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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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127話【新しい朝】



◇新しい朝◇


「ありがとうございます。マスター……」


 メルティナは外した《石》を、事前に【クリエイションユニット】で作っておいたケースに仕舞った。

 (いつく)しむ様に、自分の分身である《石》を、大切そうに胸に()いた。


「身体は大丈夫……なんだよね?」


「イエス……少し違和感はありますが、いえ……違和感と言うよりも」


「よりも……?」


 メルティナは普段から頭に着けていた、耳を(おお)うヘッドギアを外す。

 エドガーは「あ、それって取れるんだ……」と(おどろ)いていた。


 しかしそれよりも、今まで人形っぽいと思って見ていたメルティナが、何故(なぜ)だか急に女性的な雰囲気(ふんいき)(かも)し出しているように(うつ)る。


不思議(ふしぎ)ですね……この違和感、これはきっと、人の視点なのでしょう」


「視点?それって……」


 メルティナは、《石》を中心に行動、または考えを(めぐ)らせてきた。

 それが無くなって、今は完全に人間の身体のみとなっている。

 その結果、常に視界に(うつ)っていた数値やゲージが無くなり、全てがクリアな状態で見えていた。

 それは、“天使”のジャミングによって不具合を(しょう)じさせた、【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】から(はっ)せられるノイズやアラートまでも、消え去っていると言う事だった。


「とても、気分がいいのです……まるで、生まれ変わったかのように……フフっ、ワタシがそんなセリフを言うだなんて、マスター……いえ、ティーナが聞けば喜びそうな事ですね」


 前マスター・ティーナを引き合いに出して、これが人間の見ていた景色(けしき)なのだと笑う。


「……嬉しいんだね。メルティナは」


「嬉しい……なるほど、確かに。理解できます……これは、初めて視覚(しかく)()て、親を認識した赤ん坊のようなもの、でしょうか……」


「……親、か……そうかもしれないね」


 どこか遠くを見るように、エドガーは言う。


「マスター。改めて、感謝します……言葉を()くしてくれて、ワタシを一人の人間にしてくれて……ありがとうございました」


「い、いや……僕は何もっ。メルティナが、しっかり自分と向き合った結果だよ……」


「そうでしょうか……そうですかね」


「あ、そこは納得(なっとく)しちゃうんだ……」


 二人は。


「フフフ……」

「あはは……」


 笑い合った。

 メルティナの笑顔は、いろいろな事柄(ことがら)から解放された、安堵(あんど)の笑顔だったように、エドガーは感じたのだった。




「それじゃあ、僕は戻るけど……本当に一人で大丈夫かい?」


「イエス。マスターが持って来てくれた食事を取って、それから眠りたいと思います」


 部屋の外に出てから、心配する父親のようにメルティナに問うエドガー。

 メルティナも、それを笑顔で聞いているが次第(しだい)に。


「本当に大丈夫?不安だったら、やっぱり僕も、今日は朝まで起きて……」


「大丈夫です」


「う~ん。でも……やっぱり――」


「マスター。しつこいと、流石(さすが)に怒りますが」


「……」


 シュン――とする。

 しかし、瞬時にシャキッとし直して。


「……分かった。戻るよ……金属塊(これ)、ありがとね――メル(・・)


「……ノー。お気になさらずに、それでは、おやすみなさい。マスター」


「うん、おやすみ」


 ぱたんとドアを閉めて、ベッドに向かう。

 身体を何度も確かめながら。


「……ん?」


 この違和感はなんだろうか。

 なんだか、とても大切な物をスルーした気がするメルティナ。


「……」


『ありがとね――メル(・・)


 ボッ――!!

 一気に、(ほほ)が上気した。


「あ……あわ……あわわ……」


 両手を当てて、ボフッとベッドに倒れ込む。

 顔だけを起こし目を開けると、先程の少年の笑顔が浮かび上がってきた。


「あ――ばぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 (まくら)に顔を押しつけて、(さけ)ぶ。

 自分から進んで、メルと呼んで欲しいとエミリアやローマリアに言った。

 だが、そう言えばエドガーには言っていなかった。

 それが、なんだあれは。

 突然、エドガーが勝手に呼んで来た。メルと。


「……ふ、不意打(ふいう)ち過ぎます……マスター……あ、れ……マスター……ワタシ、急に……眠……く――」


 興奮(こうふん)疲労(ひろう)

