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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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139話【ヴァジュラ】



◇ヴァジュラ◇


 異世界【ジュラ・レダ】。戦いの終わった、平和になった世界だ。

 その世界で開発された【知能武具インテリジェンスウェポン】、【聖槍ヴァジュラ】。

 人間だった彼女は、世界を救った【勇者】の武器だ。

 見た目は祭具(さいぐ)そのものだが、その口ぶりから槍だと(つた)わる。


 それは、エドガーにとって(のぞ)んだ結果である。

 そして略名で呼ばれるその名は、()しくも異世界の“神”インドラが使う槍と同じものだった。


「ヴァジュラ……さんは、“召喚”されて、怒っていますか?」


 ヴァジュラを“召喚”した張本人。

 エドガー・レオマリスは、テーブルの上に乗る彼女に問う。


『そんな事。知ってどうするのだ?()の役目は戦う事だ。()は槍……【勇者】の槍だ。戦いのなくなった()の世界に、最早(もはや)武器は不必要……封印されて、もう二度と目を覚ますことも無いと思っていたのだ……それを思えば、この世界も悪くない……』


「……そう、ですか」


 その言葉に、少しは安心できた。

 そして、本来“召喚”するはずだった槍が目の前にあるという事にも。


「しっかしだなぁ……()を使うには適性(てきせい)が必要なのだぞ?そこの赤いのも、紫――あ、そちらの紫の方も……私を使えはしないです……はぃ」


「赤いの止めて。私はローザ、ローザ・シャルよ」


「クックック……(われ)はフィルヴィーネ。【残虐(ざんぎゃく)の魔王】……フィルヴィーネ・サタナキアだ」


 なんだか久しぶりに聞いた気がする。

 そんな【召喚師】エドガーと、異世界人二人と一本の挨拶(あいさつ)が終わり、エドガーがヴァジュラに質問をする。


「ヴァジュラさん。貴女(あなた)が、この世界で(のぞ)む事は何ですか?」


 その問いに、テーブルの上のヴァジュラは《石》を(かがや)かせて。


『ふむ……“召喚(ぬし)”エドガーよ。その前に、お前は()に対する態度(たいど)(あらた)めろ』


 エドガーは、これでもそうとう律儀(りちぎ)であり丁寧(ていねい)に対応している方だが。


「す、すみません……」


 テーブルの上に向かって頭を下げるエドガーに、ローザもフィルヴィーネも何も言わなかった。

 それは、ヴァジュラの言いたい事が、(すで)に理解できているからだ。

 ヴァジュラの言いたい事。エドガーに態度(たいど)(あらた)めろと言ったのは、別に生意気だとか、不敬(ふけい)だからと言っているのではない。


『違う。そうではないぞまったく……いつもこうなのか?いや、なのでしょうか……?』


 ヴァジュラはフィルヴィーネを見ているらしい。

 口調(くちょう)で誰に言っているか分かるので助かる。


「……そうだな、そういう奴だ。この男は」


「そうね。初めの時からそうだわ……」


 フィルヴィーネの言葉に、ローザも同調した。

 他の異世界人の誰かが居ても、同じく(うなず)くだろう。

 そして当の本人は、キョトンと意味も分かってなさそうに首を(かし)げた。


「えっ……と、どういう事、ですか?」


 何故(なぜ)かローザにまで丁寧(ていねい)口調(くちょう)になってしまい、(あき)れたローザにジト目で見られた。

 そんなエドガーに理由を()べたのは、ヴァジュラだった。


『……エドガーよ。()はなんだ?』


「はい?武器……槍、なんですよね?」


『である。そのたかが武器である()に、何故(なぜ)お前は敬語(けいご)で話す?』


「……」


 エドガーは、意味が分からなかった。

 彼にとって、ヴァジュラは人だという事なのだろうが、それは槍である彼女には通用しないのだろう。


()は一本の槍……意志(いし)を持ち、話す事が出来ても……()は槍なのだ。そんな槍に、どうしてお前は“さん”と付ける。()にさん付けはいらぬ……()意図(いと)を、そこの赤いの……いや、ローザとフィルヴィーネは理解してくれたようだがな』


