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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 2章《忍者VS女子高生》
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31話【石魔獣《ガリュグス》】



石魔獣(ガリュグス)


 エドガーの家。宿屋【福音のマリス】から早々に逃げ出したリューネは、急ぎレディルに指示(しじ)されている場所に急ぐ。

 人目に付かないように、人通りが少ない道を選んでいるリューネだが。


「もう結構離れたけど……追って、こないわね……」


 エミリアかあのローザって人が、()ぐに気付いて追ってくるものだと思ったが。

 追ってくる気配すらない状況に、リューネは逃げることが出来た。

 ――そう思ったのだが。


 不意(ふい)に、逃げてきた【福音のマリス】の方角から、夜空に走る一閃(いっせん)の赤い道。


「なに?あれ。え……?まさか――こっちに来るのっ!?」


 グングンと近付く赤い光。リューネは逃げることも忘れて、ただ立ち尽くしていた。

 赤く(かがや)く光に目を奪われたリューネは息を飲む。

 急接近してきた赤い閃光(せんこう)は、リューネの上空でパッと消えたかと思うと。


「――ぁぁああああああああっ!!」


 甲高(かんだか)い悲鳴と共に、三つの影が落ちてくる。

 一つは空き家の屋根に落ち。一つはその更に上に重なり落ちた。

 そして一つの影は二つの影と反対側、リューネを(はさ)むように見事に着地する。


「イダッ!……――ぐえっ!」

「きゃふ……」

「……っと」


「……エミリア、エドガー君……」


 リューネは、落下してきた人物達の名を呼ぶ。落下してきたのは。

 ――【召喚師】エドガー達だった。


「いったぁ……ゴメン、エド」


 エドガーの上に落ちたエミリアは、すぐに身体を起こしてエドガーから退()く。


「……いや。だ、大丈夫だよ」


 本当は少し痛かっただろうに、強がるエドガー。


「ローザ!何も投げなくてもいいでしょっ!!着地できるんならさっ!」


 リューネを追ってきた。はずなのだろうが、エミリアは何故(なぜ)かローザに()みつく。


「――バランスが悪かったのよ。無事だったのだし、いいでしょう……?」


 ローザは、リューネを見据(みす)えながらエミリアに言葉を返す。


「――っ!」


 リューネを見るローザの(ひとみ)には、強い敵対心が見える。

 今までの人生で、こんなにも威圧感のある女性は初めてだ。

 騎士の先輩達にも、指導に来る【聖騎士】にも、こんなに恐怖を感じたことは無い。


(お風呂の時とは別人ね……でも……やらないと)


 弟の(ため)に。(ゆず)ることはできない。


「――リューグネルトさん……持ってますよね、《化石》」


 起き上がりながらお腹を(さす)るエドガーに言われ。

 咄嗟(とっさ)にリューネは腰のポーチを触る。


「何のこと……なんて意味ないわよね。そうよ、私が(ぬす)んだ……」


 エドガーから顔を()らして、自白する。


「どうしてなの、リューネっ!?」


 (さけ)んだのはエミリアだ。同級生でライバルだと思っていた女の子が、大切な人の所有物を(ぬす)んだ。

 信じたくはないが、事実は目の前にある。


「さあ……なんででしょうね」


 リューネは逃げる(ため)に少しずつ距離を取ろうとする。

 だがローザの威圧に身体が萎縮(いしゅく)する。


「リューグネルトさん、返して下さい……それは、危険(・・)です」


「危険……?」

(やっぱりこれが“魔道具”なんだわ……だったら、これを持っていけば……)


