表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
92/383

82話【二日目~帝国side~】



◇二日目~帝国side~◇


 ここは、聖王国領【カラッソ大森林】。

 西国【魔導帝国レダニエス】へ渡る為に通らなければならない、非常に規模(きぼ)の大きな森だ。


 森の中で、一台の馬車が停車している。

 その車内で、通信の為の“魔道具”を耳から外す一人の男。

 ジャーキーを乱暴に(かじ)りながら、大声で愚痴(ぐち)る。


「ったくよぉ!……あのドマゾ女、どんだけ(なじ)られんのが好きなんだよ」


 休憩中(きゅうけいちゅう)の車内には。

 この男、レディル・グレバーンが一人でふんぞり返っていた。

 (つか)える(あるじ)、エリウス・シャルミリア・レダニエスは、【月破卿(げっぱきょう)】レイブン・スターグラフ・ヴァンガードと共に、近辺調査(きんぺんちょうさ)に行っていた。


 馬車の外には、リューグネルト・ジャルバン。

 エミリアにリューネと呼ばれていた、元騎士学生が居るが、レディルといるのが気まずいのか、外でエリウスの帰りを待っていた。


「――おいっ!リューグネルト。馬車ん中入れよ……雨降ってんだろ」


「……結構ですっ。雨、好きなので」


「はっ!そうかよっ……」


 (かたく)なにレディルを見ようとしないリューネは、雨に打たれる肩を手で(はら)いながら、エリウスとレイブンが向かった方角(ほうがく)を見る。


(エリウス様、早く帰って来て下さい。この人と居たくありません……)


 レディルはもう仲間である。

 (たと)(ひど)いことをされた(二章)とはいえ、エリウスが信頼(しんらい)する仲間の一人なのは間違(まちが)いなく。

 エリウスに信頼(しんらい)されている以上、厄介(やっかい)ごとを起こすつもりはない。

 ただ今後、絶対に馬が合うことがないと言う自信はある。


 それ以外にも、リューネは弟のことが気になるのだ。

 エリウスに助けてもらったとはいえ、(いま)だに弟、デュードは聖王国の【王都リドチュア】に居るはずなのだ。

 王都を出て(すで)に十日以上が()ち、安否(あんぴ)も分かっていない。

 エリウスが言うには、他の仲間が弟を連れて来てくれるらしいのだが。

 リューネはその仲間に会ったことはないし、誰なのかも知らない。


「……ちっ。おいリューグネルト!いいから馬車に入りやがれっ!」


「……いいですってば」


「お前も頑固(がんこ)だな……おらっ!いいから来い!!」


 レディルはリューネの腕を(つか)み、強引に馬車に連れ込もうとする。


「い、やっ……(はな)してっ!……ってば!」


「あぁぁ!うるせぇなっ!(だま)って来いっつってんだろ!」


 リューネが腕力で(かな)う訳もなく、馬車に引きずり込まれた。

 また何かをされるのではと、身体を(ふる)わせるリューネが恐怖に目を(つぶ)っていると。


 ボフッ――っと顔に当たる、フワフワした物体。


「……タ、タオル?」


「とにかく、()れた身体を()けよ……馬鹿(ばか)が」


 レディルは、リューネにフカフカのタオルを投げつけた。

 これで身体を()けと、ぶっきらぼうに。


「……」


「んだよっ。いらねーのか?」


 顔を(そむ)けたまま、レディルが言う。


「い、いえ……なんか意外で。また(ひど)い事されるかと思って」


「……ちっ!……しねーよ――おらっ」


 何か投げられた。


「――っと……ジャーキー?」


 そのままそっぽを向いてしまうレディル。


(も、もしかして……謝罪(しゃざい)のつもり?)


 そうだとしたら、不器用すぎるにも程がある。

 リューネは()れた身体を()きながら、レディルを観察(かんさつ)する。

 この乱暴で言葉使いの悪い若者に、どんな意思があるのかが、気になって。





 馬車を降りたのは、レイブンが言い出したことだった。

 この【カラッソ大森林】には、昔隠した“魔道具”がある、と。

 エリウスとレイブンは二人きりで森に入り、雨の中、目的の為に奥地へと進んでいた。

 しかし、エリウスを待っていたのは。




 ドォォォォォン!!――と、エリウスを(おそ)う雷撃。

 雷は雨に()れた地を()い、水溜(みずた)まりや雨露(うろ)(しずく)を荒れ(くる)うように(はじ)き飛ばしていた。


「――どう言う|おつもりですか?レイブン・スターグラフ・ヴァンガード公爵閣下(かっか)