 両方に一気に責められて、メルティナはそのまま――微睡(まどろみ)に落ちたのだった。





 朝。メルティナは空腹で目を覚ました。


「……平気なようですね。身体も……心も」


 胸に手を当て、トクントクンと音を鳴らす心音を確かめる。

 ぐぐぐ――と背伸びをして、二階の一室である事での不便(ふべん)な点である、(あか)りを()ける。


「朝なのに火を(とも)さなければいけないのは……この宿の欠点(けってん)ですね」


 一階も二階もそうだが、【福音のマリス】は内装が微妙(びみょう)におかしい。

 奇数部屋(きすうべや)には窓があるのだが、偶数部屋(ぐうすうべや)には壁窓がないのだ。

 天井(てんじょう)簡素(かんそ)天窓(てんまど)があるだけで、基本的には暗い。

 偶数部屋(ぐうすうべや)は宿の内側に存在する為、どうじても窓が付けられなかったのだと言う。

 欠陥(けっかん)だと言われても仕方が無い仕様だ。


「……お腹が()きましたね……昨日の――は、むぅ……」


 昨夜(さくや)エドガーが持って来てくれた食事は、食べようと思っていたその前に、気絶(きぜつ)するように眠ってしまった。不覚である。


「マスターが折角(せっかく)用意してくれたものです。食べない訳にはいきません」


 メルティナはトレーを持ち、どうにかして温めてもらおうと部屋を出る。


「……」

(《石》を外してしまった以上、ワタシは何も出来ないただのお荷物(にもつ)です……それでも、そうするべきだと信じて、信じて貰えたおかげで……ワタシは)


 メルティナは【クリエイションユニット】を腕にはめている。

 しかし、起動(きどう)はしていない。ただの腕輪の状態だ。

 今は、何も出来ない。きっと能力、【解析(アナライズ)】も発動は出来ないはずだ。

 だが、エドガーが同じ考えを持ってくれて、それを超えられると信じてくれる。

 (あせ)りはある。だが、(まよ)いはもう無い。


「おや……?あれは……!」


 一階まで下り、ロビーに出たメルティナが見たのは。

 栗色の髪の――女性だ。


 ドロシー。姓は不明。

 聞く所、「自分の国では貴族しか姓を持たない」と説明したそうだが。

 メルティナ見ている事に気付いたドロシーは、不思議(ふしぎ)そうな顔で近寄ってくる。


「……」


 昨日までのメルティナなら、彼女と目が合った瞬間に退散(たいさん)していた事だろう。


(大丈夫……ノイズも、ハウリングもありません。頭痛も眩暈(めまい)も、起きません)


 逃げていた。

 ドロシーに恐怖(きょうふ)を覚える程の違和感を感じ、それが何か理解できなくて。

 顔が()ける程に(ゆが)んだ《石》のシステムから解放されたメルティナに、もう【妨害(ジャミング)】によるまやかしは意味が無いのだ。


 しかし、認識阻害(にんしきそがい)《魔法》【魔封光(シール・ブライト)】は別だ。

 スノードロップ・ガブリエルは、確かにメルティナの《石》に《魔法》をかけた。

 それは、記憶に齟齬(そご)を与えるものであり。

 【東京タワー】で戦った人物(てんし)を、ぼやけさせるものだ。

 それはつまり、今メルティナの前にいるのは、疑惑(ぎわく)のある反応を示していた女性。ではなく、ただの一般人としてしか、(うつ)らないのであった。


「おはようございます。えっと……メルティナさんですよね?」


「……イエス。あなたは、ドロシー……でしたか……?」

(普通です。違和感も、不気味(ぶきみ)さも……何も無い。ただの優しそうな、綺麗(きれい)な女性です)


「よかった……メルティナさんが普通に話してくださって」


「……申し訳ありません。体調が(すぐ)れなかったもので」


 メルティナはぺこりと頭を下げる。

 ドロシーは「いえいえ!そんな」と謙虚(けんきょ)に対応する。


(やはり……ワタシの気のせいだったのでしょうか。それだけ、《石》が不調だった?)


 考え始めてしまっては、キリがない。

 しかし、空腹は待ってくれなかった。

 ぐぅぅ――、とメルティナの腹の虫が鳴く。昨日から数えて、もう何度目だろうか。


「……た、大変ですね、厨房(ちゅうぼう)に行きましょう。丁度(ちょうど)、朝食の準備をしていたんです」


「……そうですね……では、これを温めて、一緒に食べましょう……」


 その(さそ)いに、ドロシーはパァ――と笑顔を咲かせて。


「――そうですね!メルティナさん!」


 そうして、ドロシーは厨房(ちゅうぼう)へ向かう。

 メルティナもついて行くが、その視線(しせん)(するど)く、ドロシーの背を射抜いた。


「……ふんふん~ん」


 鼻歌交じりに、ドロシーはスキップでもしそうな(いきお)いだった。


「……ワタシの考えすぎでしょうか」


 ぼやけた顔の人物に似た反応は、もう感じる事がない。

 違和感は消え去って、メルティナの体調も良くなった。

 それをよしとするべきか(いな)かは、この先、メルティナが天空(そら)に戻った時に分かるだろう。


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