 リューネの感は当たっていた。これは確実に“魔道具”だ。

 これをあの男に渡せば、弟を開放してもらえる。

 その(ため)には、どうしてもこの状況を打破(だは)しなければならない。


「そうだエドガー君。忘れたの?本当はこれ、エドガー君がくれたんだよ?――って言ったら、見逃してくれるかな?」


 絶対に通用しないと分かっていながらも。

 どんな小さい可能性にも()けるリューネは、戯言(ざれごと)と分かっていながらも口にする。


「エドはそんなことしないよ……」

「無理があるわね」


「「“魔道具”バカだもん(だもの)」」


 エミリアとローザが、即否定する。

 付き合いの長いエミリアも、まだ日の浅いローザでも、エドガーのコレクション(へき)は解っている。

 大事なコレクションを、簡単に手放すわけはないのだ。


「確かにそうだけど……バカって……」


 事実なのだ。仕方がない。


「やっぱり(うわさ)通りの変人なのね、【召喚師】って……」


 どこか悲観(ひかん)そうな表情で、エドガーを見下すリューネ。


「リューネ!目的はなにっ!?」


「言うとでも思ってるの……?」


「――嫌でも言ってもらうよっ……!」


 エミリアは屋根から飛び降り、赤い槍を構える。

 それにエドガーも続く。


「エミリア、なるべく穏便(おんびん)にいこう……」


 ここは【下町第二区画(ルーレス)】。

 路地(ろじ)の裏手とは言え、人はまだたくさんいる。

 それでなくても、ローザの炎を見た人はたくさんいたはずだし、やじ馬が集まってきたら厄介(やっかい)だ。


「うん。分かってる」


 腰を低く構え、突撃体制を(ととの)える。


「――本当に分かってる!?」


 戦う気満々のエミリアにエドガーがツッコむ。


「好きにさせなさい。エドガー」


 ローザはエミリアに賛成(さんせい)の様だ。


「私達も行くわよ。すぐにケリを付けましょう」


「――させると思いますか……?」


「なんですって?」


 三対一。圧倒的に不利なこの状況で、リューネは不敵(ふてき)に笑う。

 リューネは抜剣(ばっけん)し、エミリアを警戒(けいかい)しながらも、反対の手でポケットから何かを取り出す。

 取り出したのは数個の《石》だ。《石》と言っても、その大きさは非常に小さく、欠片(かけら)と言ってもいいサイズだ。

 しかし紫色のその《石》は、エドガー達にも見覚えがあり。


「……そ、それは!」


「……小さいけれど、あの《石》に似ているわね」


 あの《石》。イグナリオ達と戦った時の、あの紫に発光する【魔石(デビルズストーン)】だ。


「なんでそんなもの持ってるのよっ!?リューネ……!」


「エミリアには関係ないわっ!」


 そう言って、リューネは小さな紫石を地面に投げた。


「「「――!」」」


 紫石は、独りでに地面にめり込んでいき、どんどん隆起(りゅうき)する。

 そして、地面から産まれ出るように。一つ眼の怪物が現れた。


「あ、“悪魔”……!?」


「――!!……違うわエミリア。あれは……【石魔獣(ガリュグス)】……石や土から産まれる魔物(モンスター)よ」

(……どうして私の世界の魔物(モンスター)が……!)


「「魔物(モンスター)っ!?」」

「な、なに……コレ」


 エドガーもエミリアも、《石》の欠片(かけら)を投げたリューネも驚いていた。

 リューネの反応からして、何が起こるかは分からなかったようだ。

 しかし先日に続いてまた、御伽噺(おとぎばなし)に出て来るような、架空(かくう)の存在だと思っていたものが目の前に現れたというのは、確かにエドガー達には衝撃だろう。

 数日前に感じた“悪魔”への恐怖心がよみがえり、身を(すく)ませるエミリア。

 ローザは、エミリアを安心させるように言う。


「大丈夫よ……あれは“悪魔”じゃないわ。冷静に戦えば何とでもな――あ、()まれた場所は石化(・・)するから気を付けて」

(魔力が少ないこの国で、どうして魔物(モンスター)が……?)


 【石魔獣(ガリュグス)】は、ローザの世界にいる下位の魔物(モンスター)だ。

 異世界であるはずのここで、どうしてこの世界に。と考えるも。


「――今不吉な事言ったぁ!?」


 エミリアの大きな声に、考えを消し飛ばされた。


「それだけ元気なら大丈夫ね……エドガーは?――エドガー?」


 エミリアをスルーしてエドガーに声をかけるが、当のエドガーは。


「大丈夫です……」


 石と土で出来た魔物(モンスター)

 それを()の当たりにしたエドガーは、複雑(ふくざつ)な感情に(さいな)まれていた。


(何……?――エドガーのこの表情(かお)は……)