 (かろ)うじて()けた雷の爪痕(つめあと)睥睨(へいげい)し、エリウスはレイブンに問う。


「……“魔道具”を隠したというのは本当ですよ。ただ、それを使うに見合(みあ)う存在かな……?貴女(あなた)は……」


「――っ!」


 そういうことかと、エリウスは納得(なっとく)する。

 ()ぐに腰元の【裂傷の魔剣(アヴラベイル)】抜き、レイブンと対峙(たいじ)する。


「相談もなしにこのようなこと……後で怒っていただきますよ?未来の娘さん(リューネ)に……」


「はは……それくらいは覚悟しましょうか――ふっっ!!」


 レイブンは軽快(けいかい)に笑うと、エリウスに向かって雷撃を放つ。

 エリウスに向けられた左手から(はっ)せられた。

 《魔法》のはずだが、詠唱(えいしょう)は全くなく、超高速と言っていい雷の《魔法》。


「くっ――はぁっ!」


 エリウスは【裂傷の魔剣(アヴラベイル)】でそれを(はじ)く。

 バチバチィッ!!と音を鳴らして雷は霧散(むさん)するが、エリウスの服が若干焦(じゃっかんこ)げた。


「うん。流石(さすが)対処(たいしょ)ですね……確実に《魔法》の中心点を斬った、見事な剣技だ」


 レイブンは剣ではなく、エリウスの剣技を()める。


閣下(かっか)こそ……見事な《魔法》です。数年幽閉(ゆうへい)されていたとは思えませんわ。腕は落ちていないようで安心しました……」


 小娘に防がれた。と、十分皮肉(ひにく)ったはずだが、逆に生意気な答えが帰ってきた。

 レイブンは笑ってそれを受け取る。


「――当然だ。あの人(・・・)はそんなことを許さない」


「……そうでしょうね」


 あの人とは、エリウスの依頼者であり、レイブンの数少ない友人だ。

 その共通見解は――“悪魔”だった。


 エリウスの剣技は確かに見事な腕前だ、聖王国の騎士など目ではない。

 上位の【聖騎士】となると話は変わるが、少なくとも個人では(かな)う者は多くないだろう。

 例外(れいがい)は、【召喚師】と――あの炎の魔法使いだ。


閣下(かっか)……一つ聞いても?」


 剣を(かま)えながら、エリウスは聞く。


「何ですかな?」


「聖王国で最強の魔法使いである閣下(かっか)が、知りうる(かぎ)りの中で……(もっと)も強い魔法使いはどなたですか?」


「……?」


 誰の事かと首を(かし)げるレイブンは、本当に心当たりがないようだ。


「なら、言い方を変えます……炎の使い手をご存知ですか?」


「……炎か。一人心当たりはあるが……それがどうかしたのかな」


 それがあの女、ローザとか言う魔法使いならば、早めに対処(たいしょ)をしなくてはならない。

 だが前に聞いた時、レイブンは【召喚師】の(そば)にいる魔法使いを知らなかった。


「いえ……少しばかり気になったもので……行きますわっ!」


 エリウスは飛び出して、剣を()るう。

 剣の軌跡(きせき)一瞬(いっしゅん)でレイブンに到達(とうたつ)して、()ぜる。

 ギャイィィィン!と、不思議(ふしぎ)な音が耳に響き、不快感(ふかいかん)(あらわ)すエリウス。


「……不服(ふふく)ですかな?」


「いえ……別に」


 図星だった。エリウスは音に不快感(ふかいかん)を出したのではなく、簡単に(ふせ)がれたことに不快感(ふかいかん)を出していた。

 それを見抜かれたことも、乗算(じょうさん)されて。


「しかしながら、防御(へき)を出すことになるとはね……()けるつもりだったけど、これはうれしい誤算(ごさん)ですかな、皇女殿下(こうじょでんか)


