなさい。何だったらハッタリを()ませばいい」


 軽く言い放ち、最前線へ立つオーデイン。

 後方ではノエルディアが銀の矢を(つが)えている。


「やるしかないな……エミリア」


 アルベールは背負(せお)っていた盾も構え、剣と盾を装備する。

 そしてエミリアの真横に立って言った。その表情は(けわ)しく、汗も(にじ)んできて緊張が(つた)わる。


「うん。やろう!」


「ああ!さあっ!来るぞ……!」


 そうして、【聖騎士】四人の戦いが始まった。





 剣戟(けんげき)が鳴り響き、悲鳴も(あふ)れかえる【王城区(ブリリアント)】、一人の少女を自分のものにする為に、百人近い兵を指揮(しき)するセイドリックは、後方の馬車を背凭(せもた)れにして、憤怒(ふんぬ)(つの)らせる。


「……何をしているんだ……っ!たかが三人、()ぐに終わらせろよっ」


 エミリアを(のぞ)く三人を倒して、連れ帰るだけのはずが。

 (あま)りにも遅い。何度も突撃や囲み、人海戦術(じんかいせんじゅつ)を使って、有利なはずのセイドリック、だが。


「はぁぁぁぁぁっ!!」


 エミリアの(さけ)びと共に()るわれる槍からは、豪炎(ごうえん)が巻き()こり、近寄る騎士も傭兵(ようへい)もが(ひる)む。

 今、この国に《魔法》のような現象(げんしょう)は存在しない。


 騎士達は、エミリアが()こす炎の槍に、畏怖(いふ)の念を(いだ)き始めていたのだ。

 何度もジリリと攻寄(せめよ)るが、近寄るだけで恐怖感が(にじ)み出てくる。

 何故(なぜ)かと言うと、開始直後の戦闘でエミリアの攻撃をかすった傭兵の外套(がいとう)に、火が引火したことが原因(げんいん)だった。


 指揮(しき)()る貴族の命令で戦うものの、実戦経験の(とぼ)しい【リフベイン聖王国】の人民は、戦争は当然のこと、殺し合いなどしたことがない。

 あの赤い槍で斬られれば、出血だけではなく、一瞬(いっしゅん)で燃やされるのではないかと言う懸念(けねん)が、躊躇(ちゅうちょ)させていたのも、もう一つの原因(げんいん)だったと言える。


「ええいっ!全員で押しつぶせっ!圧で封殺(ふうさつ)しろ!!」


 目を血走(ちばし)らせて(さけ)ぶセイドリックは、自分が指揮(しき)()る部下のことなど一切考えてはいない。

 エミリアの槍を恐怖するあまり、【聖騎士】が二人もいるという事を忘れがちになっている騎士達は槍に気を取られ、オーデインとノエルディア、アルベールに倒されていく。


「……副団長、だいぶ減りましたね」


「ああ。あっけないが……それが実力の差だろう、それに……」


 オーデインはエミリアを見る。


「ですね。ロヴァルト妹の槍に、騎士も傭兵(ようへい)(おび)えてます……正直私も戦いたくないですし」


「そうだね……だけど。体力はそうもいかない、か……まだ学生だものな……」


 エミリアは牽制(けんせい)の為に何度も何度も槍を大振りし、その槍から出る炎の火の粉を被っている。

 火傷とはいかないが、熱が体力を消耗(しょうもう)させていた。


「……はぁ……はぁ……はぁ」


 (つら)そうに(まゆ)をひそめて、肩で息をするエミリア。


(お、おかしいな……私って、こんなに体力無かったっけ……?)