 ――怒り。ローザがエドガーから感じた、初めての感情だった。


「いけるのね……?()まれちゃダメよ?」


「――はい」


 《石》の魔物(モンスター)、【石魔獣(ガリュグス)】。

 そして、リューネとの戦いが始まった。





 戦いが始まり。真っ先に動いたのはエミリアだった。

 まるで初めから決まっていたかのように、リューネに向かっていく。


「エド!ローザ!そのガリなんとかはよろしくねっ!」


「――貴女(あなた)怖いだけでしょ!」


 (あき)れるローザだったが、エミリアの進行を邪魔しようとする【石魔獣(ガリュグス)】を確認して、それに攻撃する。


 【炎の矢(フレイムアロー)】。

 燃え広がることの無い魔力で出来た矢。その矢を、《石》の身体を丸めて魔物(モンスター)(はじ)く。

 (はじ)かれた矢は、路地裏(ろじうら)の外壁に突き刺さり、霧散(むさん)する。


「……ちっ!」


 【石魔獣(ガリュグス)】は、丸まった身体を転がしエミリアに迫る。

 大きさは人間の半分だが、硬度(こうど)は石そのものだ。

 更には魔力を()びている(ため)、中々の防御力を持つ。


(はじ)かれてんじゃんっ!」


 急ブレーキをかけて、槍を構える。

 魔物(モンスター)の転がりを待ち受けようとするエミリアだったが、その間に入り込む影があった。


「――エドっ!?」


「はぁぁぁぁっ!!」


 気合と共に、赤い刀身の剣を振り下ろすエドガー。


「……!?」


 一番驚いたのはリューネだろう。二年前まで在籍(ざいせき)していた騎士学生でも、ダントツの最下位。一番の劣等(れっとう)生だった彼が。


魔物(モンスター)を……斬った!?」


「――エ、エドっ!」


 エドガーの持つ赤い剣は、エミリアの持つ槍と同じくエドガーが(つく)り出した物であり。

 熱を発っする両刃の剣。筋力の(とぼ)しいエドガーが考えた、防御を捨てた剣だ。


「ダメだっ!――こんなの、ダメなんだよっ!」


 エドガーは、この状況に悲痛な声を上げて、(おの)が気持ちを(さけ)ぶ。


「リューグネルトさん。あなたがどんな思いでこんな事をしたのかは分からないです……何か事情(じじょう)があってのことかもしれない……でも、“魔道具”は危険なんだ……この魔物(モンスター)を見たら分かるでしょう!?」


 リューネは、エドガーの言葉に反論(はんろん)できない。

 そう。分かっている。

 リューネが使ったこの《石》の欠片(かけら)は、あの男に渡され、説明された通りに使っただけだ。

 とは言えまさか、こんな魔物(モンスター)が現れるなど、知っていたら使ったりなどはしない。ただ、今ここで産まれた魔物(モンスター)は、きっといとも簡単に、王都の人間を殺すだろう。


「エドガー君に言われなくても、そんなこと――」


「分かってないですよっ!!」


 エドガーは、リューネのセリフを遮断(しゃだん)して続ける。


「――っ!?」


「簡単に死ぬっ……人は、簡単にっ――死ぬんだっ!!」


 エドガーは母親が死んだ時、妹のリエレーネと共に騎士学校にいた。

 帰ってきた時、母は地下室で息絶(いきた)えていた。

 死因もなにも分からないまま、母は眠っているようなままに死んでいた。


 だが、死は死だ。もう母はこの世界には居ない。簡単に、人はいなくなる。

 リューネにはリューネの事情があるのだろう。でも(つた)えなくてはならない。


「エド……」

「エドガー……」


 そんなエドガーの心情を(さっ)するエミリアも、ローザも言葉にできない。

 確かにエドガーは、国に(うと)まれた【召喚師】だ。

 けれども、決してこの国を嫌いな訳じゃない。


 (たよ)れる幼馴染に妹、良くしてくれる兄貴分に従業員。

 ――そして、ローザ。

 悲しい別れがあっても新しい出会いがあった。それだけで、今いる場所を好きになれる。




 この国の騎士達が、この魔物(モンスター)とどれだけ戦えるのか、それは分からない。

 戦いとかけ離れたこの国。それがこの【リフベイン聖王国】という国だ。


「分かっているのよ……分かってる」


 リューネは悲しそうに(うつむ)きながらも、言葉を並べる。


「リューグネルトさんっ……!」


「それでも!――この国を壊滅(かいめつ)させてでも!やらなければならないことがあるの……!!」


「そんな事っ!」


 魔物(モンスター)の恐怖を国中にばら()いてでも、リューネには成し()げたい事がある。

 それはきっと、とても身勝手なことかもしれない。それでも、弟を助けたい。

 もしリューネが(おちい)った状況を、エドガーやエミリアが知ったら。


「……」

(――あなた達は、助けてくれるの……?)


