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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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136話【槍の召喚】



◇槍の召喚◇


 嬉しい言葉だった。

 別の意見で()めて、自分のために言い争ってくれる。

 それを聞いていただけで、何故(なぜ)だか心構えが出来た。


 自信もある。いや、自信しかない。

 絶対に、一度で成功させる。【異世界召喚】で、槍を“召喚”する。

 そのための準備もイメージも、何通りも考えた。


 ローザが不安がっているのも分かる。

 失敗は絶対に(ゆる)されない。

 一度きりの【異世界召喚】で、一塊(ひとかたまり)しかない【アルヴァリウム・インゴット】を失ったら、次はない。

 エミリアの事を考えてくれているからこそ、そこまで不安になってくれているのだと、そう思える。


 エドガーはゆっくりと魔法陣に寄って行き、“魔道具”を設置(せっち)していく。

 ローザとフィルヴィーネは離れて壁に寄りかかっているが、横目で(にら)み合っていた。

 それがなんだか、とても微笑(ほほえ)ましい。


「……よし。あとは中央に《石》だ……いや、今回は……」


 エドガーは手に持った《石》、【貫く電光の黄玉(インペイル・トパーズ)】を魔法陣の中央ではなく、上部に置いた。

 中央には金属塊(きんぞくかい)【アルヴァリウム・インゴット】、【雷牙錦糸(らいがきんし)】、【霊道(れいどう)(つた)】を置く。

 魔法陣の色は稲光(いなびかり)のように白く、その発光に黄色が混じっているような色をしていた。これは、黄土を塗料(とりょう)に溶かしたもので描いたのだ。


「ちょっとピリピリするな……《石》のせいかな?」


 エドガーは指先をぐりぐりさせて、微々(びび)たる(しび)れの違和感を誤魔化(ごまか)す。

 本当に微々(びび)たるもので、“召喚”には支障(ししょう)はなさそうだ。


「……っと……あっちは――あはは、大丈夫そうだね……」


 始めようとして、ローザとフィルヴィーネを見たが。

 離れていた筈の二人は再び近寄って、いつの間にかまたいがみ合っていた。


「――ふぅ」


 多少緊張する。久しぶりの“召喚”だ。

 ましてや【異世界召喚】はフィルヴィーネ以来だ。

 深呼吸をして、心を落ち着かせる。


 今、他の異世界人たちは何をしているだろうか。

 今日、槍を“召喚”する事は伝えてある。

 それでもこの場に居ないのは、エドガーが自由にしていいと言ったからだ。


 サクラとメルティナは【レオマリス・ファーム】に農作業に。

 サクヤは、何故(なぜ)か最近姿を消す事が多い。

 しかし、呼べば直ぐに姿を現したり消したりするので、多分近くにいるのだろう。


 いずれも、自由に、思うままに行動をしてくれている。

 それが、エドガーは嬉しい。

 勿論(もちろん)、今日までに何度も協力して貰ったし、毎日のように異世界のことを勉強させてもらっている。

 だからこそ、きちんと伝えたい。


<サクヤ、サクラ。サクラはメルティナにも教えてあげて欲しい……今から、“召喚”を始めるよ……以前から話してたと思うけど……槍、だよ。多分【異世界召喚】になると思う……異世界の槍っていうだけで、難しいかもしれないって思うけど……不思議(ふしぎ)と失敗する感じはしないんだ>


 イメージは完璧だ。造形も性能も、しっかりと脳裏(のうり)に浮かんでいる。


<三人共、協力ありがとう……絶対に成功させて――エミリアに届ける(・・・・・・・・)


 そうだ。エドガーは“召喚”した槍を、エミリアに届けるつもりでいる。

 聖王国から離れ、南方に向かったエミリアに、戦争(たたかい)が始まるその前に。


「……か、返ってこない」


 三人(二人)に送った【心通話】が返ってこない。

 自分の中では格好良く決めたつもりが、なんだか(むな)しい気持ちに――。


<――主様(あるじさま)。存分に、お力を発揮(はっき)してください……わたしは、害が無いように外を見張っております>


<エド君。あたしもメルも、信じているからそこにはいないんだよ。ローザさんもいるだろうしね。でも、一言だけ……成功させて、エミリアちゃんを(おどろ)かせようね!。あと、メルが「成功確率は百パーセントです」……だってさ>


「……さ、三人共……」


 ジーンとするエドガー。

 いがみ合っていたローザとフィルヴィーネにも聞こえていたようで。


「――ほれ、聞いたかローザ。其方(そなた)よりもあの小娘どもの方が、よっぽどエドガーを信じているようだぞ?」


「う、五月蠅(うるさ)いって言ってんでしょ……この引きこもり“魔王”……!!」


「おい!それはもう言うな……部屋からは出たであろうが!」


 グサグサと精神にダメージを与えあう二人。

 エドガーはそれぞれ異世界人たちの言葉を聞き、気合を入れる。


「よし……始めよう」


 そうして魔法陣の前に立ち、ゆっくりと口を開く。





「――レオマリスの血……【召喚師】の血が異界に問う。天空を(いただ)く真なる槍よ……悪を(ほふ)(いかずち)よ……(なんじ)の役目を果たさん為……今、(われ)()う。願いに応え、その真なる姿を(われ)の目に焼き付けんっ!!」