 (みずか)らの槍に体力を(うば)われている自覚はなかった。

 エミリアの疲労、それに気づいたセイドリックは。


「――!おいっ!今だ!捕まえろぉぉっ!」


 (さわ)めく騎士達はセイドリックの指示(しじ)に数人は(したが)う。

 だが、()ぐにノエルディアが迎撃(げいげき)する。


「もういい加減に(あきら)めたら……?私達が逆徒(ぎゃくと)じゃない事なんて、城に行けば証明(しょうめい)できる。これ以上やっても、自分の立場を悪くするだけじゃない?」


「だ、黙れっ!!王国に仇名(あだな)逆賊(ぎゃくと)めっ」


 顔を真っ赤にして(さけ)ぶセイドリックに、ノエルディアは「あーはいはい」と流している。

 一方エミリアは、ようやくセイドリックを認識した。


「……あの人が、私の……?」


 (あま)りの横暴(おうぼう)態度(たいど)に、疲れていることも忘れそうになる。


「ああ。セイドリック・シュダイハ子爵子(ししゃくし)だ……」


 (ひざ)に手をつくエミリアの肩に手を置き、兄アルベールが言う。


「安心しろよ。お前は俺が守ってやる……兄ちゃんだからな」


 ニッと笑って、アルベールは前線に出る。

 エミリアは、そんな兄の背を見ながら。


「兄さん……私……――エドに言われたかったよ、その台詞(セリフ)っ!!」


 格好よく決めたつもりが、逆に怒鳴られてしまったアルベール。

 無残(むざん)である。




「――!……副団長……矢がありません。どうしましょうか」


 肩の矢筒(やづつ)を逆さまにして、オーデインに見せつけるノエルディア。


(ひろ)って再利用したらいいさ――こんな風にね!」


 オーデインは騎士が落とした()れた剣を(ひろ)い上げて、セイドリックに投げつけた。


「……――!ひっいぃぃぃ!」


 セイドリックは、本当に【聖騎士】だったのかと思うような悲鳴を上げて身をよじる。

 投げつけられた剣は護衛(ごえい)騎士が盾で防いでくれたが、セイドリックはキレる。


「オ、オーデインっ!貴様ぁぁぁぁっ!」


 尻餅(しりもち)をついてでも、オーデインに対する怒りをぶちまける。


「セイドリック様……ここは一旦、お引かれになった方が……」


「だ、だだ、黙れよっ!目の前にエミリア・ロヴァルトがいるんだぞっ」


 (ひか)えめに(いさ)めに来たシュダイハ家の護衛(ごえい)を、セイドリックは殴って怒鳴る。


「お前らは死んでも、エミリアは捕らえろ!【聖騎士】は殺せばいいだろ!……ほらっ!やれよぉぉっ!」


 セイドリックの強硬(きょうこう)に、騎士が動く。


「……君たちも大変だね。恐らくはデフィエル大臣の私兵と言った所、だろう?もう分かっているのではないか?……これが、正当な命令じゃない(・・・・・・・・・)ことくらい」


 オーデインは、剣を(まじ)える老騎士に(かた)りかける。


「……無論(むろん)ですじゃルクストバー公爵――だが、ワシ等のような切り離された老いぼれや、ケガでまともに戦えない騎士には、(したが)うしか生きていく(すべ)はないのですじゃっ!」


 オーデインの細剣を(はじ)き、はぁはぁと息をする老騎士。

 周りを見ても、確かに年寄りや動きのぎこちない騎士が多く、まともに戦えているのはシュダイハ家の傭兵(ようへい)()めていた。


「なるほどね……尻尾切(しっぽき)りか……どこまで計算しているのやら、あの大臣は……」


 正確には大臣ではなく、秘書(ひしょ)ユング・シャービンの(さく)だが、それは誰も知らない事だった。

 ジュアン・ジョン・デフィエル大臣は、過去(かこ)失墜(しっつい)した騎士や傭兵(ようへい)、ケガで引退した騎士を集めて私兵にしていた。

 当然、その(そう)支持(しじ)も集まる。

 そしてその大臣が、更に兵を投入してくることなど、予想もしないまま。





 ざわざわと、王城の方から聞こえる行進(こうしん)の音。

 ガシャンガシャンと、金属音をけたたましく(さわ)がせて、板金鎧(プレートアーマー)を着込んだ騎士達が、ロヴァルト兄妹と【聖騎士】二人を囲む。

 後列の馬車から降りてきた人物は、(まご)うことなき、ジュアン・ジョン・デフィエル大臣その人だった。


失態(しったい)ですぞ……シュダイハ家の嫡子(ちゃくし)殿」


「こ、これはデフィエル大臣……」


 セイドリックも、その他の騎士や傭兵(ようへい)も、(ひざ)をついて大臣を(むか)えている。


「さて、これはどういう事かな……オーデイン・ルクストバー(きょう)。この往来(おうらい)の【王城区(ブリリアント)】で戦闘など、聖王国民として()ずべくことではないか?」