「リューネ……」


 エミリアは、エドガーに思いをぶつけられるリューネを見つめるが。


「――エミリア……――ゴメンっ!」


 リューネは更に《石》の欠片(かけら)をばら()く。

 計四つの欠片(かけら)が地面にめり込み、【石魔獣(ガリュグス)】が産まれる。


「リューグネルトさんっ!!」


「エドガー。やるしかないわ、行くわよ……!」


「くそっ……」


 (くや)しそうにするエドガーをよそに、ローザが口火を切る。

 【消えない種火】から二本の剣を作り出して構え、生まれたばかりの魔物(モンスター)を攻撃し始めた。





 エドガーの説得(せっとく)でリューネが心変わりすればそれで済んだが。結果は変わらず、戦いは()けられない。


「来なさいよ、エミリア!」


 リューネが剣を構える。

 それに合わせるようにエミリアも槍を構えるが、視線はエドガーに。


「……エド」


「分かってる、魔物(モンスター)は任せて!」


 エミリアの視線に、エドガーは答える。


「――うん!ありがとうっ!」


 エミリアは構えた槍を大きく振る。赤い軌跡(きせき)が、暗い路地裏(ろじうら)に走る。

 リューネは向き合う。エドガーの言葉に。エミリアの疑念に。

 そして、弟の未来の(ため)に、悪を演じる事を誓う。


「――気に入らないわねエミリア。貴女(あなた)、私に勝つつもりなの?一度も勝った事、無いよね?」


 精一杯(せいいっぱい)悪ぶり、エミリアを(にら)む。

 しかしエミリアは、その挑発(ちょうはつ)に乗らなかった。


「勝つよ……勝ってリューネを止める」


 ――止める。

 先程。エドガーが説得(せっとく)中にローザに言われた。ある()()





『エミリア……あの子、家族は?』


『家族?……リューネは王都外の出身だから(くわ)しくは……それがどうしたの?』


 ローザの疑問(ぎもん)にエミリアは小声で答えた。

 そしてローザは。


『もしかしたらだけど……あの子、人質か何かを取られてるかも知れない』


『えっ!?』


『もし、よ……さっきからちらちらとあっちの方を気にしてる』


 ローザが視線(しせん)を送るのは、【下町第三区画(コラル)】だ。


『【下町第三区画(コラル)】……?』


 商業区画である【下町第三区画(コラル)】とリューネの接点が見つからないが。

 もしかしたらの可能性を、ローザが言う。


『あの《石》の欠片(かけら)だって、もしかしたら』


 《石》の欠片(かけら)は、イグナリオに寄生していたあの《石》と酷似(こくじ)している。 

 今回の事に、“悪魔”グレムリンを通して聞こえた声。

 少年とも少女とも取れる声の持ち主。その人物が関わっている可能性があると、ローザは思っているのだ。

 その可能性があるならば、リューネも。


『まさかっ……操られてるっ!?』


『決めつけはよくないから、頭の片隅(かたすみ)にでも入れておきなさい』


『う、うん。エドには?』


『言わなくてもいいわ。(かせ)になるだけよ……』





 ローザとの会話を思い出しながら、リューネとの戦いを始めるエミリア。


「はぁぁぁっ!」


 エミリアは助走を付けて飛び込んでいく。

 暗い路地(ろじ)に赤い軌跡(きせき)(ひらめ)き、リューネも応戦する。


「ふっ!」


 ガギンっ!!と、槍と剣の金切(かなき)り音が鳴り響き。


「ぐっ!」

「――熱っ!?」


 エミリアの槍から()れ出る熱気が、槍と剣のぶつかり合いで衝撃となり、二人を襲う。その衝撃に、二人は顔を(ゆが)めた。


「その槍どこで手に入れたの、エミリア?」


 最もな疑問(ぎもん)だが、エミリアは答えない。


「関係ないよ。戦いには!」


「っく!――なっ!?」


 エミリアは槍を引き、前のめりになったリューネに()りを叩き込む。


「――ぐぅっ!!」


 リューネは左手で()りを防ぎ、そのまま吹き飛んだ。


「まだよっ!」


 追い打ちをかけようとするエミリアは跳躍(ちょうやく)し、赤い槍を振り下ろす。


「ちぃっ!」


 回転して飛び退()き、斬撃を()けるリューネ。

 その勢いで、近くのゴミ置き場に突っ込んだ。


「……」

(な、なんだろう……いつもよりもめちゃくちゃ身体が軽い……!それに威力も!)


