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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 1章《覚醒する日常》
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05話【プレゼント】

脱字修正しました。報告ありがとうございます。



◇プレゼント◇

 

「ったく、エミリアの奴、何やってんだよ……」


 エミリアの兄アルベールが、我慢に耐え切れずに愚痴(ぐち)りだす。


「アルベールが来てから、もう大分経つね……」


 そう、時刻はもう夕方に迫る。


「ったく、人が折角アシストしてやってんだぞ」


「アシスト?何の?」


 持っていた(ほうき)をブンブンと振り、「な、なんでもないって!ははは……」と誤魔化すアルベール。

 エドガーの読みは、またお節介をしようとしている。だ。


「ふぅん、まあいいけどさ。そんなことより、ゴミ散らかってるよ……」


 アルベールのありがたい申し出により、今は宿屋の庭を掃除中だ。

 エドガー、アルベール、従業員メイリンの三人で。

 夕方に差し掛かっているのにも関わらず、今もまだ掃除しているのには理由がある。


 近所の少年、悪ガキで有名な子供達が、ゴミをまとめて捨てて行ったのだ。

 投げ飛ばした際にゴミ袋が破れ、庭に散乱してしまった。

 それを片付けている最中だ。


「ゲッ!折角集めたのにぃ」


 するとメイリンが。


「もう、アルベールさんったら」


 と、クスクスと笑い出す。

 アルベールは気恥ずかしそうに。


「おいっ、エド!余計な事を言うなよ!」


「余計って何さ、アルベールだろ?ゴミを散らかしたのは」


 アルベールがエドガーと仲良くするのは、幼馴染ってだけでは無い。

 勿論、エドガーは大切な幼馴染で親友だが。


 メイリン・サザーシャーク。

 アルベールが、初めて惚れた女性。

 農家の娘で、今年で21歳になる年上の女性。


 【下町第一区画(アビン)】で農家を生業(なりわい)にする彼女の家は、隣接する【貴族街第一区画(リ・パール)】にあるロヴァルト伯爵家への仕出しをしている。

 その関係で、彼女との交流は多い。


「くぅ、メイリンさんの前だと、なんでか格好がつかねぇ……」


 小声で己の失敗を悔やむアルベール。

 「脈なしなんじゃない……?」とエドガーの無慈悲な宣告にガッカリする。

 そうこうして日が傾きかけてきた時、本来ならばとっくに来ていてもおかしくない人物がようやく顔を出す。


「――ご、ごめん兄さん!遅れた……」


 はぁはぁと肩で息をするエミリアが、汗だくでやってきた。


「本当にごめん、()()()()()()よ」


 朝から十時(じゅっとき)(10時間)ほど寝ていたと言う。


「――はぁ?」


 エドガーから見ても、アルベールが怒ったのが分かった。


「ま、まぁまぁ、アルベールも落ち着こう。エミリア!それならおはよう、だね」


 すぐに兄妹の間に立つエドガー。

 何だかんだで、エドガーにはこういう時、気まずい雰囲気を和らげる力がある。


「うん、エド!おはよう!」


 屈託(くったく)のない笑顔を見せた。

 そのエミリアの笑顔を、アルベールは怪訝(けげん)な顔で見ていた。


(エミリアのやつ、どうしたんだ?昨日までと別人だぞ……)


