エピローグ【王女の先見】
2章終了です。
◇王女の先見◇
路地裏をパタパタと走る、小さな足音。
助けてくれた槍使いの少女には申し訳ないが、今ここで捕まったり面倒ごとを起こすわけにはいかない。
路地裏を抜けて、少女は振り向き確認する。
「はぁ、はぁ……追ってきてはいない……わよね？」
どうやら、あの槍使いの少女がうまくやってくれたみたいだ。と安堵する。
しかし、直ぐ後ろから。
「――ローマリア様」
「！！」
背後から突然名を呼ばれ、慌てて身構えるが。
見知った顔にホッと胸をなでおろす。
「なによ……オーデインじゃない……焦らせないでっ！」
声を掛けて来た青年に近寄り、ポカポカと胸を叩く小柄な少女。
「お戯れを……殿下」
自らが脱いだ白い外套を、ローマリアと呼んだ少女に掛ける青年。
その外套には、《片翼の獅子》が剣を口に咥えた、金色の勲章が輝いていた。
それは、【聖騎士】の証だ。この国の精鋭である最強の証。
「ありがとう――あ。そうだオーデイン。騎学生の中に、物凄く強い槍使いの娘がいるわよね？」
【聖騎士】オーデインは眉根を寄せて。
「ローマリア様。もしかして……いえ、もしかしなくても何かありましたね？」
「――えっ！？」
ピタリと動きを止め、後ろに控える長身の【聖騎士】の視線を受けるローマリア。
「勝手に城を抜け出して……いなくなったかと思えば……」
「こんな時に」と頭を抱えるオーデイン。
「し、仕方がないでしょっ！あの黒煙がなんだか気になったんだもの！……結局、見に行けなかったけど……」
収監所の煙が気になり、城を抜け出してまで見に行こうとしていたのだ。この聖王国の王女であるこの少女は。
「私共にお伝え頂ければ、後でいくらでもご報告しますが……」
オーデインは、この抜け出し癖のある王女、ローマリアの護衛騎士の一人だ。
「それじゃダメよ！姉上は、決して教えてくれないもの！」
「しかしですね……」
食い下がるローマリアにオーデインは参る。
いつものこととはいえ、このお転婆王女の言い出すことは突飛で大胆だ。
ついていけない時もある。
「なら教えて頂戴！？……【ゴウン】で何があったの！？脱走？暴徒？」
「……現在調査中としか」
ローマリアは羽織った外套をオーデインの顔に投げつけ。
「ほらねっ！いっつもそうだわ――何かあれば、いつも調査調査って……答えを聞いた事なんてないもの！」
「……」
今回の騒動で、【聖騎士】に出撃命令は出ていない。
王城も気付いてはいる筈だが、一向に騎士たちに命令は下されず、ただ「待機していろ」と言われるだけだった。
「――帰るっ！！」
ぷんすかと怒り、王城の方へ歩き出すローマリア。
「いいことオーデイン！……槍使いの娘を調べ上げなさい……物凄い使い手だったんだから！……もしかしたら、貴方よりも強いかもしれないわよ？」
そんな娘がいれば、既に【聖騎士】に成っていますよと、心の中で愚痴りながら、オーデインは返事をした。
「了解しました。ですが、調べてどうするおつもりなのですか？」
ローマリアは笑う。
「決まっているでしょう……私の、【聖騎士】にするのよ」
と、本人の居ないところで。
エミリアの運命は――《石》のように転がり始めたのだった。
～忍者VS女子高生～ 終。