 エミリアが好調の理由。それは、ローザの炎の防衣とエドガーの炎の槍。

 この装備が、エミリアの基礎(きそ)能力を上げてくれているのだ。

 エミリアは、消えてしまうその装備の効果をすっかり忘れて、全力で攻撃する。


「――くっ、この!!」


 リューネも、()ぐに立ち上がろうとするが。


(ひ、左腕が……っ!)


 エミリアの()りを(かば)った左腕が(しび)れて、感覚が(にぶ)くなっていた。


「リューネ……」


「エミリア……貴女(あなた)との対戦成績だけで、油断(ゆだん)したみたいだわ」


 自嘲(じちょう)気味に笑うリューネと、先制に成功したエミリアの対戦成績は、エミリアの0勝だ。


「勝った事ないもんね、模擬(もぎ)戦」


 エミリアも自虐(じぎゃく)気味に、自らの万年二位を笑った。





 一方、エミリアとリューネが戦っている最中(さなか)

 ローザとエドガーは魔物(モンスター)、【石魔獣(ガリュグス)】と戦っていた。

 二体目の【石魔獣(ガリュグス)】を倒し、一息を()くエドガー。

 するとそこに。


「――おいおいっ……遅せぇと思って来てみれば――中々面白い事してんじゃねえかっ!!」


「――っ誰!?」


 ローザは、屋根の上からかけられた声にすぐさま反応し、【炎の矢】を()つ。

 声の主は、ひらりと()け。


「おっとあぶねぇ」


 声の主はジャンプし屋根から降りると、リューネの前に降り立った。


「――っ!?」


「よお……遅せぇからきてやったぜ?感謝しろよグズ」


「……レディル、さん」


 リューネの青ざめた顔。これを確認し、ローザとエミリアは確信する。

 エミリアはバックステップでローザの場所まで距離を取り、小声で。


「ローザ……!」

「ええ、確定ね」


「二人共っ!」


 最後の魔物(モンスター)を倒したエドガーが、二人に合流する。


「エ、エド……あの魔物(モンスター)を倒したの!?」


「え。……そうだけど……なんで?」


 やはり、まだ慣れないのだ。エドガーが強い事(戦えている事自体)が。


「当然よ、私の“契約者”なんだから」


 ふふんと、何故(なぜ)かローザが(えら)そうにしていた。


随分(ずいぶん)と楽しそうじゃねぇか……お前等……」


 レディルと呼ばれた男は、エドガー達を(なが)めながらリューネに手を差し出す。


「レディル……さん」


 リューネは男の手を取り立ち上がろうとする、が。


「あ?……おいゴラっ!!誰がてめぇの手を出せと言ったぁ!」


 男はリューネの手を(はら)いのけて、(ほほ)を殴りつける。


「あぐっ!!」


 リューネは吹き飛ばされ、再びゴミ置き場に雪崩(なだ)れる。


「リューグネルトさん!」

「リューネっ!!」


 レディルはリューネの頭を()み付け、(つば)()く。

 ()かれた(つば)はリューネの殴られた(ほほ)についた。


(ぬす)んだもん出せよっ……」


「――あ、あんたぁっ!!」


 男の暴挙(ぼうきょ)にエミリアが飛び出そうとするも、ローザに(おさ)えられる。


「うぐっ……は、離してローザっ!!」


 襟元(えりもと)を引っ張られて苦しそうにするも、エミリアはレディルに突撃しようとする。


「う。ぇ……お、落ち着きなさいエミリア!」


 エミリアの怒りのパワーに、引っ張られそうになるローザ。

 力では天と地の差がある二人だが、このエミリアの力はローザにも意外だったらしい。


「でもぉ!!」


「近寄ったらダメよ……っ!さっきの話を思い出しなさい」


 思いっ切りエミリアを引っ張り、耳元で(つた)える。


「……くぅ。――わ、かった、から……首っ、首ぃ!」


 ローザに引っ張られた勢いで、首がしまってしまう。

 解放(かいほう)されるも、落ち着かない様子のエミリア。

 歯噛(はが)みし、なんとか自分を落ち着かせようとする。

 しかしリューネの様子を見て、落ち着かせようとした心がまたざわつく。


「す、すみま……せん」


「ったく……使えねぇなぁ!」


 レディルはしゃがみ込んでリューネのポーチを(まさぐ)る。


「あ、待っ……」


 リューネはレディルの手を(おさ)えようとしたが。


「おら、あんじゃねぇかよっ!」