 手をフリフリとさせ、その《魔法》が発動された“魔道具”を見せる。


「それが、【蒼海の一滴(ロイヤル・サファイア)】の力……ですか?」


 【リフベイン聖王国】の英雄、【月破卿(げっぱきょう)】レイブンを英雄へと押し上げた“魔道具”。

 その《石》【蒼海の一滴(ロイヤル・サファイア)】は、禁止級の“魔道具”である。

 それは、ローザの【消えない種火(ピジョン・ブラッド)】と(つい)をなすような深い青。

 無限(むげん)の水を生む、深海(しんかい)で生まれた“魔道具”だ。


「さて、どうですかな。俺の《魔法》は雷でしてね、水とは相性が悪いのですよ。中々使い(づら)くて、困っていますよ」


 左手の甲に(かがや)くサファイアを、()しげもなくエリウスに見せつける。


「そんなことをされても、欲しいなんて言いませんわよ……?」


 まるで(いや)しい女のような(あつか)いに、エリウスは(あき)れる。


「はは、すみませんね。聖王国では、《石》に興味(きょうみ)を持つご婦人(ふじん)がいないからね……帝国民はどうかと思って、つい――んっ?」


 レイブンは、その左手で(ほほ)()れる。

 じわぁっと、(ほほ)(つた)(あたた)かいもの――血だ。


「ほう……久々に戦いで血を流されたよ」


光栄(こうえい)ですわ……ヴァンガードきょ――っ!?」


 ズドンッ!!と、エリウスは(はじ)()ばされ、大木に激突(げきとつ)した。一瞬(いっしゅん)だった。


「――かはっ!」


 一気に(はい)の空気が押し出される。


「くっ……!!」


 ()ぐに立ち上がり剣を(かま)えるエリウスに、見えない《魔法》を(はな)った【月破卿(げっぱきょう)】レイブンは。


「……流石(さすが)だね、気を失わないだけ()めてあげよう。でも、これはどうかな?」


 口調(くちょう)を変えたレイブンは、皇族(こうぞく)に対する敬意(けいい)など一切持たないように。


「死なないでくれよ?エリウス・シャルミリア・レダニエス……!」


 エリウスの周りには、いつの間にか、ここには無い(はず)海水(・・)が。

 つまり、【蒼海の一滴(ロイヤル・サファイア)】の力で海水を生み出したのだ。

 海水は見る見るうちにエリウスを飲み込み、()ぐに全身を包み込む。

 球体(スフィア)のように、冷たい海水で取り囲まれたエリウスは、飲まれた海水の中でこう思った。


「がぼっ……ごぼぼっ……――」


 (この……ド畜生……)――と。





 数刻(すうこく)(数分)後。エリウスを(かか)えたレイブンが馬車に戻った(さい)、一番に声を出して怒ったのは、意外にもレディルだった。


「おいっ!エリウスに何してやがんだっ!!」


「怖いな、大丈夫……(おぼ)れて気を失っているだけさ……その手を離してくれないか?」


 レディルは咄嗟(とっさ)(つか)みかかった右手を乱暴に(はな)す。

 寝かされたエリウスの(かたわ)らでは、リューネが必死に「エリウス様っ!」と声をかけている。


「どうしてこうなったんだよ……“魔道具”を取りに行ったんじゃねぇのか!?」


「ああ、これだね。しっかり隠されていたよ」


 レイブンは悪びれずに、(ふところ)から“魔道具”を出す。

 それは、複数の《石》が入った袋だった。


(ひど)いですよっ!閣下(かっか)……」


 リューネも馬車の中で(いきどお)る。


「ああ、これは……皇女殿下(こうじょでんか)に言われた通りになりそうだな……」


 レイブンは両手をプラプラと上にあげて、降参(こうさん)真似事(まねごと)をする。


閣下(かっか)……!!」


「――い、いいのよ。リューネ、レディル……ゴホッゴホッ……!」


「エリウスっ」

「エリウス様!」


 無理に起き上がり、エリウスは言う。


「……丘で(おぼ)れるとは思いませんでしたわ、ヴァンガード(きょう)


 驚異的(きょういてき)能力(ちから)だった。

 エリウスは水の中に閉じ込められただけではない。身動きも封じられていたのだ、レイブンの雷の《魔法》によって。


「すまなかったと思っていますよ……つい、カッとなってしまった」


 自分に傷をつけた人物は久しぶりだと、感心しているレイブン。


(うそ)がお下手ですわ……腹が立ったなら腹が立ったと、そうおっしゃってくださいな……「小娘が生意気だ」と……」


「「……」」


 (にら)み合うエリウスとレイブン。


「ふっ……全く、食えない皇女(おかた)だ」


「ええ。お互い様ですわ……」


(レディルさん……)

(あ?)

(これ、解決でいいんですか?)