「……そうですね。誰かが仕向けたことでさえなければ、そうなのでしょうね」


 【聖騎士】は、大臣の指示(しじ)を受けない。

 【聖騎士】は、王室の血を持つ人物からの命令(めいれい)しか受けてはいけない。

 だから、大臣に(ひざ)をつくこともしない。


「ふん。よく言うものだ」


 大臣は当然白を切る。ノエルディアが小声で「……どっちがだよ、クソ(ダヌキ)」と言ったのを聞いたのは、近くにいたアルベールだけだ。

 大臣はずかずかと前に出て、エミリアを目にする。


「ふぅむ……そなたがロヴァルト伯爵の娘か……」


 エミリアを守るように、ノエルディアとアルベールが割って入るが、大臣は気にも()めず。


「……ほれ、連れて行くがいい。セイドリック殿」


「「「「――!!」」」」


 これには、兄妹も【聖騎士】二人も(おどろ)く。

 (あま)りにも強引でふざけた手段に、オーデインは。


「大臣!何をお考えかっ……」


「何をも何も……そのままの意味だ。ここに勅命書(ちょくめいしょ)もあるぞ……?」


 ローマリア殿下(でんか)(いん)が入った書簡(しょかん)をちらつかせ、【聖騎士】を牽制(けんせい)する大臣。オーデインにしか見えないその顔は、実に腹立たしい笑顔だった。


(……ちっ……随分(ずいぶん)稚拙(ちせつ)(さく)だ、だが……今私たちが正当だと証明(しょうめい)するものがないっ)


 オーデインは歯噛(はが)みする。

 複製(コピー)された(いん)が、ここまでの効力を発揮(はっき)するとは想定外だった。


「おお!ああ、なんて美しいんだ……我が妻エミリア……」


 カツカツと靴を鳴らせて、セイドリックがエミリアの前に来る。


「……」


 エミリアは、何も言わない。只々(ただただ)セイドリックを(にら)んでいるだけだ。


「ああ、いいねその勝気な表情(かお)、ベッドの上で(くず)してあげるよ、ぐふふ――泣き顔にねぇ」


 もう完全に勝利者のつもりになっているセイドリック。

 オーデインもノエルディアも、アルベールでさえも、大臣の持つ書簡(しょかん)が本物ではないことは分かっている。

 だが、その書簡(しょかん)に押された(いん)は本物と(うり)二つだ。

 動けば、王室に反する行為(こうい)と見なされ、ここにいる板金鎧(プレートアーマー)を着込んだ大量の正規(せいき)騎士に押しつぶされるだろう。


「ほら、こっちに来て!結婚式を()げようじゃないか!!」


 エミリアの手をグイッと(つか)み、引き寄せようとするセイドリック。


「――い、嫌っ……」


 小さな声だった。とても、小さな悲鳴だった。

 誰にも聞こえず、声を出したエミリアでさえ、言ったかどうかの声。

 だが、それを聞いた人物がいる。


 どこにいても聞こえているであろう大切な幼馴染の声を、聞き逃すわけは無い。

 エミリアが引っ張られ、セイドリックの胸に(だか)かれようとした瞬間(しゅんかん)


 轟音猛々(ごうおんたけだけ)しく、二人の間を通過する炎の弾(・・・)


「――うばぁっ!?」


 セイドリックは、前髪を()がしてエミリアを離す。

 その場にいた全ての人物が、その炎が飛んで来た先を見る。

 ――そこには。


「……――汚い手で、エミリアに()れるなっっ!!」


 赤い剣の切っ先をセイドリックに向けた、エミリアの最愛(さいあい)の幼馴染。

 【召喚師】エドガー・レオマリスが、三人の異世界人を引き連れて参上(さんじょう)した。


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