「――あぁっ!」


 リューネを吹き飛ばし、ポーチから《化石》を取り出すレディル。


「……へぇ」


 手に持った《化石》を(なが)め、レディルがニヤリと笑う。


「フハっ、フハハハハっ!!やるじゃねぇか、まさかこんな当たり(・・・)を引いてくるとはなぁ!!」


 リューネはレディルの足にしがみつき(すが)る。


「レディルさん!約束、約束は果たしましたっ!!だから弟を、デュードを返してっ!!」


「――弟!?」

「やはり……」

「……!」


 エドガーは驚き、ローザは納得する。

 エミリアは無言で、ただレディルを(にら)んでいる。

 その視線に気付いたレディルは、無理矢理リューネを振り(ほど)きエドガー達に。


「おーおー、怖いねぇ」


「絶対――許さないっ!!」


 槍を構えるエミリア。

 ローザは、(たかぶ)るエミリアを制し。


「貴様がその子の弟を……?」


 エミリアは怒りを前面に、今にも噴火(ふんか)しそうな程の熱量で(にら)み続ける。

 ローザは冷静にレディルの真意を問おうとする。


「ん……?あー、どうだっけなぁ……ククク、もう死んでんじゃねぇか?」


「――!!……そん、なっ……」


 リューネは絶句(ぜっく)する。


「それよりもお前だよ……赤髪(・・)ぃっ!!」


 リューネを無視し、ローザを見る。


「まさかお前みたいな奴がいるとはなぁ……()()()()がしくじる訳だ――ん、ああ。うっせぇよ!お前が言いだしたんだろうが!」


 一人で耳を(おさ)えながら、虚空(こくう)怒鳴(どな)るレディル。


「ちっ!おい、行くぞ!弟に合わせてやる」


「――は、はいっ!!」


 レディルは(ふところ)から《石》の欠片(かけら)を取り出し、(いく)つもの【石魔獣(ガリュグス)】を産み出すと。


「じゃあな、赤髪のクソ女(・・・・・・)、それに【召喚師】!魔物ども(こいつら)に食われてなけりゃあ、また会えるかもなぁ!!」


「――なっ、待てっ!!」


 レディル、そしてリューネも暗闇(くらやみ)に消えていく。

 エドガーは、二人を追おうとするも。


「待ってエド!魔物が……!」


 《石》の魔物(モンスター)は、路地裏(ろじうら)から出ようとしていた。

 エミリアがそれを食い止めようと駆け出していた。


「エドガー、今はまずアレを……いいわねっ」


「くっ……はい!」


 エドガー達三人は、魔物(モンスター)を街に出さないために、迅速(じんそく)に【石魔獣(ガリュグス)】を退治(たいじ)し始めた。





 熱を()びた剣で、魔物(モンスター)を斬り()せるエドガー。


「これで最後だ!!」


 赤い剣は、魔物(モンスター)皮膚(ひふ)難無(なんな)く切り()き、力を使い()たしながらも、最後の魔物(モンスター)を切り()せた。

 それと同時に赤い剣も、魔力を無くして消えていく。


「――ああっ!私の槍がっ!?」


 エミリアの槍も、当然消えた。


「魔力を使い果たしたのよ。私もキツイわ……二人分だし使ったのだし」


 そう言って。汗を()かないはずのローザがわざとらしく(ひたい)(ぬぐ)う。


「そうか……だから、追うなって」


 ローザの意図(いと)を理解して、エドガーが納得した。


「そういう事よ。エミリアも……(くや)しいでしょうけど、我慢して……」


「……うん。ありがとうローザ……――ん?」


 ローザに礼を言うエミリアだが、あることに気付いた。


「私もキツイって言った……?」


「……言ったわね」


 つまり、ローザが作ったこの防衣も。エドガーが(つく)った剣や槍のように。

 エミリアが嫌な予感に身を震わせた――その瞬間、ローザとエミリアの服は、赤い粒子をまき散らしながら。

 ――消え去った。


「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「わあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ここが路地裏(ろじうら)で助かったと、心の底から思ったエミリアだった。


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