(俺が知るかよ)

(……そうですか)


 こっそりと話すリューネとレディル。

 馬車の中は、気まずい以外言いようのない空気になってしまっている。

 そんな空気を読む事はせず、レディルの耳元のイヤリングに、先程会話をしていた仲間、ユング・シャ-ビンから通信が入る。


『レディル……緊急事態(きんきゅうじたい)よ』


「んあ?どうしたユング。お前から通信かよ……」


 エリウスも「ユング?珍しい……」と言っている。


『そこにエリウス様もいるのね。丁度いいわ……いい?今後、私は通信を行えない』


「――おい、何があった?」


 一気に神妙(しんみょう)雰囲気(ふんいき)になり、レイブンも押し黙っている。


『私が細工(さいく)した罠が、馬鹿(ばか)な大臣のせいで物凄く早まりそうなのよ……痛恨(つうこん)だったわ。まさかあの大臣が、あそこまで無能だとは……』


「お前の細工(さいく)つったら、王族がアレっつう奴だろ?」


『なにがアレなのか分からないけど、聖王国の内情を知るために潜入した私が、内部を狂わせるために……馬鹿(ばか)な大臣を擁立(ようりつ)させた事よ?それに、貴族に売ったアレね』


 聖王国には三人の大臣がいる。

 その一人が、ユング・シャ-ビンが(つか)えるジュアン・ジョン・デフィエルだ。

 平民出身の彼は、(あこが)れを(いだ)いて城に勤務(きんむ)していた。

 しかし、何度も夢破(ゆめやぶ)れ、最終的には政治(せいじ)の世界に足を踏み入れ、長年の時を働き、ユング・シャ-ビンと出会ったのだ。

 利用されているなど、知る事もなくだ。


「そうかよ。んでどーする。脱出すんのか?……今、俺らは行けねーぞ。距離がありすぎる」


 (すで)に【王都リドチュア】から十日以上の距離(きょり)を離れている。

 今からの合流は(きわ)めて困難(こんなん)だった。


『何とかするわ。それより――』


「ユング。(わたくし)よ……」


『――殿下!……も、申し訳ございません』


「いいわ。何があったかを聞かせなさい……――っとその前にリューネ、こっちに来て」


「は、はい……」


 エリウスは()れたままイヤリングを片方はずし、リューネに着ける。


貴女(あなた)も聞いておきなさい。片方だから聞こえは半減だけれどね……ごめんなさいユング。続けてくれる?」


『はい……現在、第三王女ローマリアが目を付けた騎士学生が王城に向かっています。その邪魔をしようと、大臣が私兵を向かわせたようで……』


「……馬鹿ね」


『……はい。全くもってその通りなのですが……その私兵の中に、(さく)(ろう)じた人物が混じっているようで……』


 その人物は、エミリアの婚約者(こんやくしゃ)になっている貴族の息子。

 セイドリック・シュダイハだ。


不味(まず)いの?」


『……確証はまだ……ですが、(さく)の開始には早く、時期尚早(じきしょうそう)でして……)


「確か、カルストが売ったのよね」


『……はい。ですが、まだ時間がそう()っていません……もし、【召喚師】に反応してしまったら、台無しになります』


「なるほどね……それで、どうしてそこに【召喚師」が(かか)わってくるの?」


『それが……よく分からないのですが。(さく)(ろう)した人物が……張られていた可能性あります』


「はっ!バカな奴だっ……!」


「――レディル黙って」


 「ちっ!」と舌打(したう)ちをして、馬車の中で寝転がるレディル。


『これから最悪の事態(じたい)(そな)えて準備をしますが……もしもの時は』


 悲壮感(ひそうかん)(ただよ)うユングの言葉に、エリウスは。


「ダメよ。死ぬことは許さない……――まだ王都にカルストがいるわ。合流しなさい、連絡はつけておくから」


 別行動中のもう一人の仲間、カルスト・レヴァンシーク。

 数々の聖王国貴族に、商人として【魔石(デビルズストーン)】を売った人物。

 現在はリューネの弟デュードを保護(ほご)し、(おり)を見て合流する予定だったが、ユングと合流させることにした。


『……感謝します、エリウス殿下(でんか)……!では、私これで……ご武運を』


「貴女も……」


 それを最後に、ユングからの通信は切れた。


(きょう)……(しばら)くここから動けなくなりましたわ、仲間が来ます」


「……俺は構いませんよ――その仲間が今後、俺達の行く道に、使えるのなら……ね」


「ええ。役には立ちますわ」


 大切な仲間が、まるで使い捨ての(こま)の様に言われても、決して動じず流して見せたエリウスに、リューネもレディルも、更に忠誠(ちゅうせい)(ちか)っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