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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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129話【足を滑らせたら即終了】



◇足を(すべ)らせたら即終了◇


 【リズリュー渓谷(けいこく)】の下まで降りていく。

 それが目下の目的であるが。


「さあ、私が先頭に……ノエルディアは中間、エミリアは最後の馬車を先導(せんどう)なさい。その後ろは【従騎士(じゅうきし)】の馬車だけど、私の【従騎士(じゅうきし)】であるゼレンが先導(せんどう)します」


 仕事モードのオルドリン様は、テキパキと指示(しじ)を開始し、エミリアもノエルディアも、担当の馬車の前に移動を開始しようとする。

 ゼレン少年だけが「え!俺!?」とあたふたしていたが。


「集中しなさい!落ちたら死ぬのよ!?」


「「了解!」」

「はいっ!――りょ、了解!!」


 ノエルディア、エミリア。そしてゼレンが返事をする。


「――ノエル。エミリア」


「はい」

「――はいっ」


 ゼレンは持ち場に向かい、オルドリンはそれを見届けてから二人に声を掛け。


「……時間をかけて、ゆっくりでいいから降りて行くわ。荷馬車には物資や食料が積まれているし、南への補充要因(ほじゅうよういん)も乗っている。戦争だけが任務ではないと心得(こころえ)なさい」


 【聖騎士】の派兵(はへい)が重きに置いた任務(にんむ)だが、騎士の補充(ほじゅう)や食料や日常品の補給(ほきゅう)()ねていた。

 馬車に乗っている騎士たちの命も、南の(とりで)勤務(きんむ)している騎士たちの命も、双方を預かっているのだ。絶対に、荷馬車を事故らせてはいけない。


「それじゃあ、気を付けて」


「「了解です」」


 ノエルディアもエミリアも、真剣な顔つきで担当の馬車前に向かい。

 そうして、降下を始める。




 パカラ――パカラ――パカラ――

 慎重(しんちょう)に、ゆっくりと馬車を先導(せんどう)する。

 オルドリンを先頭にし、(つら)なって進む聖王国の騎士たち。


 風の強いこの崖のような道を馬車で移動するのは、とても神経を使う作業だ。

 しかも下に降りる坂道、急勾配(きゅうこうばい)とまでは言わないが、柵もないうえに道が悪い。


「……うぅ……緊張する」


 王都の外がこの様な環境(かんきょう)だとは知らなかったエミリアは、それでなくても緊張を(かか)えていると言うのに、馬車を先導(せんどう)して歩かなければならない事に重圧(プレッシャー)にドギマギさせられていた。


「……でも」


 後ろをちらりと見る。担当馬車の後ろには自分以上に緊張した少年が、【従騎士(じゅうきし)】の仲間を乗せた馬車を先導(せんどう)している姿が目に入る。

 それを思えば、自分はまだマシだと思えた。


「しっかりしないと……!」


 きっと、馬車内の【従騎士(じゅうきし)】二人もそのほかの騎士も、怖いのは同じだ。

 しかも、自分ではどうにもならない騎士たちの方が恐怖は強いのではないかと考えて、エミリアは気合を入れたのだった。


「……高いなぁ……」

(言われた通り、落ちたら終わり。即終了……だよね)


 もしも滑落(かつらく)をしよう事なら、まさに人生即終了だろう。

 王都には、鉱山(こうざん)や小さな森林はあるものの、こういった危ない場所は無かった。

 北には【ルノアース草原】もとい【ルノアース荒野(こうや)】が。

 西には【カラッソ大森林】が。この南には、断崖(だんがい)である【リズリュー渓谷(けいこく)】がある。

 東にも、【アッシャール砂漠(さばく)】と言う砂塵(さじん)の道が広がっていた。


「よくよく考えれば、私は全然知らないんだ……王都のこと以外、他の街も村も。何も知らない」


 平和で、何の(あらそ)いもない聖王国。

 しかし、東西南北を自然の要塞(ようさい)に囲まれた国には、中央の王都以外、存在しない。

 存在しないのだ、他の街や村など。

 それを、知らない。

 王都の人間は、自分たちしかいないと言う事を、知らなすぎるのだ。





「……うわぁっ!!――あ、危なっ!!」


 強風が吹き、馬が急停止した。

 叫んだのは最後尾、ゼレン・ホロート。

 【従騎士(じゅうきし)】になったばかりの少年だ。


 前からエミリアの声で「――だいじょーぶ!?」と聞こえ、ゼレンは慌てて。


「すみませんエミリアさま!平気です!!」


 「そっかー、よかったー」と聞こえ、ゼレンは迷惑をかけなかったとホッとする。

 しかし担当馬車の中から。


「ゼレンさん!ビックリするじゃないですかーー!!」

「――ちょっとレミーユ!座ってて!!ゆ、揺れる揺れる!!」


 同僚の【従騎士(じゅうきし)】レミーユ・マスケティーエットとリエレーネ・レオマリスが、あわあわし出して。ゼレンを更に(あわ)てさせる。


「うるさいな!!なら代わってくれよぉ!!」


「私、馬乗れないですし!」

「すみません……」


 実は、二人共乗馬が出来ない。

 レミーユは貴族令嬢(れいじょう)で、乗れても不思議(ふしぎ)ではないが、どうやら家に閉じこもってばかりいたらしく、初対面時の挨拶(あいさつ)で「槍しか出来ない」と何故(なぜ)か自慢げに言っていた。