 【召喚師】の祝詞(のりと)は、今までとは全く違うものだった。

 必須項目である【供物】を(はぶ)き、その目的である「悪を倒す」と「槍」「(いかずち)」と言うイメージをしやすい言葉を並べたのだ。

 これで、人間を呼ぶことはまずない筈だとエドガーは思っている。


 エドガーの言葉に魔法陣は反応し、描かれた魔法陣からは稲妻(いなずま)(ごと)閃光(せんこう)(はっ)せられる。

 稲妻(稲妻)は魔法陣を走り、高く上がっていく。

 その熱は(すさ)まじく、【アルヴァリウム・インゴット】は魔力に反応して形を変え始めた。


「……」


 形を変え、棒状(ぼうじょう)に成形された金属塊(きんぞくかい)は、周りの“魔道具”を取り込み始め、何度も何度も閃光(せんこう)を放ち(かがや)く。

 魔法陣の中で動き始めたその影は、暴れて魔法陣から出ようとしていた。

 しかし、エドガーの魔力に(はじ)かれ、その形を何度も(ゆが)めた。


 そして、【霊道(れいどう)(つた)】【雷牙錦糸(らいがきんし)】、そして【貫く雷光の黄玉(インペイル・トパーズ)】を完全に取り込んだ【アルヴァリウム・インゴット】はより一層(かがや)きを増した魔法陣の光とともに、姿を消した。

 それを見届けたエドガーは。


「今だ!……我が名エドガー・レオマリス!!来たれ……異世界の槍!悪を()(つらぬ)く雷光!!」


 魔法陣内で暴れていたものが消え去ったのは、その姿をこの世界に定着(ていちゃく)させる為だろう。

 見守っていたローザとフィルヴィーネも、その光景(こうけい)を。


「“魔道具”の(かたまり)が、姿を消した………」


触媒(しょくばい)の役目を果たしたのだろう。魔力を集積(しゅうせき)させて、消え去り……そして戻ってくるものは」


「それが異世界の……槍だと言うの?」


「……おそらくな。我等(われら)もそうして“召喚”されたのではないか?」


 フィルヴィーネがジッと見詰めるエドガーの背は、まさしく【召喚師】と呼ばれる“不遇”職業の少年だ。しかしその背は、夢と希望、果てのない未来を背負った、一人の男の背中だった。





 光が段々収まってくると、魔法陣の中央で――カランカラン、と音が鳴った。

 三人共に「……来た」と一様(いちよう)(はっ)して、ローザとフィルヴィーネはエドガーに近付く。


「……」


「人影はないわね……これで、異世界人が呼ばれた訳ではない事は分かったけれど……」


「そうだな。だが……」


「だが、なによ?」


「……いや、なんでもない」


 (ふく)みを持たせるフィルヴィーネに違和感を覚えるも、ローザは。


「エドガー。魔力を抑えて、確認しましょう」


「うん。そうだね」


 エドガーは右手を(はら)う。

 その瞬間、魔法陣の光は一瞬で消え去り。

 魔力の余波(よは)で明るかった地下室が、暗くなる。


「……また、【明光石(めいこうせき)】が割れたみたいね……」


「ろ、蠟燭(ろうそく)を持ってくるよ……」


 エドガーの“召喚”で、再度【明光石(めいこうせき)】が壊れてしまった。

 それを見たフィルヴィーネは。


「……エドガーの魔力が上がったからだろうな。この空間は、魔力消費(しょうひ)(ほとん)どない。特別な場所なのは間違いないが……」


 目を細めて、暗がりの中魔法陣を確認するフィルヴィーネ。

 そこには、何か物体が鎮座(ちんざ)していた。

 そして、蠟燭(ろうそく)を持ったエドガーが戻り。

 中央が照らされると、そこには。


「……(うそ)……だろ?」


「……何よ、あれ……」


「――祭具(・・)だな。儀式などに使われる……伝統的なものだ」


 魔法陣の中央に置かれていたのは、到底(とうてい)槍とは思えない、金色の物体。

 その長さは人の二の腕と同等の長さであり、両先端(りょうせんたん)突起(とっき)が見られるものの、槍の穂先(ほさき)とは言えないものだ。


「――失敗……したのか……僕は……」


 魔法陣の上の結末(けつまつ)に、呆然(ぼうぜん)とする。

 当然、触媒(しょくばい)に使用した“魔道具”は、一欠(ひとか)けらも残ってはいなかった。


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