「……で――」


 でも(・・)と言いそうになって、エドガーはローザの言葉を思い出す。

 いつもは咄嗟(とっさ)に出てしまう言葉。「でも」と「だけど」。

 極力言わないように(つと)めて来た言葉だ。


「――僕にとって、異世界人たち(みんな)は……」


 ローザとフィルヴィーネに見られている。

 それに気付いて一瞬だけ止まる。止まるも()ぐに言葉を(つむ)いだ。


異世界人たち(みんな)は、僕の大切な人です。その皆のおかげで……僕はこうしてここにいる。敬意(けいい)を持つのは、僕にとって当然で……その、話し方とかは……正直、僕がそういう性分(しょうぶん)なので、()ぐに直せは出来ないと思うんです……」


「でしょうね」

「だろうな」


 赤と紫が同意した。


「私を呼び捨てにする時も、戦いの最中(さなか)だったし」


「そもそも(われ)は、一度呼び捨てされただけで、その後は戻ったぞ」


「……は、ははは……」


 (かわ)き笑いは、休憩スペースに(むな)しく(ひび)く。


『そうなのか……しかし()は槍。ヴァジュラさんなどと呼ばれて過ごせはせぬ。人であったことは忘れてくれ。その方が……私は、安心するもん……』


 最後の言葉は、ヴァジュラの本心だった気がした。

 人の身体を金属に変えて、この少女は世界の為にその身を(ささ)げた。

 別の世界に来たとは言え、自分がもう人間ではない事は変えられようのない事実だ。


「……分かり、ました……善処(ぜんしょ)します。ヴァジュラ」


『わーっはっはっはっ。ああ……それでいいさ』


 大笑いした後、ヴァジュラはエドガーの善処(ぜんしょ)を受け入れた。

 そしてそれを聞いていたフィルヴィーネが。


「ふむ……それならエドガーよ。(われ)の事も……呼び捨てで呼ぶがいい」


 まるでいいきっかけが出来たと、それを利用して。

 ローザはフィルヴィーネの後頭部を見ながら。


「それもいいんじゃない?」


 と、エドガーに言う。意外だ。

 そして言われたエドガーも、苦笑いしながら。


「わ、分かりました……フィルヴィーネ」


「――クックック……いいものだな。だが、人前では止めるのだぞ?(われ)は“魔王”なのだからなっ……!!」


 ドヤ顔で、何とも(むずか)しい事を言う“魔王”様だった。





 話しは進む。

 槍としての生き様をエドガーに()いたヴァジュラは、次に自分の使用者(・・・)について(かた)る。

 それは、エドガーとローザが一番気にする事であり、一番(のぞ)んだ話題だ。


()を使用するには、複数の条件が必要だ』


「……誰でも使えるってわけではないの?」


 ローザの言葉に、ヴァジュラは。


『当然だ。これは《石》の適正と同じでな……()は【勇者】の聖槍として、最難関に条件(じょうけん)を付けられたのだ。一筋縄ではないのだぞ!わーっはっはっはっ!!』


「その条件(じょうけん)……教えてくれますか?」


 エドガーはローザと(うなず)き合い、その条件(じょうけん)をエミリアがクリアできればと、意を固める。

 聞かれたヴァジュラは、嬉しそうに言う。


『そうさな……一つは勿論(もちろん)、【勇者】の資格(しかく)がある事だ。そして二つ、《石》との相性がいい事……三つ、正義(せいぎ)の心を持つ事……そして四つ、これが重要(じゅうよう)だ……』


「「……」」


 その真剣な表情(かお)?に、エドガーとローザは固唾(かたず)()む。

 そしてヴァジュラは、一呼吸おいて、四つ目の条件(じょうけん)()べた。


『最後の条件(じょうけん)……それは……――貞操(ていそう)を守る事……だっ!!』


「……え?」

「……は?」

「ふむ。神話ではよくある話だ……」


 その条件(じょうけん)に、エドガーとローザはキョトンとするも、フィルヴィーネはうむうむと(うなず)いていた。


「……エドガー」


「え?何?」


 後ろから声をかけられ、エドガーは振り向いてローザを見る。

 その赤い目は、どう見ても不審(ふしん)な目だった。

 エドガーも気付く。ローザは「エミリアに何もしてないでしょうね?」と言いたいのだと。


「……し、してないよ!この前も言ったじゃないか!!」


「そう。ならいいけれど……」


 腕を組んで、安心なのかどうなのか分からないような表情(ひょうじょう)を浮かべるローザ。

 エドガーは一筋の汗を流すも、体勢(たいせい)を戻して。


「ヴァジュラ……それなら、一人紹介したい人がいる……」


 四つの条件(じょうけん)の内、三つを()たすと自信を持って言えるその少女の名を、エドガーは推挙(すいきょ)する。

 そもそも、それが今回の“召喚”の目的だったのだから。


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