 そしてリエレーネも馬に乗れないらしく、結果としてゼレン一択だった。


「……マジで、怖ぇよ……」


 自分の乗る馬を落ち着かせて、ゆっくりと進みだす。

 前方の先輩(せんぱい)騎士たちも、待ってくれている。


「――やばっ……!ゆっくり、ゆっくりだぞ~」


 どうどう――と肩を()でて、()ぐに軍行(ぐんこう)に戻る。

 リカバリーの速さは、非常に(すぐ)れたゼレンだった。




 日が完全に沈みそうな程に進んだ頃、先頭のオルドリンが。


「見えてきましたね……もう少しですよ!」


 後ろでも、オルドリンの声が聞こえたノエルディアとエミリア、ゼレンが安堵(あんど)する。

 まるで同時に息を()くのが分かるほど、緊張が(ほど)かれていく。


「油断するんじゃないわよっ!?」


「「「――は、はい!」」」


 新米たちへの(げき)に、何故(なぜ)かノエルディアまで返事をして。

 (さいわ)いなことに何事もなく、崖を降り切るのだった。





 崖を降り切ると、そこには小さな小川と天国の(ごと)き平地が広がっていた。

 エミリアは内心で大きな安堵(あんど)のため息を()き、馬車の御者をしていた騎士を(ねぎら)う。


「お疲れ様です。疲れましたね……」


「……そうですな。ですが、わし等はもう慣れっこですわ」


 ガハハと笑う老年の騎士。

 騎士としてのピークはとっくに終えているであろう年齢の騎士は、おそらく前大臣の私兵だった人物だと、エミリアは予測する。(第1部3章【近未来の翼】参照)


 老騎士たちは多くの数が職を失っていたはずだが、こうして御車をしている所を考えると、その後の処理が最善(さいぜん)に事が運んだのだと思える。


「慣れっこって……もう何度も?」


「ええ。わしは月に一度程度ですが、他の御車をしとる奴は場数も多いでしょうな。ですが、もうまともに剣を持つ事が出来ないこの身。若者の力になれるのなら安いものですわっ。ガハハハ!」


 物資を届ける為に、何度もこの崖を昇り降りしているらしい。

 大変な仕事だが、笑って(まっと)うする老騎士には頭が上がらない思いだ。


「……」


「お嬢さん……いや失礼しましたな、【聖騎士】様は遠征(えんせい)は初ですかな?」


「あ、はい……新人なので。あと、お嬢さんでいいです……ひよっこなので……」


 笑ってそう言うエミリアだったが、少し遠くから先輩(せんぱい)騎士が。


「――駄目(だめ)に決まってんでしょ!エミリア。【聖騎士】は国のトップの騎士よ?普段はともかく、今は仕事中……その騎士もそれが分かってあんたに謙譲(けんじょう)してるのよ?」


「……うっ。すみません」


 馬上のノエルディアに(きび)しく言われ、シュンとする。

 老騎士は「すみませんなぁ」と申し訳なさそうにしているが、これが当たり前だ。

 エミリアが、誰かさんのように()まり過ぎていただけで、上下関係は当然ある。

 それがましてや国の中枢(ちゅうすう)()る【聖騎士】と一般兵の会話。

 それですら、気ままに自由に話す事は許されないのだろう。


「――ジャック・ロノール。貴方(あなた)の隊長が呼んでいます……後方の騎士たちを集めて、野営の準備をするとの事よ」


「はっ。感謝申し上げます。【聖騎士】ハルオエンデ殿」


 老騎士は小走りで後方へ向かっていった。


「……」


 エミリアの(おどろ)くような視線(しせん)を感じ、ノエルディアは。


「……何よ?」


「あ、いえ……ノエル先輩(せんぱい)、ちゃんと【聖騎士】だったんですね……」


「――ぶっとばすわよ?」


 先程まで乗り物()いしていた女性とは思えず、つい本音が()れた。


「す、すみませんでした!!」


 仕事中のノエルディアは、もしかしたら格好いいのかもしれない。そう思ったエミリア。


(あのおじいちゃん騎士の名前も覚えてたみたいだし……なんか普通に格好よかった。ふ、普段の服装とサボり(ぐせ)が強すぎて忘れがちだけど……この人、偉業(いぎょう)を成し()げて【聖騎士】に成ったんだった、そう言えば……)


 ノエルディア・ハルオエンデ。

 エミリアとアルベールの前に【聖騎士】に成った19歳の女性。

 普段のメイド服と、城での仕事のサボりっぷりから忘れがちになるが。

 この女性もまたエミリアと同じく、偉業(いぎょう)を成し()げた傑物(けつぶつ)だ。


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