 昨日の暗い様子からはまるで別人の様だ。

 まるで()()がないみたいな、そんな様子。


「んっ?エミリア。その黒いの何だ……?」


 エミリアはエドガー、メイリンと談笑していたが。


「――え?あぁっ!そうだった、忘れてたっ!」


 エミリアはその手に持っていた黒い箱を、恥ずかしそうにエドガーに渡す。


「はいっ、エド!これプレゼント」


 エドガーは驚きつつも、その箱を受け取る。


「え、これ……僕に?」


「うん。貰ってくれるかな?」


 エドガーはその箱の蓋を開ける。

 中には、()()()()()が入っていた。


「なんだこれ……?《石》か?」


 口を開いたのはアルベールだった。

 メイリンも「ん?」と分かってはいない。

 しかしエドガーがその《石》を手に取った瞬間、まるで霧が晴れるように、その《石》は赤く輝く宝石へと姿を変えた。


「わぁ、綺麗ですねぇ」


 先程の沈黙など無かったかのように、メイリンが口を開いた。


「なんだよ。ただの赤い石か?」


 アルベールも、先程の自分のセリフを忘れているような口振りで話す。


「どう?エド……」


 エミリアが不安げに聞く。


「す……」


「「「す?」」」


 エドガー以外の三人が聞き返す。

 ほんの少し、時が止まったのではないかと思った矢先。


「――凄いっ!凄いよエミリア!こんな綺麗なルビー、見たことないよ!わぁ、凄いなぁ」


「よかった~、じゃあ受け取ってくれるんだね!」


「本当に!?いいの?こんな価値のある物!!」


 価値のある物。

 この《石》には値段がつかない、つけられないのだ。


 何故ならば。


「いいも何も、ただの(・・・)石ころだからな」


 そう、ただの石ころ。事実そうなのだ。


「そんなもの、夏になればいくらでも()()()()()だろ?」


「――もう、兄さんっ!?」


 降ってくる。そう降ってくるのだ。

 この様な宝石は、天から降ってくる。

 遥か天に浮び、聖王国を周回する【浮遊島】。

 アルベールが言ったように、夏になる頃にはこの王都上空に来る名前もない浮島。

 そこから降ってくるのだ。様々な《石》が。その為、これらの宝石には価値がない。

 誰でも手にでき、路傍(ろぼう)に転がる石と同じで、価値がないもの。

 それが、この世界の《石》だ。でも。


「とんでもないっ、すっごくありがたいよ、ありがとう!エミリア!」


 エドガーにとっては違う。

 この《石》が価値のあるものだと知っている。

 どう価値のあるものかは調べなければ分からないが、これらが特別(スペシャル)であることだけは分かる。

 それはエドガーの師匠である、実の父親が教えてくれたことだからだ。


「なぁ、エミリア?」


「なに……?兄さん」


「あの石、どこで拾った?」


 エドガーは揚々(ようよう)と《石》を部屋に持って行った。

 その間に、アルベールは気になったことを聞く。


「……えっ?」


 素っ頓狂(すっとんきょう)な声を出すエミリア。


「だからどこで拾ったのかって……どうしたエミリア?」


 エミリアは固まっていた。


「――あ、あれ?どこにあったんだっけ、アレ……?」


「オイオイ大丈夫か?寝すぎてボケたんじゃ」


「ち、違うよっ!……でも、あれ?なんでだろ……」


 明らかにおかしい。エミリアは今日、エドガーへのプレゼントを用意していた。

 部屋を何度も探して、倉庫まで探しにいった。

 そしてメイドのナスタージャに言われて父の部屋を訪ねた。

 そうして父の話を聞いて、疲れて部屋で休んだ。はず。

 でも目覚めた時、自分の部屋の机には既に黒い箱は用意されていて、前夜に用意していた。と言う記憶がある。


「私、倉庫でなにを探してたんだろ」


「いや、知るかよ」


 トンっ!とされたアルベールのチョップで、エミリアの思考は“前日から用意していた”に決まった。





 アルベールとエミリアの二人が帰った後、メイリンが二人の伝言を伝える。


『じゃあねエド、明日また迎えに来るからね』

『俺のカッコいい所を見に来いよ』


「……ですって」


「なんで。それくらい言ってからいけばいいのに」


 少しむくれるエドガーにメイリンは。


「エドガー君がその赤い《石》に夢中になっているから、遠慮したのよ……きっと」


 フフッと笑い出すメイリン。まるでむくれる弟を見ているようだ。


「それじゃあねエドガー君。お疲れ様」


 メイリンが宿の仕事を終え、帰る。


「あ、お疲れ様です。メイリンさん、今日もありがとうございました」


 「いえいえ」とスカートを(ひるがえ)して、メイリンは帰っていった。

 エドガーは自室に戻り。赤い宝石、【消えない種火】を見ていた。


「【消えない種火】か……初めて見たな。父さんのコレクションにも無かったから、本当にビックリだ……」


 父であり、師匠の【召喚師】エドワード・レオマリス。

 母が亡くなった後、エドガーと妹のリエレーネを残して蒸発してしまった。


「父さん……」


 エドガーは昔、父に初めて【召喚師】の力を見せて貰った事を思い出す。

 別の世界。その世界にリンクし、その世界に干渉する。

 すると、その世界の物体を呼び寄せるというもの。


 エドガーの机の上にある青い小箱。

 長方形で、正面とみられる方に黒い文字が書かれていた。

 上から見たら薄い板だ。文字を書き出せば「15:24」と書かれている。

 父はこれを時計、だと言った。時間を計る時計。


 時計ならこの世界にだってあるし、多くの人も持っている人が多いだろう。

 エミリアだって懐中時計を持っているし、エドガーの家にも掛け時計などはある。

 でも、父が言ったこの時計は、針がなく、黒い文字も一切動かない。


「壊れたものしか“召喚”出来ない……か」


 エドガーの父・エドワードは、壊れた物しか“召喚”出来なかった。

 父は壊れた物を“召喚”し、それを直して収益(しゅうえき)を得ていた。


 エドガーの場合は、小さな物。更には完成された物は“召喚”出来ないというもの。

 “召喚”出来るのは部品のみだ。


「……僕も、壊れてるのかな?」


 過去に父が残した言葉に自分自身を重ね。

 エドガーの(つぶや)きは誰にも聞かれず、ただ虚空(こくう)に消えていった。


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